29歳で死んだ詩人
T.レックスのことを初めて知ったのは、マーク・ボランが亡くなったという記事だったと思う。その後にラジオで、明るいんだか、能天気なんだか、狂ってるんだか、何とも変な歌い方をする、単純でやたらにうるさい音楽を聞いた。
ただ、当時はまだいたいけな少年だったこともあって「変なの」という感想で終わった笑。
それからしばらくして高校生くらいで初めて買ったT. Rexのレコードは、『Great Hits』というベストアルバムだった。正直に言うとブギタイプの似たような曲が多く、最初の頃は気に入った何曲か以外はあまり聞かなかった。
当時はダークな感じのニューウエイブが全盛期で、暗い10代の自分には「何となく良い感じだけど、ちょっとワンパターンすぎだろ」という感じだったかな。
その印象は、しばらく後にオリジナルアルバム『Electric Warrior』を聞いてまったく変わった。このアルバムはいろいろなタイプの名曲が入っていて、T. Rexの良さがとても良く分かる。それ以来、ティラノザウルス・レックスを含めて大好きなバンドになった。
The Groover
T.レックスそのものであるマーク・ボランの音楽性は幅広い、初期のファンタジーっぽいアッシドフォーク、中期のエレクトリック・ブギー、後期のゴージャスなホワイトソウル。
売れるために音楽性を変えたというよりも、マークが周りの人の影響を受けながらアルバムごとにバンドの性質を少しずつ変えていった印象を受ける。
T.レックスの前身だったティラノザウルス・レックスは1967年から1970年まで存在していた。いま聞くと、指輪物語のようなファンタジー小説とヒッピーカルチャーとイギリスの伝統音楽やフォークミュージックを混ぜた感じで、アルバム『ユニコーン』などを聞くと、独特でとても面白い。
マーク・ボランは、最初から人間界の外に子どもをさらっていくピーターパンや妖精のような雰囲気を持っていた。特に初期の曲を聞くと、ピンク・フロイドをつくったシド・バレットとどこか似た感じもする。
She Was Born To Be My Unicorn
カルト的な人気はあっても一般には売れなかったティラノザウルス・レックスは、1970年にT. Rexと改名し音楽性もエレクトリック・ブギへ大きく変化した。そしてデヴィッド・ボウイとともにグラムロックのブームをつくり、すぐにイギリスのスーパースターになる。
グラムロック時代のT.レックス最盛期には、第2のビートルズと言われていたそうだ。とてもオリジナリティの高いヒットを短い期間に何曲も連発した初期ビートルズになぞらえたんだろうな。その通りかもしれない。
この時代のT.レックスは、最初期のビートルズ、フー、キンクスと同じくらいのオリジナリティと若者への影響力がある。マーク・ボランの死後に、T.レックスが何度も高い評価がされているのは当然だと思う。
20th Century Boy
T. Rexとクラムロックのブームはあっという間に終わってしまった。ある種の輝きは失ったが、それでもアルバムの内容は最後まで悪くはなかった。
ブームが終わった後、しばらくしてパンク世代から再評価を受け始めた1977年にマークは奥さんが運転していた自動車の事故で死んだ。
当時29歳だったマークがもう少し生きていたら、もしかすると次はニューウエイブやヒップポップを取り入れていたかもしれない。そんなことがあったら今度は誰とバンドを組んでどんな音楽を演奏していただろうか、とちょっと妄想する。
「Cosmic Dancer」は特別な名曲だ。かつてコンサートでモリッシーとデヴィッド・ボウイの2人が歌っていたこともある。弦楽器を入れずにマーク・ボランが一人で演奏するこの映像は、本当に素晴らしい。
ぼくは12歳の頃に踊っていた
ぼくは12歳の頃に踊っていた
ぼくは外に出て踊っていた
ぼくは子宮から出てすぐに踊った
ぼくは子宮から出てすぐに踊った
そんなに早く踊ることっておかしいかな?
ぼくは墓穴に入ってすぐに踊った
ぼくは墓穴に入ってすぐに踊った
そんなに早く踊ることっておかしいかな?
Cosmic Dancer
どこかオスカー・ワイルドのようなイギリス特有の知性と詩的な感覚を持っていたマーク・ボランは、ただのロックスターではなくイギリス的な詩人でもあったんだろうな。
もう少し生きていたらいろいろな可能性があっただろうと思うが、マーク・ボランは自分が予言した通りの29歳で亡くなり、ユニコーンのように伝説の存在になってしまった。


