少年は戦ってオヤジになった
ジミー・ソマーヴィルは1980年代半ばにブロンスキー・ビートというグループでデビューし、その後にザ・コミュナーズというグループを経た後は、ソロでずっと活動している。
保守的なイギリスで自分がゲイであることを強く打ち出し、そして大成功した最初のミュージシャンの一人としても一部で有名かもしれない。
基本的にダンスミュージックをベースとした曲を、もの悲しくソウルフルなファルセットで歌っている。彼の声は一度聞くと忘れられない。
デビュー曲の“Smalltown Boy”は、世界中の疎外感を持った10代に、セクシャリティや時代とは関係なく共感されていく音楽だと思う。
学校、友人、家庭のどこにも居場所がない少年が生まれた町を出て行く映像は、ゲイではない自分にとっても切実さを感じさせるものだった。
Smalltown Boy
コミュナーズの“There's More To Love (Than Boy Meets Girl)”は、タイトルからして明らかにゲイのための歌なのだが、映像では性別不明な男女が楽しそうに踊っている。攻撃的にならないこういう感じは、とても良いと思う。
映像込みで、この曲が一番好きかもしれない。どこか美しい夢のようだ。
There's More To Love (Than Boy Meets Girl)
見るからに気弱な少年のようなジミーは、一方で社会と戦う姿勢を強く持ち続けていた。
コミュナーズというグループの名前には、「フランス革命のパリコミューン支持者たち」という意味もあるのだろう。ロゴは2人の男性の顔が赤い星の中に描かれていて、2枚目のアルバムタイトルは「Red」だった。
常に社会と戦う姿勢を持ちながら、一方でセクシャルマイノリティには限らない、社会的に弱い立場にある人たちに対する優しい眼差しを失わないことが、ジミーの音楽の特徴でもあると思う。
Tomorrow
そういう人が残酷な音楽シーンで生き残れるとは思っていなかったが、1989年に初のソロアルバムを出してから、インターバルは置きつつも音楽活動をずっと続けている。
1995年の「Dare To Love」に入っている、“by your side”は、とても彼らしい曲だと思う。
by your side
今回の文章を書くために、ジミー・ソマーヴィルをyoutubeで聞いていたら、ピアノだけをバックにして“Smalltown Boy”を歌う、2014年の映像が出てきた。
スローテンポの曲を続けるのもどうかと思ったのだが、感慨深くなったのでつけておこうか。
かつてひ弱で自信がなさそうな少年だったジミーが、いまはヒゲの中年オヤジになって自信と確信を持って同じ曲を歌っている。
世界中の子供時代に疎外感を持っていた中年に、時代とは関係なく共感されていく音楽だと思う。
Smalltown Boy Reprise 2014