夕刻5時過ぎ。




「お疲れ~。おい照宮、何してんだ?飲み会メンバーみんな下で待ってるぞ?」


「あ~。いやなんでもない。行こうか。」


「お前、サテはまた可愛い嫁さんからかぁ?かぁ~若いってのはいいねぇ!俺のカミさんなんてもう俺の扱いがモノだからねぇ!」


スッ。

俺は携帯に送られてきた闇を感じるメッセージを同僚の成田に見せた。



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【 紅ちゃん!帰り寒いから気をつけて帰って来いよ?夜道と女にも気をつけろよ?この純白な雪と私の手がくれぐれも貴様の血で赤く染まらない事を我、祈願する次第🐰❤ 】

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「怖っ(笑) お前の嫁さん怖っ(笑) 前世は殺し屋か何かだったのかい?」


「まぁ……こういうヤツなんだよ。」


「何がまぁ、だ。澄ました顔しやがって。でもまぁ裏を返せばそれだけ愛されてるって事じゃないか。幸せ者だな。」


「みんな大事な家族だからな……。アイツもみーちゃんも。」


「ん?みーちゃん?お前二股か!!!!」


「いや違うよ。飼ってるうさぎの名前だよ。」


「へ~。うさぎかぁ。あの愛くるしい見た目にみんな癒されるんだよなぁ。俺も飼いたいけど飼育が難しいんだろ?」


「みーちゃんの世話は何でもかんでもアイツがやっちまうから、俺は時たまに餌やりと部屋散歩で遊んでやるぐらいかな。」


「その上に家事も仕事も熟す挙句美人って、お前の嫁さん万能型じゃねーかよ。羨ましい!くそ!滅べ!!!! 俺のカミさんなんて……」


「成田。成田。待てもういい。それより飲み会、そろそろ行こうぜ。」


「おっ、そうだった!よっしゃあ今日は花金無礼講じゃあ!飲むぞぉ!!」




大事な家族が待ってるからな。一次会までにしておくか。もちろん、夜道にも気をつけながらな。






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「はぁ、はぁ……。」



夜道に宙を走り回る……人影?



この寒い夜の冬空の下、壁を伝い・ビルからビルへ飛び移る……人影?



ピンポーン。


「どうも毎度ありがとうございます。ムーンピザです!」


「あらあら寒い中どうもご苦労さま。それにしてもお姉さんずいぶんと早いのねぇ。ついさっき電話注文したばっかりなのに。」



「ありがとうございます。ウチは速達が売りですから…。」


「お腹空いてたから有難いわぁ。いくらだったかしら?」

「1600円です。」


「はい丁度ね。じゃあまたお願いね。どうもぉ。」


「ありがとうございます。またのご利用お願い致します。」







「さて……」



壁を伝い、夜の街を飛び舞うその姿はヒトのそれとは思えない。ムーンピザと名乗る配達員。


今日も夜の街を華麗に

飛び舞う。




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私の仕事はとある事務のパート。
時給1100円。まぁ関東地区なら平均よりも水準は良いと思う。

朝9時に始まって午後2時に終わる勤務。


仕事が終わって私は買い物をしに近くのスーパーへ立ち寄った。
軽い食材を買い、雑誌を一冊購入し、


「これ、みーちゃんに買ってこ!」


ドライフルーツお得用バナナ&パイン

この量で320円ならコスパ的には控え目に言って最高だと思うの。うーんレビューするなら星五個!

こだわりの戦利品を携えて家に帰宅。


ガタッガタガタッッ。


「はいはい。ただいま~みーちゃん。準備したらお散歩行くからね~。」



私とみーちゃんの付き合いは長い。私が16歳で実家にいた時にみーちゃんは我が家へ来た。
と言うよりも実家の裏に小規模の空き地があるのだが、そこの草地に一匹、どこからか迷い込んで来て倒れ込んでいたのだ。

野生、若しくは捨てられたのだと素人目で簡単に判断出来るぐらい体は傷ついており、生まれて数日であろう小さな小さな子うさぎが、あんな人気のない寂しい空き地に放置されていたのだ。

私はすぐに子うさぎを抱えて家へ走り、両親に事情を説明し市内の動物病院へ向かった。


警察にも行き、飼い主の有無を調べたけども何も手掛かりは得られず終い。


それからゆく宛ての無いこの子うさぎを私は保護する事に決めた。
出世払いをするから!と譲歩案を出し、両親に頼んでお金を出してもらい保護する為の健康診断や治療などを子うさぎに受けさせた。


おっと、とりあえずこのお話はここまで。
ちょっと長くなったけど、要するに私とみーちゃんの絆を持ってすればある程度の言葉のやり取り・キャッチボールは出来るんだよって事!(ぴーす)


「さぁ行こうか!みーちゃん!」

私はみーちゃんにラビットウェアとハーネスを装着させてとりあえず抱っこする。

すると、高めの音程で

「……プゥプゥ。」


鳴いた!
っていうよりうさぎには声帯が無いから鼻を鳴らしたりする音の代用なんだけどね。

でも滅多に鳴かないから何にせよ聞こえた時は顔が緩んじゃう。


「おやおや。ずいぶんと嬉ちそうですね~。可愛いヤツめ!このっこのっ!」


私はみーちゃんを生まれたての赤ちゃんを抱くように優しく包み込むように抱いた。



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【     還り道
              ~白の宝物~     】
                                
                                           姫神 碧





   《第2話:家族》


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プァーー。

【騒然とした関東の駅で電車を待つ二人の女子高校生がいた。】


「えっ?ミコ……あんたそれやばいんじゃない?」

「でもあたし確かに見たんだよ。配達員の女の人が空中を渡ってビルからビルに移動してたのを!」


「うん。やっぱりやばいね……あんたのアタマが。」


「……いや、あたしも普通に考えてそうだと思うよ!でも実際見たんだからさ!神田の近くのビルで!」


「そうかそうかぁ。ウチモミタカッタナァ。」


「ちょっ、後半棒じゃん(笑) そうだ!ハルミ!じゃあ今から探しに行こうよ!」


「そんな都合良く見つけられるワケないと思うけどなぁ。まぁでもショッピングがてら付き合ってあげるよ。」


「よーし!レッツゴー配達員!!」

「はぁ……。」



【午後4時。東京の冬空からは間もなく陽が落ちようとしていた。】


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私とみーちゃんはとことこゆっくり歩くみーちゃんにスピードを合わせての“うさんぽ”を楽しんでいた。

うさぎの外散歩・通称うさんぽ は吠える犬がいないか等、うさぎのストレスになり得る要因を一つ一つ取り除く確認作業を怠らない様にしてあげないといけなかったりするから結構大変なのだ。


そ、れ、に、し、て、も、

ん~。この短い前足で地面を一生懸命歩いている姿が何ともたまらないわ!

気疲れ苦労なんて吹き飛ぶ可愛さね!



「みーちゃん、そろそろ休憩しよっか。」


私はみーちゃん用のお弁当として携帯型のラビットフードとお水を与えて公園のベンチに腰掛けた。

時刻は間もなく夕刻4時になろうかという所。
紅ちゃんももうすぐ帰ってくる時間だ。

あ、そういえば今日飲み会だって言ってたな……ちっ!。
どうせ若い女の子にデレデレするんだろうなぁ!エロ紅ちゃん!


私が一人嫉妬の炎で炎上していると足元にみーちゃんが寄ってきた。


「……みん。」


「んん~?寒いから早く帰ろうだってぇ?良いであろう!」

完全に個人解釈が先走っているが私はそう判断した。
根底は無い。


私はみーちゃんと帰り道を歩き始めた。その瞬間、


「あ……雪だ。」


空から降る一億の星、では無く
冬からの白いギフト。


「今日は降らない予報だったのになぁ。ねぇみーちゃん。寒いから早く帰ろうねぇ。」


帰り道、
私はとーっても優しくて気の利く彼女だから
紅ちゃんに帰り気をつけてね、そうLINEしておいた。
このメッセージに悪意は決してない(笑)




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青天の空模様に跳ね回る1匹の白い光。

私はその光の持ち主。

「みーちゃん!帰るよ~!」

私がそう呼び掛けるとお行儀の良い彼女は私の元へ走ってくる。

「お~よちよち。今日の晩ごはんはニンジンにしまちゅからね~」

彼女の名前は【みるく】

毛並みが鮮やかなライオンうさぎ。白い体に時折栗毛の毛色を混ぜたメスのうさぎ。
彼女は生後間もなくに我が家へ迎え入れ現在、8年間健在で、今は私達二人と小さなアパートに住んでいる。



私には同棲をしている彼がいる。付き合って5年になる彼は見た目に合わないインテリ系サラリーマンといった感じ。


「ただいま~。」

気だるさそうに私がそう呟く。
それと同時にみーちゃんが部屋の中へと颯爽と駆け抜け、ケージへと帰っていく。

「おう。おかえり~。またみーちゃんと散歩行ってたのかよ。」

居間からこれまた気だるさそうな声でレスポンスを返すのは私の彼。

「うむっ!みーちゃんも私もお腹ペコペコざます!ご飯作ってあるざます!?」


「なぜ急に山の手言葉になる…(笑) もちろん作ってないけどな?」

「おこざます!!!!!!!!」

「じゃあみーちゃんにはニンジンとレタスのカットご馳走、お前はイワシご飯な。」

「激おこざます!!!!!!!!!!!!」



こんなくだらないやり取りが今の我が家になりかけて間もなく1ヶ月です。みーちゃんを入れて二人と一匹 生活。

私はこんな楽しい日々がこれから毎日続くと思ってた。思わずにはいられなかった。





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【     還り道   
              ~白の宝物~     】
                                
                                  姫神 碧





   《第1話:日常》


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「起きて紅ちゃん。会社に遅れますよー。」

早朝6時。

私の彼、紅輝(こうき)27歳会社員が起きる時間。そんな彼を起こす事が私の朝の日課と言いますか、仕事と言いますか。

彼が顔を洗っている合間に私は一汁三菜のちょっとした朝食を用意する。意外と私はできるオンナなのだ。

自分で言っててはワケはないんだけどね。
そんなこんなで紅ちゃんが洗い場から入ってきた。


「……なぁ。」
「……ん?」

「今日ちょっと会社の飲み会で遅くなるからメシは用意しなくて大丈夫だぞ。」

「んー。了解。」

カップルの会話にしてはあるまじき冷め具合に見えるけど5年も経つと不思議とこんな感じになるんだよねぇ。


ガタガタッッ。

「あらみーちゃん!おはよう!」

ご飯そっち抜けで私はみーちゃん宅(ケージ)へ特急便を走らせる。だっしゅ!


起きて早々ラジオ体操がてらグルーミングを始めるのは流石綺麗好きと言った所。
うさぎは薄明薄暮性なので朝に起きても夕方迄は結構寝たり起きたりを繰り返してるのよね~。


「みーちゃん、今日はお仕事から帰ってきたらお散歩行くからね~」

「また行くのかよ。みーちゃんもこの冬の寒い中勘弁してくれって言ってるぞ……。」

「紅ちゃんは職場のオンナと楽しくどーぞぉ(にっこり)」

「うわっ。すっげぇ顔(笑) そんなんじゃねーから!(笑)」



ギャーギャーワーワーと喧しくなる私達二人を他所にみーちゃんは
「また始まったわね。やれやれ仕方ないなあ。」

と言った具合にくしゅん!と一つくしゃみを立てた。





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