Prefab Sprout ‐オールド・マジシャン | 100nights+ & music

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2020年の1年間に好きな音楽を100回紹介していました。
追記)2023年になっても見てくれる人がいて驚きました、感謝を込めて?気が向いた時にときどきまた書こうかと思います、よろしく!

 

ポップミュージックの隠遁者

 

 プリファブ・ストラウトはいつも忘れたころに姿を現して、そうすると決まって彼らの音楽を遡って聴きたくなるバンドだった。 

 初めて聞いたアルバムは、1985年に出たセカンドアルバム「スティーヴ・マックイーン」。確か何かの雑誌で読んで輸入盤のレコードを買ったんだと思う。作りこまれた繊細なポップ・ロックアルバムという印象で、似たバンドが他に思いつかないような個性が気に入った。

 

 すべての曲を書くパディ・マクアルーンは、一般的な分かりやすいメロディを書く人ではないのだが、エルビス・コステロのようにデビューした頃からソング・ライティング能力を高く評価されていた。

 

Goodbye Lucille #1

 

 次のアルバムは少し忘れかけた3年後の1988年に発売され、ブルース・スプリングスティーンに象徴されるアメリカンロックをディスったような内容だった。1970年代のスプリングスティーンが好きだったから若干複雑な気分になったけれど、まあ言いたいことは分かる。

 パディ・マクアルーンにとってのアメリカは特別なもので、その憧れはどこかファンタジーに近いんだろう。

 

 その次の年にサードアルバムになるはずだった、骨格だけで出来た少し地味な「プロテスト・ソングス」を出して、1990年に(彼らにしては)早くも5枚目のアルバム「ヨルダン: ザ・カムバック」を出した。

 

 作曲能力の高いパディ・マクアルーンは、曲と同じようにアルバムもコンセプトを立てて細部にこだわりながら制作する。この後のパディは創作活動の迷路に入っていくが、このアルバムはアルバム・コンセプトといろいろなタイプの曲が高いレベルで一致した傑作だと思う。

 

We Let the Stars Go

 

 セカンドアルバム以降は、優秀なミュージシャンでもあるトーマス・ドルビーがプロデューサーとしてバンドをハンドリングしていたのだが、パディが一人ですべてをコントロールするようになってから、複数のアルバム・コンセプトと膨大な曲の断片ばかりが増えていったという。

 6枚目のアルバム「アンドロメダ・ハイツ」が出たのは7年後の1997年になっていた。この頃のパディは、ひたすら自前のスタジオ「アンドロメダ・ハイツ」に籠って音楽をつくり続けていたらしい。

 

 プリファブ・ストラウトの個性の一つは、女性ボーカルのウェンディ・スミスの声だった。

 かつてパディの恋人だったらしいウェンディも、さすがに付き合いきれなくなったのかこのアルバムを最後に、バンドを辞めてしまった。

 

 2001年には7枚目の「ガンマン・アンド・アザー・ストーリーズ」をリリースした。このアルバムは古い時代のアメリカへのオマージュのような雰囲気がある良い作品だが、かつてのような同時代性はもうない。

 

 21世紀に入ってからはプリファブ・ストラウトのことを思い出すことはあまりなく、ものすごく久しぶりに彼らの名前を見たのは2016年の「クリムゾン/レッド」だった(2009年に出ていた、その前のアルバムには気が付かなかった)。

 

思春期 なぜそうなるんだろう?

誰かに聞いてみたい、どうやって知ればいい?

それは ぼくが歌って、そして忘れてしまった歌

もうずいぶん前に

 

Adolescence

 

 2010年代に出した2枚は、1990年以降に作成した曲の断片をパディが一人でまとめ直したものになっていて、作詞、作曲、演奏も彼だけになっている。

 緻密なコンセプト・アルバムではなく、打ち込みの音も良いとは言えないし昔と何か大きく変わった訳でもないのだが、プリファブ・ストラウトのことを忘れた頃、久しぶりに聞いた「クリムゾン/レッド」はとても気に入った。

 彼の音楽には、いつも瑞々しさと特別な「光」みたいなものがある。

 

 ただ録音機材が30年前のAtariというのは、アナログのヴィンテージじゃないんだから何とかしてもらいたいと強く思う(泣)。白くなった長髪と髭で偏屈な爺さんみたいなルックスになっているが、仙人になるにはまだ少し早いだろう。

 誰かが良いプロデューサーと十分な資金をパディに提供して、もう一枚だけでいいから最高のアルバムを出してくれないかな。

 恐らく世界中の少なくない人がそう思っているだろうから、それはいつか実現するんじゃないだろうか。

 

Old Magician