僕の親父はもう定年しててね。
今じゃおかんの実家のある兵庫に家を建てて、まさに悠々自適の生活をしてるさ。
朝起きてのんびり株価を眺めて、気が向いたら庭の手入れをして、ふらっと遊びにくる親戚の子(僕のいとこの息子さ)と遊ぶ。
夜は親戚のおやじが酒を持って集まって、カラオケなんかしてるんだ。
誰も傷つかない平和な村さ。
だだっ広い田んぼが広がっていて、夜なんか星がものすごくきれいなんだ。
そこに来て僕の弟までもその新しい兵庫の実家に住むことになった。
あいつも随分と思いきったことをしたもんだよ。
もともと大阪に配属されていたから関西で働くことに抵抗はなかったんだろうけれど、
それにしたってあいつだって小、中、高、大とこっちで育った人間だよ。
友人も少ないあの兵庫で実家に住みながら、資格を目指しながら働くことに決めた。
大したものさ。
僕にはまだそこまでの決断はできない。
こっちに大事なものがあるから、なんて自分に言い聞かせて、何もできていないのさ。
そう、親父は終の棲家をあそこに決めたんだ。
親父だって大分の山奥で育って、確かに大学は兵庫だけれど、兵庫で生まれ育ったわけじゃない。
あくまでおかんの実家があそこにあって、たまたま譲ってくれる土地があったってだけさ。
それなのにあの場所に決めた。
もしかしたら弟もなんとなくはそう決めたのかもしれない。
年に一、二度帰るだけの場所だったあの兵庫の田舎に。
僕の終の棲家は、正直まだ決めきれない。
親父のように定年後は田舎でのんびりなんてのもいいかもしれないとは思うよ。
余力があれば、その田舎で趣味程度のカフェでも開いてね。
みんなが決断していくなかで、少し焦りもある気もするけれど。
でも、いまここにいる理由を続けていったら、最後は終の棲家にいきつくさ。
僕は僕がいまいたいココにいる。
大切にしたい友人がいて、恋人もいるこの東京が好き。
----------------------------------------------------------------------------------
僕が終の棲家を決めるのはずーっと先のこと。
待て、次号。