ツイン・ピークスとB-52's
ジュリー・クルーズを分かる人は少ないかもしれない。1990年代に一部で大ヒットしたアメリカのTVドラマ『ツイン・ピークス』の歌姫といったら思い出す人もいるだろうか。
『ツイン・ピークス』はデヴィッド・リンチが監督したダークなドラマで、2017年には約25年ぶりの新シリーズも放映された。1960年代前半にスターだったロイ・オービソンの復活のきっかけも、その前のデヴィッド・リンチの映画『ブルー・ベルベット』だった。
『ブルー・ベルベット』にも関係していたジュリー・クルーズは、『ツイン・ピークス』のテーマ曲「Falling」で一躍スターになった。
Falling
ジュリー・クルーズはアメリカ人の女優・歌手で、1989年に最初のアルバム『Floating into the Night』をリリースした。
このアルバムの曲はすべてデヴィッド・リンチが詞を書き、リンチの映像で音楽を担当したアンジェロ・バダラメンティが曲をつくり、ジュリーが歌っている。
どこか歪な突然変異みたいなこの素晴らしいアルバムのことは、いまでもときどき思い出して聞き返す。
「Rockin' Back Inside My Heart」の映像もデヴィッド・リンチらしさが満載だ。ただ効果音多めの映像はやりすぎな感じもあって、音楽だけのほうが好きかもしれないな。
Rockin' Back Inside My Heart
1950年代をモチーフにしたようなノスタルジックで退廃的な音楽と映像は、とてもアメリカ的だと思う。成熟して腐っていった19、20世紀的なヨーロッパの退廃とは違った、「表面上だけにすべての価値がある」「そのすぐ裏はどんな酷いことになっているか分からない」という洗練の方向に向かわないアメリカ的なダークさは、どこかアンディ・ウォーホールやスティーブン・キングを思い起こさせる。
1991年にヴィム・ヴェンダースが監督した作品『夢の果てまでも(Until the End of the World)』には、エルビス・プレスリーの「Summer Kisses Winter Tears」のジュリー・クルーズ版カバーが入っている。これもリンチとバダラメンティのプロデュースだった。
ちなみにこのサントラは、ルー・リード、トーキング・ヘッズ、ニック・ケイヴ、R.E.M.、ジェーン・シベリーなど、このブログで紹介した多くのミュージシャンが曲を提供していてとても良い。機会があったら聞いてみて欲しい。
Summer Kisses Winter Tears
ジュリー・クルーズは人生で4枚のオリジナルアルバムをリリースし、リンチとバダラメンティのプロデュース作品の後は、いくつかのエレクトリック・ユニットへのゲストヴォーカルや映画のサウンドトラックへの参加など、多くのミュージシャンとコラボレートした。
その中でも1970年代後半にデビューしたポストパンクっぽいバンド、B-52'sへツアーメンバーとして参加したことは、彼女にとってもとても良いことだったようだ。(ちなみにB-52'sは凄いバンドなのだが、日本でそれを知る人は少ないかもしれない)
B-52'sの「Channel Z」の楽しそうなライブなどでは、彼女の別の面を見ることができる。
Channel Z B-52's with Julee Cruise
ジュリー・クルーズは、2022年に65歳で亡くなり、その年の12月にはアンジェロ・バダラメンティも85歳で亡くなった。
彼女たちが創ったアルバム『Floating into the Night』は、映像が付くとかなり退廃的で暗い感じだが案外それほどでもないので、ぜひ聞いてみて欲しい。(人によっては十分すぎるくらいに暗いかもしれないけど)
一つの時代をつくったヴィッド・リンチの影響力はとても大きく、その作品の影から抜け出すことは難しかったと思うが、ジュリーは不幸なカルトスターになることなく幸せな人生を送ることができたようだ、それはとても良かったと思う。R.I.P. Julee
The Nightingale