フロントで「いちかわひさしです」と名乗ったら、「喫煙室、ご一泊ですね」と意外な答え。生まれてから一本もタバコ吸ったことない私が、よりによって喫煙室など予約するはずはない。
私は憤然、猛抗議しようかとも思ったが、なにかの間違いでいちいち声を上げる気力など、いつもお世話になってる依頼者Bさん達とちがって持ち合わせない。まぁいいや…と、カードキーを受け取り、部屋に上がった。
しかし、ドアを開けた途端、ムワァーッという煙草臭に襲われる。喫煙室ってのは、ただタバコを吸う人…ってんでなく、とことんタバコを吸う、吸わずにいられない、吸って吸って吸いまくれ! …そういう現代社会ではほとんど行き場を失った人たちのための「聖地」なのだ。
いやぁ、こりゃ想像以上にムセる。たまらず窓を開けた。すると、十勝帯広のモワァッとした夜の空気が押し寄せてきた。そう、今日はここ北海道もたいへんな猛暑。
もっとも、さっきまでいた釧路は、それでも最高気温27度。地元の人は、アツイアツイと言ってたが、35度の東京から来た私には実に過ごしやすい爽やかな陽気に思えた。しかし、100キロそこらしか離れていないここ帯広は本土顔負けの暑さ。私はたまらず窓を閉め、クーラーを全開にして、2階の大浴場に逃げ込んだ。(つづく)
午後、横浜地裁で裁判があった。
その帰り、錦糸町まで横須賀線のグリーン車に乗ることにした。わたしにとってのささやかな贅沢である。
そして、まだ日が高いというのに、車内で缶ビールと柿ピーを買い、遅めの昼食とする。
最近車内販売はすたれる一方だか、普通列車のグリーン車ではまだ車内販売をしてる。そして、この時間、ビールなんか飲む人いないから、逆に冷蔵庫にしまわれてた缶ビールはとても冷えているのである。外は気温35度だ。
もっとも私はお酒はあんまり飲まない方。一缶飲み干すと、すっかり眠くなり、新川崎を過ぎたあたりから東京駅か新日本橋に着くくらいまで、グッスリと寝てしまう。だが、そのひとときが至福の時間なのだ。
こうして目覚めた私は、再び仕事へと立ち上がる。私を頼ってくださる数少ないお客様のために!
私の大好きな8月が幕をあけた。
私はいろんなものを集めている。その中のひとつに団扇のコレクションがある。
団扇といっても、集めてるのは外でタダで配ってるのとか、なにかの景品のとかで、ちゃんとお金を出して買わなきゃならないようなのは集めていない。
先ほど近所のコンビニに寄ったら、入り口に、あるアニメの団扇が並べてあって、カップ麺を二つ買うと、この中から好きなのをくれる、とあった。私は、ぜひこの団扇を手に入れたい、カップ麺なら無駄にならないし…と、団扇ほしさにカップ麺を二つ買うことにした。
ところが、レジに行ったら外国人の店員が団扇のことを忘れてるようだ。で、私から、「団扇をくれるんじゃなかったのですか」と聞いたのだ。
そしたら、彼は私の前に、なにやらクジの入った箱を持ち出してきて「どうぞひいてください」と言う。たかが景品の団扇のためにクジをひかなきゃなんないのか? よくわからないながらクジをひいたが、どうやらそれは乃木坂だかけやき坂だかの景品が当たるクジであって、そしてもちろん私はハズれた。
なぜ還暦間近になってそんなクジに手を染めなきゃならないのだ。しかし、その外人店員は、いかにも「残念ですね。お気の毒。せっかく引かせてあげたのに」みたいな顔。と同時に、私のことを、その乃木坂だかのためにこの暑い中わざわざカップ麺を買いに来た、どこかの熱狂的なアイドル・オタクとみなしてるのがありありだった。いや、私がほしいのは彼女らのクリアファイルでもキーホルダーでもない、ただあそこに並べられてるあの安っぽいアニメの団扇なのだ! …と、心の底から叫びたかったが、そのたどたどしい日本語の外人店員相手では無意味なのは明らかだった。いや、実は彼ももしかしたら吉本興行所属の売れない芸人かもしれないじゃないか。
テレビはじめマスコミも、最近とたんに吉本をブラック扱いしだしたが、そんなら、そんなとこの所属芸人、使うなよ、と言いたい。そもそも出演者との間できちっとした契約書作ってない番組、私はたくさん知ってるぞ。
…私はアニメの団扇に未練を残しつつも、そのコンビニをあとにした。決してアニメオタクでもなければアイドルオタクでもない、ひとりの団扇オタクに過ぎないのだが。
さて、最後に一句
配布用団扇どさりと段ボール
(花火大会とかの街角の光景。…といいながら、実は私のコレクションをよんだだけの句。)