ホリー・ナイト
このブログも2020年も終わりに近づいてきた。
クリスマス・ソングの代わりに2人のオヤジが歌うデュエットをいくつか紹介しようと思う。心が洗われたりはしないだろうが、時間があったら聞いてみて欲しい。
ポーグスのシェーン・ムガウアンは、若いころから続けてきた不摂生な酷い生活のせいで、2018年に行われた60歳のスペシャル・コンサートではヘロヘロで車椅子に乗っていた。
そのコンサートでは、ニック・ケイブ、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピー、ジョニー・デップ、U2のボノ、シネイド・オコーナーなど、多くのミュージシャンがシェーンの作った歌を演奏した。
シェーンはその音楽を通して、とても多くの友人から彼の人間性と才能を愛されてきたことがよく分かる。
シネイド・オコーナーとシェーンは、かつてシェーンがポーグスの時代に映画「シド・アンド・ナンシー」のために書いた”ホーンテッド“をデュエットしたことがある。
シェーンのドラッグ中毒が酷くなった時に、警察に突き出したのはシネイドだったという記事を以前に見た。シェーンもシネイドも危うくセックス・ピストルズのシドのようになりかけたことがあったが、何とか生き残っている。
Haunted
シェーンは、ポーグスの最初のベーシストだったケイト・ オーリアダンや亡くなったカースティ・マッコールなど、たまに女性とデュエットすることがあり、そこではいつもシェーンの良い面が出ているような気がする。
おそらくシェーンは女性に優しんだろうな。シェーンの書いた最も美しい曲のひとつ“レイニー・ナイト・イン・ソーホー”を聞くと、とてもそう思う。
シェーンが作ってカースティ・マッコールと歌った“フェアリーテール・オブ・ニューヨーク”はポーグスの最大のヒットになり、そしてイギリスの国民的なクリスマスソングになった。
メロディとストーリーはとても美しいんだが、「お前はとってもきれいだ」とか「あんたはとってもハンサムよ」と言っていた若い二人が、年を取って「ヤク中の淫乱ババア」とか「汚いウジ虫野郎」みたいなことを言い合う歌詞がBBCなどで毎年のように問題になっている。
クリスマスにはサンタクロースや愛と平和を求める人が多いだろうから、まあしかたないな(逆にこれが国民的な歌になる方が不思議だと思うんだが)。
俺にだって別の人生があったはずだ
「そうね、みんな同じことを思ってるわ
あんたが私の夢を奪ったのよ
私があんたを最初に見たときにね」
その夢なら俺がまだ持ってるぜ
俺のと一緒に置いてあるんだ
一人じゃそれは叶えられない
お前のそばで俺の夢を叶えるんだ
Fairytale of New York
ニック・ケイブも、ときどきデュエットで曲を出している。
「ザ・グッド・サン」に入っている“ザ・ウイ―ピング・ソング”では、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのブリクサ・バーゲルトと大人と子供の役回りを演じながら、女性と男性、子どもと父親の嘆きについて歌っている。
お父さん、なぜすべての女性は泣いているの?
彼女たちは、みんな男のために泣いているんだ
それじゃあ、なぜすべての男性は泣いているの?
彼らは、女が泣くから泣いているんだよ
これは嘆きの涙の歌
しかし俺はそう長くは涙を流したりしないだろう
The Weeping Song
ニックの殺人の曲ばかりが入っている「マーダー・バラッズ」には、女性ゲストとのデュエットが2曲入っている。
一曲は同じオーストラリア出身のカイリー・ミノーグ。アイドル系の歌手だと思っていたので最初は違和感を持ったが、彼女の声と素晴らしく出来の良いミュージックビデオを見て印象は一変した。(ここでは紹介しないが、ミレイの「オフィーリア」を下敷きにしている)
もう一曲はイギリスのミュージシャン、PJハーヴェイ。彼女は特別なミュージシャンの一人だと思う。1992年から現在まで強い個性と才能で良い音楽をつくり続けている。
PJハーヴェイとデュエットしている"ヘンリー・リー“は、以前に紹介した”ザ・コース・オブ・ミルヘイヴン”と同じメロディーを持っているが、こちらはバラード調になっていてかなり印象が違う。
カリー・ミノーグとのデュオが愛する男に殺される女性がテーマなのに対して、こちらは離れていく男性を女性が殺害して井戸に投げ込むという曲。
Henry Lee
最後に紹介するのはシェーン・ムガウアンとニック・ケイブのデュエットで、曲はとても有名なルイ・アームストロングの”ホワット・ア・ワンダフル・ワールド“。
この曲はベトナム戦争の時代に書かれ、1987年の「グッドモーニング・ベトナム」という映画でさらに多くの人に知られるようになった。
映画では、主人公の戦場DJがこの曲をラジオでかけ、同じときにのどかなベトナムの農村をアメリカ軍が爆撃している、というシーンで使われている。
この頃のシェーンは、バンドを首なってばかりでボロボロの状態だった。おそらくニックがシェーンに持ち掛けたこの企画では、ニックがとても気を使いながらシェーンの復帰の一歩を何とか手伝おうとしていることがよく分かる。
いつだって世界は最悪なことが多いが、そこから何とか明るい方を見ようとする姿勢は、オスカー・ワイルドの「We are all in the gutter, but some of us are looking at the stars (俺たちはみんな溝の中に落ちている、だけどその中の何人かは星を見ているんだ)」という感覚に近いのかもしれない。
シェーンとニックが歌うこの曲を聞くと、そんなことを考える。
What a Wonderful World