帯広、釧路と1泊2日で出張してきたところ。
当地の老人ホームでは、いずれも入居者のお花見を、いまこの時期に行い、あるいは、企画していた。
十勝の春は遅く、それよりさらに道東の春は遅い。
…私も人通りのない町中を歩いていて、まだ細い若木ながらも満開の桜が、1本、大通り沿いの街灯に照らされているのに出会った。
チシマザクラという品種だそうだ。
はからずも夜桜見物、しかし夜気はひんやりしている。
記念に写真を撮ろうとしたが、どうしてもうまく撮れなかったうえ、トイレに行きたくなったので、そこそこに、予約していたビジネスホテルに向かった。
しかし、なんとなく、ひとつかみの星くずみたいな桜だった。
写真が撮れなかった代わりに下手な俳句を作った。
「満開のチシマザクラの若木かな」
…まさにそのまんま。作った、てほどのもんじゃないな、こりゃ。
でも、夜桜の写真どうすりゃ撮れんのか……これも一応五七五です。
平成最後の日、といったって、なにか特別な日というわけではない。
安倍政権が、たんに、この日に天皇陛下を退位させるとしただけの日で、季節の節目でもなければ、革命とか、戦争の終わりとか、エポック・メイキングな節目というわけではない。そして、この広い世界で、アジアの片隅日本でだけ起こる世がわりに過ぎない。
私は今日も普通に働いて、普通にダラダラした。
だが、そうは言っても、多少の感慨がないわけではない。
平成。自分の人生の過半と重なりあう30年。
こういった気持ちになれるのも、世界で今を生きる我々だけ、ということ。
しかも、さっき安倍政権が…と書いたが、天皇が議院内閣制の総理大臣によって退位させられ、元号も天皇の意向に関わらず、総理大臣がほとんど自分の趣味で選んだものに変わる。冷静に考えると、これは、もしかして、天皇制の終わり…といったら×だが、少なくとも、民主主義による天皇制の克服を意味するんじゃないか!…っとハッとしたりする。
いや、逆に、令和発表の顛末を見てると、皇室の政治利用のきな臭さ、復古的な胡散臭さを感じないこともない。そりゃ、安倍総理は、自ら挨拶したとおり、天皇皇后両陛下に感謝するしかなかろう。
…とかなんとか考えてるうちに、時は令和になってしまった。
町の声とかでも、やたら、感謝という言葉が乱発された平成最後の日だった。
…で、part2。先陣を切ったのは「東京タワ ー」
子どもの運動会に熱狂する父親役(小門真也さん)と母親役(堀江あや子さん)のナイス・コンビ。
「東京タワー」とは、子供たちの組体操のことだが、それが、なんともワクワク実況中継され、part 2の観客は早くもキャストの術中にはまり、舞台に引きずりこまれてしまうのだった。

第2話は「メイドのみやげ」
老人向けメイド喫茶(!)にある中年女性(天笠有紀さん)が面接にきた。お相手は、いたって現金な店長(藤岡悠芙子さん)。アラフォーながら夢見る乙女のようなそのメイド志願者が、高齢者を癒して自分も生き甲斐を見出だしたいと語るストーリー。
月島にはほんとにこんな店があるんだろうか。すぐ近くの佃島に住む高齢者の私としてはものすごく気になるとともに、これまた存在感抜群のお二人のあのメイド姿が脳裏を離れず、昨夜の夢にまで出てきてしまうのであった。

さて、第3話「ぬれぎぬの手ざわり」は、痴漢の容疑をかけられたサラリーマン(山岡三四郎さん)が、法律事務所を訪れ、美人弁護士(糸原舞さん)と裁判対策をするうち、「実は私やりました…」と懺悔する物語。しかし彼が「やった」というのは女性の手を握った…それだけ、というのである。これが果たして痴漢になるのか、ならないのか…。
ところで、私も、たまたま今、ある痴漢冤罪事件に取り組んでいるのである! その最中にこんな作品に出会ってしまい、本当に驚いてしまった。
私の依頼者である被告人P君だって、糸原さん扮する、凛々しくて聡明でいかにも仕事ができそうで、そして、美しい弁護士にきっと弁護をしてもらいたいことではあろう。だが、正義感の強さでは私も彼女に負けないつもりだ(カッコツケオバカ!)。
山岡さん、糸原さんという知る人ぞ知る名優が紡ぎ出す、非常に緊張感ある、実にしまった舞台でした。

第4話は、本オムニバスの総タイトルともなっている「リボン、ちゃんと結びなさい」
ある高校教師(大谷典之さん)が出張先のホテルにデリヘル嬢を呼んだら、それが昔の教え子(磯崎美穂さん)だった、という笑えぬ笑い話。大谷さんのいかにもこりゃ参った…という教師の表情、他方、磯崎さんの悪女というか、小悪魔というか、その大谷さんをもてあそぶような、とんでもないヘルス嬢。掛け合いが実に巧みで、永久保存版にしたいような作品であり、演技だった。
だが、磯崎さんみたいな元女学生、たしかにいました、どっかに! …いや、あれはもしかして磯崎さんだったのか!?

さて、いよいよ掉尾を飾るのは、第5話「ヴィンテージ・オブ・1998」
サークルの同窓会が終わり、流れで後輩女性(登嶋絵美子さん)のマンションに上がり込んだ先輩(河原雅幸さん)。
四十路にさしかかった女性は、独身のまま、経済的には満ち足りた生活を送りつつも、学生時代、一夜をともにし将来を誓い合った(と彼女は信じてたが、じつは自分を手玉に取った)その先輩のことが今なお忘れられない。その彼女を、先輩(40過ぎてなお、バンド・デヴューする夢を追っているという。)は、なお金づるにしようとする…。
以前、糸原さんの名演でも見たことある、サキやモーパッサンにも引けをとらない珠玉の短編。
あえてpart2の白眉といおうか、今回は登嶋さんが――役作りによほど努力されたと思う――アラフォー女性の悲哀を、ほんとに見事に演じていたし、河原さんが、登嶋さんのあまりの熱演を冷ますような練達の演技で「救いのないとこを救って」くれていた。こちらも実に感銘的でした。

かくしてジグジグ リボンちゃん…合計10話のオムニバス。ほんとうにいずれも甲乙つけがたい熱演、名演の連続、大いに堪能させていただきました。
ツィッターとか、SNS上の演劇ファンの反響も見てるのだが、どれもこれもすごく好意的、好評で、絶賛の声また声。拍手喝采の嵐じゃないですか。連日満席になるだけある。
…だが、私は不思議なのだ。それなのに、なぜ、だれもこう、声をあげないのだろうか、「part3が見たい!」と。
…しかし、かくして私のゴールデンウィークは終った。