The Smiths とThe Blue Hearts -社会を変えたメッセージ | 100nights+ & music

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2020年の1年間に好きな音楽を100回紹介していました。
追記)2023年になっても見てくれる人がいて驚きました、感謝を込めて?気が向いた時にときどきまた書こうかと思います、よろしく!

 

新しい価値観を開拓したロックバンド

 

 スミスとブルーハーツは近い時期に活動していて、ほぼ同時に聞いていた。

 パンクロックに影響を受けたイギリスと日本の2つのギターバンドは、最初からはっきりしたメッセージを持っていて「社会の価値観を変えた」という面で似たところがあると思う。

 

 スミスがデビューした1982年頃は、パンクロックが終わりニューウエイブの時代に入っていろいろなタイプのバンドがデビューしていた。

 

 スミスはすぐに特別なバンドになった。

 ジョニー・マーのつくるシャープでシンプルな美しいギターサウンドと、モリッシーの陰気で攻撃的で文学的な歌詞は、デビュー直後から一部だが熱狂的に支持された。

 

 モリッシーは、男性的だったり、いわゆる健全だったり、カッコいい不良だったり、陽気で友人が多かったりする人気者とは逆の人物のことを、悲惨なユーモアを交えながら自分のこととして歌っている。

 

 モリッシーのメッセージは、「たとえ内向的すぎて人と上手く付き合えなくても、LGBTだったとしても、ルックスがいまいちでも、何か障害を持っていても、それの何が悪い?」。

 そして、「社会の期待する輝かしい姿に適合することが難しい人だって感情があり、そのままで社会に受け入れられて当然だ、周りに合わせる必要なんかない」ということだったと思う。

 

 「一緒にいてつまらなかったり、あなたにとって価値のない人」だって一人の人間なんだというメッセージは、そんな気分の人たちに初めて光をあてた。

 スミスの最初のシングル“ハンド・イン・グローブ”には、モリッシーのマニフェストのような歌詞がついている。

 

手を組もう

陽の光は、ぼくたちをのけ者にする

ぼくたちはボロの中に隠されているかもしれないけれど

あいつらが決して手に入れられないものを持っているんだ

 

だから手を組もう 

ぼくは自分を貫き通す、息の根が止まるまで戦う

あいつらが君の髪に触れたとしたら

息の根が止まるまで戦う

 

だけど自分の運命のことはよく分かっている

多分、君にはもう二度と会えないんだろうな

 

Hand In Glove

 

 イギリスとは状況の違う日本では、1985年にデビューしたブルーハーツがちょうど逆の感じで価値を変えてしまった。

 「メッセージはない」と盛んに話すこのバンドは、子どもでも分かるものすごくシンプルな価値観を恥ずかしげもなく正面から歌うというところが斬新だった。

 彼らが凄いのは、そのことを「新しい発見」という感じで意識していたことだと思う。

 

 当時「迷走王ボーダー」という、ボロいアパートで貧乏生活をするオヤジと無職と学生がカッコつけながらグダグダするという内容の、レゲエやヒッピー臭い感じのマンガがあった。

 その中のオヤジがブルーハーツを聞いてやたらに感動するシーンがあって、小難しいことが大好きなオヤジ世代がこのシンプルさに感動するんだ、と意外に思ったことを覚えている。

 

 自分自身もニューウエイブを中心に聞いていた陰気な時代だったので、シンプルな理想と自身のネガティブな部分も含めた正直さを歌にした、ものすごく分かりやすいパンクロックに最初は違和感を持った。

 「おいおい“人にやさしく”って曲を、パンクバンドが皮肉抜きで演奏するのって本気かよ」と思ったが、ブルーハーツの甲本ヒロトと真島昌利の作る曲は「そのものすごい単純さが何より大切なんだよ」と言っているようで、何曲か聞くうちにすっかり好きになった。 

 

 “情熱の薔薇”という曲は、そのシンプルさと真実さが特に際立っていると思う。

 

情熱の真っ赤な薔薇を

胸に咲かせよう

花瓶に水をあげましょう

心のずっと奥の方

 

情熱の薔薇

 

 スミスとブルーハーツは、いろいろな部分がとても似ていて、まったく違っている。

 恐ろしく悲観的でウジウジしていて攻撃的で、しかし何かとても元気づけてくれるスミスと、恐ろしく単純で少し歪でバカ正直で、ストレートに心に響いてくるブルーハーツは、いま思うと自分の中の世界を広げてくれた。

 

 世界中の10代が一度はこの2つのバンドを聞くと良いと思う。多分その中には、少しだけ本当にこの音楽が必要な人がいるはずだから。

 

What Difference Does It Make

 

終わらない歌