ほら、君にだって経験があるだろう?
卒業前とかにみんなで二十歳になった自分へって手紙を書いたんだ。
そうして、学校の桜の木の下に埋めておいた。
缶か何かに入れて、ビニールかなんかで包んでね。
それに、そう、僕はその時に大切にしていたサッカー選手のカードを入れておいたんだ。
ベルマーレにいたときの中田英寿のだよ。
将来きっとプレミアがついているんだろうと思ったんだ。
そして、ほら、実際に彼は世界に羽ばたいた!
プレミアには行かなかったけれどな。
それに今じゃ旅人をしている!
手紙の内容か。
そうだな、実は自分でもよく覚えてないんだ。
いや、覚えていたら、わざわざ埋める必要ないだろう。
あぁ、そういうことか。
うん、僕らはハタチになったときに、仲間と桜の下を堀りにいったんだ。
僕はすっかりそんなこと忘れていたんだけど、仲間の一人がちゃんと覚えていたんだ。
彼はハタチになったら掘り起こすことを心待ちにして生きてきたらしい。
まったく暇なやつだろう?
ほかに夢中になることがなかったんだろうかね、まったく。
確か田中くんだっけな。
ともかくどこにでもいるような名字の子だよ、うん。
眼鏡をかけていて、ひょろっとしている田中くん。
そう、彼が言い出すものだから、成人式のあった夜に集まったんだ。
みんな昼からどこかでビールを飲んでいたみたいでべろべろでね、そんな連中がスコップを持って集まったんだ。
目撃した人がいたら何事かと思ったろうね。
そうして僕らは夜の学校でせっせと桜の下を掘ったんだよ。
ここ掘れワンワンみたいにな、うん。
けれど掘った穴からは何も出てこなかった、小判も何もね。
わざわざ1メートル近くも掘ったのにだ。
けど、桜の下って言っても確かに360度あるわけなんだよな。
僕らが掘ったのは校舎側の60度程度だった。
みんな桜の下っていうことだけははっきり覚えていたけれど、桜の下のどのへんかまでは覚えていなかったんだ。
校舎側だったか、はたまた校門側だったか、いやいや、うさぎ小屋側だったか。
てっきり埋めるなら校舎側かと思ったんだけどな。
こればっかりは考えても分かるものじゃないだろう?
だから、僕らはその穴から桜を中心にクルッと右回りに掘り進めていったんだ。
180度ほど掘った時にカンっと何かに当たった時は歓声をあげたよ。
みんなワクワクして最後のひと掘りをしてね。
大の大人が20人、掘り起こした缶をぐるっと囲んで、せいので開けたんだよ。
そうしたらだ。
なんと、僕らのものじゃなかったんだな。
見事に知らない人たちの缶を掘り当ててしまったんだ、参ったよ。
しかもまだ随分と新しいんだ。
だって、もう、クリスティアーノロナウドのカードとか入ってるんだ。
みんなどっと力が抜けちゃって、座り込んでしまってね。
けど、ふとその穴から空を見上げたらさ、桜がすごく綺麗だったんだよな。
ほら、僕らは穴を掘るためにライトも持っていたし、それがちょうどよく桜を照らしていたんだ。
あんなに綺麗に感じた桜はほかにないよ、うん。
夜桜なら中目黒のだって何度も観たさ、ほら、君とだって去年行ったじゃないか。
でもなんだか違うんだよな。
疲れていたからか、穴の中から観たからなのかはわからないけれどな。
それからのことか。
もう僕らにそれ以上、穴を掘る気力はなかったさ。
あの桜を見せてくれたことがきっと10年前の僕らからの贈り物なんだ。
僕らはそう思うことにしたんだよ。
ちょっとロマンチックすぎるかい?
まぁ、たまにはいいじゃないか。
けど今でも僕は不思議に思うんだ。
そもそもどうして僕らは右回りに掘り進めたのか。
あの時、右回りじゃなく、左回りにしていればどうだったろうか。
いや、左回りじゃなくても、両方向に掘り進めていっていればどうだったろうかってね。
もしかするとすぐに見つかっていたかもしれない。
いや、よそう。
掘り起こせなかったことがいい方に働くこともあるんだ、きっと。
掘り起こした結果、とんでもないことが起こったかもしれないものな。
例えば、ヒデのカードがとんでもないプレミアもので、それを売って大金を手にした僕は人生を狂わせてしまうんだ。
たまにいるじゃないか、宝くじ当てた人が転落人生送ったりさ。
そう。
そうなんだ、だから僕は手紙を読んでいないし、もちろん内容も覚えていない。
でも、そうはいっても僕自身が書いた手紙だよ。
なんとなくは分かるさ。
人ってのはそう簡単に変わりはしないもんさ。
ハタチになった僕へ。
元気にやっていますか。
きっと僕のことだから、大した苦労もなくうまくやっているんでしょう。
宇宙飛行士になる夢は進んでいますか。
もしかしたらもうなっちゃったかな、飛び級制度ができてたりして。
けどね、もしまだ宇宙飛行士になってなくて、もし他に夢が見つかったら、諦めてもいいです。
ハタチになった僕が本当にしたいと思うことをしてください。
僕もいま自分がしたいことを精いっぱいするよ。
P.S. もう初エッチは済ませましたか?
大人すぎるって?
そんなことないさ、言ったろう、人ってのはそんなに簡単に変わらない。
僕らだって大人のふりしてるけど、思考は中2くらいで止まってるんだ。
もちろん今から10年後だって20年後だって僕らはそうは変わってないさ。
10年後の僕らの関係?
なんでそういう話になるかな。
僕らは変わらないとは言ったけれど、そういう意味じゃないだろう?
いや、そうじゃないよ。
変わっているわけないじゃないか。
いや。
もしかしたら変わっているかもしれないな。
何があるかなんてわからないものな。
ほら、10年後は。
夫婦になってるかもしれないだろ?
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今回はあまりふざけてはいけないテーマだったかもしれません。
自分が出したテーマですし。
けれど、どうしても書きたい衝動を抑えきれませんでした。
でも、言いたいことはちゃんと盛り込みました。
いまやりたいことをしっかりやれってこと。
これは10年後の自分にもそうだけど、今の自分にも、これからの自分にも、ずっと言い聞かせたい。
少なくとも今日はそれがしっかりできたかと。
待て、次回。