★白鳥の王子3 | エゴイストな好奇心

エゴイストな好奇心

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ようた兄が部屋に
入ってきた。

「ちか。大丈夫か?」

「ようた兄…」

「病院のひろし兄から
連絡があって、かあさん
命は大丈夫だって。
ただ、後遺症でマヒが
残るだろうって話だ」

私は、ようた兄の
話をただ黙って聞いて
いた。

「ちか?」

ようた兄は私の様子が
おかしいと気づいた
ようだった。

私は、秋子おばさんの
手紙をようた兄に渡した

「読んで!」

「え、だってこれは
お前あてじゃ…」

「よ、ん、で!」

ようた兄は、しぶしぶと
秋子おばさんの手紙を
読み始めた。
私は、その間手紙を読む
ようた兄を見つめたまま
その場に立っていた。

ようた兄は、手紙を読み
終えると封筒に戻し
私に返した。

「ようた兄!」

部屋を出て行こうとする
ようた兄を
私は呼び止めた

「何、勝手なこと書いて
るんだよなぁ?ちか。
そう思うんだろ?」

ようた兄は、背中を
向けたまま呟いた

「この手紙に書いてある
こと…私…しげるとは
…ようた兄?」

「知ってた…」

「だったら…」

「獣医の試験近いんだろ
獣医になるんだろ。
かあさんも無事だったん
だ、だから。」

「ようた兄…」

ようた兄は、部屋を
出ていってしまった。

私は、やっとわかった
ずっとずっと
ようた兄が好きだった
と。

秋子おばさんは、
右の手足と
顔に少しマヒが残った
ひろし兄とけんじ兄が
協力して病院通いと
リハビリの手伝いをする
ことになった。

ひろし兄は近くに住んで
いたし、
けんじ兄の事務所も車な
らすぐの所だったからだ

病院は、ひろし兄の
奥さんの勤めている
ところに転院した。

経過が順調なら
私が卒業する頃には
自宅に戻れるだろうと
いう話しになり。

「ちかが戻ってくる頃
にはこの家は、完全
バリアフリーになってる
なぁ」

とけんじ兄が言うと

「けんじが建築やったの
もこのためだったのかも
しれんな」

ひろし兄が答えた。

私は、ふたりに
おばさんをお願いします
と言って帯広へ戻った。


私は、とにかく獣医
になることだけ考えて
残りの大学生活を
過ごした。


その間、ひろし兄や
けんじ兄が秋子おばさん
の様子をメールしてく
れた。

そして秋子おばさんも

"おばさんもリハビリ
頑張るから
ちかちゃんも頑張って"

とメールをくれた。


ようた兄は、あれから
何も言って来なかった


春、私は無事に獣医の
資格を取って卒業した

下宿先を片付け
一日だけお礼を兼ねて
春子さんの家に泊まった
春子さん夫婦は、お祝い
といってご馳走を用意
してくれた。

翌日、別れの朝

「秋子に早く元気に
なってって伝えて。
それから、ちかちゃんは
私の娘でもあるんだから
絶対、また遊びに来てね
絶対よ!」

といってギュッと私を
抱き締めた。

細身の母や
秋子おばさんと違い
ふくよかな春子さん
の身体はやわらくて
すごく安心できた。

まだ雪が残る帯広から
家に帰ると、近所の
桜が満開だった。

「ただいまぁ~」

玄関で私が声をかけると

「おかえり。」

出迎えてくれたのは
ようた兄だった。

「ようた兄…ひとり?」

と私が聞くと

「まあな…」

と言って私の荷物を
リビングに運んだ。

リビングで
落ち着いた私に
ようた兄がお茶を運んで
きて向かいのソファに
座った。

特に話すでもなく
じっとようた兄が私を
見ていたので…

「なに?」

と怪訝そうに聞くと

「確か、動物病院の
勤務は来月の半ばから
だったよな?」

「そうだけど…」

「じゃあ、一ヶ月くらい
は暇だよな?」

「手続きとかで2、3日
必要だけどあとは暇と
言えば暇だけど…なに?」

ようた兄の様子は
明らかにおかしい。
いつもと変わらないフリ
はしているがどこか
落ち着きはない。

「そうか、じゃあ、
来週からイタリアに
けんじ兄の設計図を
冬子さんに届けにいく
から付き合え。」

「えっ?」

「仕事だから、旅費やら
もろもろは経費で出して
くれるから心配ない」

「ちょ、ちょっと
ようた兄。何いってるの
私、全然
意味がわからないん
だけど…」

私がそう言うと
ようた兄は、あ、そっか
と小さく呟いてごそごそ
とズボンのポケットから
小さい箱を出した。

「ま、なんというか
これからは、妹として
じゃなくてだな。
えー、俺の嫁さんとして
側に居て欲しいんだ。
だから、これ。」

ようた兄が、そういって
箱を開けると
小さなダイヤがついた
指輪が入っていた。

「ようた兄…これって」

「そ、そういうことだ」

ようた兄の顔は、真っ赤
だった。

私は何の反応も
しなかった
というか突然すぎて
出来なかった。

「ちか?」

ようた兄が、私の顔を
覗きこんだとたん。
涙がどっと溢れてきた。

「やっと、やっと言って
くれたー。」

私は泣きながら叫んで
いた。

ようた兄はそんな私を
見てあわててティッシュ
を渡すと

「で、返事は?」

と聞いてきたので
私は、ティッシュで
顔を押さえながら
うん、うんと頷いた。

その瞬間。台所から

「よっしゃあ~っ!」

という叫び声と共に

ひろし兄、けんじ兄
たくみが飛び出してきた

「よーし、よくやった
よくやったぞ。ようた」

とひろし兄。

「いやぁ、ハラハラ
させるなぁ。ようた。
あ、ちか。イタリアは
新婚旅行だからな。
楽しんでおいで」

とけんじ兄。

「ちか姉。これで本当に
姉さんになったんだね」

とたくみが抱きついて
きた。

ふと見ると
ひとり足りない。
私はティッシュで鼻を
かむと

「しげるは?」

と聞いた。

「しげる?あーあいつは
なー。」

ひろし兄はそう言って
二階に続く階段の方を
見た。

「いつまでもガキ
なんだよなしげるは。
中学の時と一緒だ。
ちかと結婚したいなら
俺に勝て~とか言って」

けんじ兄が言うと
たくみが続けた。

「竹刀持って昨日、
近くの公園にようた兄を
呼び出したんだけど、
剣道じゃ俺が有利だ
とか言って竹刀じゃなく
て拳で勝負しちゃったの」
するとようた兄が、拳を
前につきだして。

「けんかじゃ俺に勝てた
ことないからな。
ボコボコにやられたって
わけ。と言っても俺も
一発はくらったけどね」

と言って上着の裾を
持ち上げると脇腹の
辺りに痣があった

「しかし、しげるは
全然成長してないなぁ」

ひろし兄が言うと
みんながどっと笑うので
私もつられて笑って
しまった。

「うるせぇんだよ!
バカ兄貴!」

二階からしげるの叫び
声が聞こえた。

「顔が痣だらけで
カッコ悪いから
ちか姉に会えないん
だよ、しげる兄」

たくみが私の耳元で
囁いた。

「さて、二人の結婚の
報告をしにかあさんの
ところに行くか。
うちで今か今かと
待ってるからな」

ひろし兄はそう言うと
二階にあがっていき
すぐ降りてきた。

「しげるに留守番頼んで
きたから」

私たちは、ひろし兄の
車に乗り込み。
秋子おばさんが待つ
ひろし兄の家へ向かった

ひろし兄の家でベッド
に寝ていた秋子おばさん
は私たちの顔を見ると
身体を起こした。

「ちかちゃん。
おめでとう。
ようた、よくやった。」

右足のマヒが、思った
よりひどく立ったりする
のは難しいので
おばさんはベッドに
座ったまま私たちと
話をした。

「おばさん。こんなに
嬉しいことない。
こんなに幸せなこと
ない。」

何度も何度もそう言って
おばさんは泣いていた。

「私も、私も嬉しいよ」

私は、少し小さくなった
おばさんを抱き締めて
一緒に泣いた。

その夜、私とようた兄
は私の部屋にいた。

「イタリアに行く前に
明日から一緒に東京の
俺のマンションに来て
もらう。
東京の仕事を辞めて
けんじ兄の所で営業を
やる事にした。
そうすれば、ちかもあの
動物病院で働きやすい
だろうし、かあさんの
面倒だって兄さんたちに
協力できるだろ?」

ようた兄は、あの日から
その事をずっと考えて
いたようだ。

「3日くらい、俺と
ふたりきりになるけど」

「あ…そっか」

私は、ようた兄から
恥ずかしさで目を
そらした。

「ま、とにかく明日
早いから今日はもう
寝ろ。」

ようた兄はそう言って
部屋から出ていこうと
したが、戻ってくると
私のおでこにキスをした。

「今日はここまで、
おやすみ。」

ようた兄は、すごい
速さで部屋から出て
いった。

私は、おでこに熱を
感じながら眠りについた

翌日から、ようた兄の
部屋の片付けを手伝っ
たのだがもう一ヶ月前
くらいから準備していた
らしく部屋はほとんど
片付いて、最低限の生活
できるものだけが
置いてある状態だった。

「ようた兄。この箱は
全部ゴミ?」

私が聞くと。

「そうだけど。ちか、
もうようた兄は
止めなさい夫婦なんだ
よ俺たち。」

「無理だよ。10何年も
そう呼んでたし、夫婦に
なったのだってつい
さっきじゃん!」

私たちは、ここへ来る
前にとりあえず入籍だけ
済ませた。

結婚式は、秋子おばさん
のリハビリがもう少し
落ち着いてからする事に
したからだ。

ようた兄は、夕食に
出かけるついでに
いろいろ案内してくれた
働いていた会社のビルに
よく飲みに行った店。
夜食を買ったコンビニに
たまに料理するために
寄ったスーパー。

私は、いろんなようた兄
の姿を想像してひとり
嬉しくなっていた。

片付け最終日。
最後の箱詰をしていると

「おーい、手伝いに
来たぞ~」

とけんじ兄が部屋に
入ってきた。

後ろから、しげると
たくみも着いてくる。

「トラック借りてきた
から荷物積み込むぞ」

けんじ兄はそう言って
たくみの持ってきた台車
に段ボールを積み上げた

「しげる。顔、腫れてる」

私が言うとしげるは
両手で顔を覆い。

「ようた兄、手加減
しないから。」

と言った。

荷物を積み終えた私たち
が家に戻ると
秋子おばさんとひろし兄
が出迎えてくれた。

実は、けんじ兄が手頃な
土地を探してくれてそこ
に家を建てる予定なのだ
がそこが完成するのは
かなり先なので
それまではこの家で
暮らすことにした。

「いいの?ちかちゃん。
たくみみたいなお邪魔虫
いるけど」

秋子おばさんが言うと

「僕だって、来年からは
ちか姉と同じ大学で帯広
に行くんだから。いいの」

とたくみが反論した。
たくみは別の大学に
通っていたのだが、
どうしても獣医に
なりたいと私と同じ大学
を受験しなおすのだ。

「たくみが獣医になる
頃にはようたはきっと
パパだな。」

ひろし兄が言うと、
ようた兄は私の顔を見て
どうかな?と囁いた。

しばらくして私と
ようた兄はイタリアへと
旅立った。



つづく