ACT3 ワープテスト

 ハヤトの艦内に非常警報が響き渡った。高性能レーダーが、哨戒中のデイモスの編隊を捉えたのである。
「敵編隊確認! 距離八百宇宙キロ。速度〇.一宇宙ノット。空母一、艦載機三十!」
「方位AP二〇六から八九一!」
 艦橋のあちこちから声が上がった。
「全艦戦闘配置!」
 各所から応援に駆けつけて来るレーダー員や通信士たちで、第二艦橋も慌ただしさを増す。
 ワープテストまであと三十分。ハヤトは、ちょうど火星の軌道を横切ろうとしていた。
「早速お出ましのようだぜ、戦闘隊長!」
 猛の横で剛也が軽口を叩くのは、動揺を隠すためだ。
 既に、機関班が波動エンジンの最終点検を終え、その構造に何ら誤りのないことを確認している。剛也自身も、科学技術班とワープのタイミングについて入念な確認を行い、高まる緊張に耐えて、準備を急いでいたところだったのである。
「この大事な時に……!」
 敵の空母と、そこから発進した艦載機群を映し出しているメインパネルを見上げて、猛も呻いた。
 技術的な問題は全てクリアされ、後はテストに向けて全力を尽くすのみ、というところへ、計ったように敵の妨害が入ったのだから、剛也ならずとも動揺しよう。
「本城!」
 沖田の声が飛んだ。
「はい!」
「テストのために全エネルギーが波動エンジンに集中しているから、ハヤトの武器は使えない。アストロ・レオで迎撃せよ。ワープテストまで、時間を稼ぐのだ。」
「了解!」
 猛は弾かれるように席を立つと、第二艦橋から駆け出して行った。
 その後ろ姿を見送りながら、沖田は、頭の隅で、今は亡き猛の兄、本城隼人のことを思い出していた。
 隼人は、一年ほど沖田の直属の配下にいたことがある。その時も、艦橋から飛び出してゆく隼人の後ろ姿を、沖田は何度も見送った。その兄に比べると、弟の方は、骨格はよく似ているものの、線はやや細い。
 土方に言わせると、自分の力量をよくわきまえているか否かという点で、二人は異なるらしかった。自分の力量以上のことをやろうとすることを「無茶」と言うが、隼人の才能は、無茶をして結局それをやり遂げてしまうところにあり、猛の才能は、無茶を無茶でなくするための力量を驚くべきスピードで蓄えるところにある。そこが、努力家でもある、と評される所以であろう。あるいは、早々に両親を失った環境にあって、隼人が兄、猛が弟であったことが、二人の性質にそんな違いをもたらしたのかもしれない。
 だが、それも数秒だった。沖田は、いつものように厳然と次の命令を下す。
「陣! ワープテストは予定通りに行う。引き続き準備を急げ。」
「了解!」
 敵の処理は猛に任せることにして、剛也は再び準備作業に集中した。
『アストロ・レオ1、2、3、各隊発進準備願います。』
 コスモゼロ格納庫に駆け込んで来る戦士たちの頭上に、舞の柔らかな声が響いている。同じく格納庫に駆けつけた猛は、三十秒ほどで戦闘服に着替えると、赤いヘルメットを掴んで愛機バイオレット・シリウスに乗り込んだ。てきぱきと慣れた手順で発進準備をし、モニターのスイッチを入れる。と、画面がパッと像を結び、第二艦橋の舞の姿が映し出された。
『アストロ・レオ2発進、〇四〇〇、アストロ・レオ1発進、〇五三〇。』
 舞が、各モニターを見ながら、発進時間を指定して行く。アストロ・レオ3は、既に指示に従って次々に発進しつつあった。
『ゴールデン・ジュピター発進、〇七〇〇。』
『ゴールデン・ジュピター』は、副隊長加藤涼のコスモゼロである。隊員たちは、各自愛機に愛称を付けているのだが、艦橋からその名で呼ばれ、専用のモニターを持つのは、猛のバイオレット・シリウスと涼のゴールデン・ジュピターだけだった。
『バイオレット・シリウス発進、〇七一〇、よろしい?』
 最後に、モニターの猛を真っ直ぐ見て、舞が言った。
「スタンバイOK。了解!」
『気をつけて!』
 モニターが切れる時に、舞が微笑んだようだった。
 やっぱり綺麗な人だ、と猛は思う。緊張極まる発進間際にそんなことを思う自分が不思議だった。
『アストロ・レオ3、全機発進完了!』
 第3隊のキャプテン、海神航の声が飛び込んで来た。コスモゼロは、立体格納庫から次々に降下し、鮮やかに発進して行く。各機の発進間隔は、二秒とない。
『アストロ・レオ2、全機発進完了!』
『アストロ・レオ1、全機発進完了!』
 第2隊の発進完了報告に続いて、涼が第1隊の発進完了を告げ、同時に、猛の操縦席のジタル表示が、〇七一〇を指した。
「発進!」
 エンジン音が高まり、バイオレット・シリウスは、美しい弧を描いて宇宙空間に飛び出した。
「……宇宙か!」
 快い加速を背中に感じながら、猛は呟いた。
 自機の発するエンジン音さえ響かぬ静寂の暗闇の中に、無数の星々が瞬いている。
 宇宙開闢以来、どれほどの生命がこの冷たい空間に飲み込まれて来たのだろうか? その冷たさと暗さ故に、宇宙は生命の輝きを欲するのかもしれない―――。
 猛がふとそんな感慨を抱いた時、敵編隊を捉えたレーダーの警報が、狭いコクピットに鳴り渡った。宇宙に出て、一瞬でも集中力が鈍れば、死ぬことになる。今はまだ、宇宙に飲み込まれてしまう気など、全くない猛であった。
 バイオレット・シリウスは、鮮やかに機首を返すと、艦橋の脇をすり抜けて、ハヤトの前方に出た。
『アストロ・レオ、全機発進完了!』
 メインパネルに映し出されたアストロ・レオは、きっちりと編隊を組み、乱れがない。
「見事だ。」
と沖田は短く褒めた。
 訓練の成果であろう。新米パイロットたちにしては、出来過ぎと言ってよい。だが、真の成果が試されるのはこれからである。
「皆、いいな! デイモスの艦載機をハヤトに近づけるな! 敵は三十、こっちは三十一だから、数では負けていない。一機も逃すなよ!」
『了解っ!』
 猛の指令に、三十の声が返る。
 第二艦橋でそれを聞いていた沖田の脳裏を、感嘆がよぎった。
 何の変哲もない短い指令だが、目的を明確にし、敵と味方の正確な情報を伝え、なおかつ士気を鼓舞する、と一つのツボも外していない。見事なものだ。
 これは思ったよりもやってくれそうだ、と沖田は思い、それでも厳しい表情でメインパネルを注視する。
「敵艦載機群、接近!」
 敵艦載機群のスピードが上がったようだ。報告する舞の声にも、緊張が滲んでいる。
「行くぞ!」
 アストロ・レオも加速し、猛のバイオレット・シリウスを先頭に、敵機の群れの中へ猛然と突っ込んで行った。
(焦るなよ!)
 猛は、自分自身に言い聞かせた。重要なのはタイミングである。撃つタイミングを逃すと、先に撃たれてやられてしまう。
「行けぇっ!」
 先頭の敵機が射程距離内に入ったその瞬間、照準を合わせた猛の三十ミリ砲が、相手よりも一瞬早く火を吹いた。同時に、炎を上げた敵機が戦列を離れ、コントロールを失って脱落して行く。
「よし!」
 当事者と、それを見ていた者たちの口から、あるいは心の中で、気合が炸裂した。これをきっかけに、初戦で固くなっていた隊員たちの気持ちがほぐれ、たちまち両軍入り乱れての混戦になった。
 空を鋭く切り裂いて、コスモゼロが華麗に舞う。ハヤトに向かう魚雷を叩き落とし、反転してデイモス機を撃破するアストロ・レオの奮戦ぶりは、第二艦橋でじっと戦況を見守る沖田にも、なかなかやるな、と思わせるものがあった。デイモス機の方が性能は良いはずだが、彼らの操縦ぶりは、その性能の差を補ってあまりある。反応が早いのだ。
「ワープテスト準備完了。ワープ予定空域まで、あと五分!」
 やがて、剛也からワープ準備完了の報告があった。
「よし。アストロ・レオに帰艦命令を出せ。」
 沖田は頷き、アストロ・レオに帰艦命令を出した。
「はい。ハヤトからアストロ・レオへ。全機直ちに帰艦せよ。」
『了解!』
 飛翔がそれを伝達すると、猛の声が跳ね返った。
 残ったデイモス機は、ハヤトに帰艦するアストロ・レオを追わずに、空母に戻って行った。三十機のデイモス機で、残ったのはわずかに二機。アストロ・レオに帰艦命令が出な
ければ、恐らく全機撃墜されていただろう。対するアストロ・レオには、一機の損傷もない。
 チカ、チカと銀翼をきらめかせて、アストロ・レオが帰艦する。その風防越しに、涼が悪戯っぽくニヤッと笑って猛にVサインを送った。
「バカ! Vサインはまだ早いぞ。」
 一応はそれをたしなめてみせた猛だが、仲間たちが一人も欠けずに次々とハヤトへ舞い降りてゆくのを見て、思わずホッと笑みを漏らしていた。実戦でこれだけやれると、さすがに心が軽い。数の少ない相手を撃滅できなかったのが少し残念だったが、こうして全員無事でハヤトに戻れるのだから、それでよしとすべきだろう。
「アストロ・レオ、収容終わりました。」
「未帰艦機は。」
 飛翔の報告に、感情を抑えた無表情な顔で、沖田が問い返した。
「ありません。全機帰艦です!」
 答える飛翔の声が高ぶっている。
「うむ。」
 全機帰艦――。わざと素っ気なく返事をしながら、沖田は信じられない思いだった。
 戦闘機戦で、デイモスを相手にこれほどの戦果を上げることなど、今までの常識では考えられないことである。地球防衛軍のベテランパイロットでさえ、敵機との性能の差を埋められず、手も足も出ずに葬り去られたのだ。それなのに、彼らはそのデイモス機を二十八機も撃墜し、母艦にかすり傷さえ負わせなかった。その上、無傷だとは……。
(こんなことがあり得るのだろうか?)
 沖田は、そう自問せずにはいられなかった。
 確かに、コスモゼロは地球では最新モデル機であり、従来の物より遥かに性能が良い。だが、デイモス機に比べれば、その性能はまだまだ劣るはずだったし、パイロットが幾ら優秀でも、全部が全部、無傷で帰って来られるものではない。しかも、彼らは若く、これが初陣なのである。
(本当に、この子らには何か特別の素質が備わっているのかもしれない。)
 沖田は驚嘆し、初めて猛らに会った時、この子らとならやれる、と強く感じたことを思い出していた。
 違うのだ。どこがどうとは言い難いが、この子らは今までの宇宙戦士たちとは違う。
 沖田はそう直観していた。無論、それは悪いことではない。今までと同じであれば、今までと同じくデイモスには勝てまいが、違う人間が、違う艦で戦うのだ。それならば、違う戦局の展開が望めるかもしれない。
「ワープテスト二分前。全員ベルト着用!」
 剛也がそう告げた時、第二艦橋のドアが開いて、猛が戻って来た。着替える間がなかったのだろう、戦闘服のままの猛は、その黒が似合って、少しだけ大人っぽく見える。それをチラリと見返って、舞は微笑んだ。
 よくも無事に帰って来てくれたものだ――。
 もちろん、一人も欠けずに四百四十四万光年を無事に旅できるとは、舞も思ってはいなかったが、この艦橋から仲間の顔が減ってゆくのを想像するのは辛い。だが、猛を始めとする戦闘隊の隊員たちは、そんな不安を跳ね返し、見事に敵を蹴散らして、全員無事にハヤトに戻って来たのである。何と言っても、初戦でデイモスと互角以上に戦えたというこの事実は、他の乗組員たちにも勇気と自信を与えた。後は、自分たちそれぞれが、着実に成すべきことを成せばよいのである。
 沖田が全艦放送用のマイクを取り上げた。
「全艦に告ぐ。ハヤトは、これよりワープテストを行う。ワープ航法は、もちろん人類未知の航法だが、この成功如何によって、ハヤトの目的が達成できるかどうかが決まる。各自、自分の任務を着実に遂行し、何が起こっても冷静に判断、行動するように。成功を祈る!」
 乗組員たちは、座席に座ってシートベルトを着用し、不安と、幾ばくかの好奇心を抱えて、来るべき未知の瞬間を待っている。
「敵空母接近、距離二百宇宙キロ!」
 舞が報告したが、既にテスト一分前を切っている。相手をしている暇はない。
「ワープテスト三十秒前。秒読み開始二十秒前!」
 第二艦橋に、剛也の声が響いた。その後方の機関長席では、徳川が祈るように目を閉じている。
(猛に負けられない! 何としてもテストを成功させなければ……。)
 剛也の額に大粒の汗が浮かぶ。

「これがハヤトだと?! うーむ。」
 デイモス空母の艦長ルーパス・デルトアは、明らかに平常の冷静さを失っていた。
 遠い冥王星からでさえ探知できるほどの莫大なエネルギーを集め、基地から発射した大型ミサイルをも粉砕して、一隻の艦が地球を飛び立った。地球人たちは、それを『宇宙戦艦ハヤト』と呼んでいる――。
 地球の周辺に設置しておいた監視衛星からそうした情報を得た彼は、それを撃沈するべく、冥王星基地から出て来たのである。常勝デイモスの誇りに賭けて、一隻たりとも地球の艦を生かしておくわけにはいかないのだ。
 地球人たちが火星と呼んでいるこの第四惑星付近で出会ったハヤトは、図体こそ従来の物の三倍はあり、砲門の数も多いのだが、型自身にさしたる違いはなく、スピードなども鈍そうで、ただ一艦だけであることもあって、大した艦だとは思われなかった。
 実際、ハヤトは、こちらの出現に対しても砲一つ撃つでもなく、沈黙を続けている。とすれば、当然、これまで何百何十という地球側の艦を沈めて来た自慢の高速艦載機群の前に、成す術もなく撃沈されているはずだった。ところが、ハヤトは未だに悠然と存在している。
 問題は、ハヤトから発進して来た艦載機である。火力も速度も明らかに劣っているはずなのに、それこそあっと言う間に味方の高速艇を撃ち落として行った。戻って来た味方はたったの二機。三十機出て行って、たったの二機である。一方の敵機は、損傷もなく悠々と引き上げて行く。
 今まで、規模で言えばこれに数倍する艦隊を相手にことごとく勝利を収めて来たルーパスにとって、これは艦長としての手腕を問われかねない失態であり、屈辱だった。
(それにしても、腕の立つパイロットたちだ。今までとは違う!)
 この直感は正鵠を射ており、何を置いても冥王星の基地へ伝えておくべきことだったのだが、ルーパスはそれをしなかった。彼の頭脳は、これほどの戦力がなぜ今頃になって現れたのか、という疑問で占められていたのである。確かに、それも不要な疑問ではなかったのだが……。
「ハヤト、射程距離に入りました。」
「ミサイル、発射準備完了!」
 下士官が報告した。この上は、一撃必殺、今まで一度の例外もなく敵を沈めて来た自慢のホーミングミサイルで片を付けるしかあるまい。
「よし、ミサイル発射!」
 発射されたミサイルは、レーダーの上に軌跡を描いて、ハヤトへ向かって行った。計算に狂いはない。仮にハヤトが回避行動を取ったとしても、このミサイルは、目標の発するエネルギーを頼りにどこまでも追ってゆくのだ。逃げられはしない。
「全弾命中……。」
 壮大な爆発の様を想像してルーパスがほくそ笑んだ時、ハヤトの姿は、忽然と宇宙空間から消え失せていた。
「何だと? ハヤトが消えた!?」
 固定観念というものは、頭の回転を鈍らせる。
「まさか……。ワープしたのか?!」
 よく考えてみれば、じっと沈黙しているハヤトがワープに備えていることなど、ルーパスにはすぐにわかっただろう。ワープを日常的なものとしている彼らにとっては、それは常識に類することなのだ。が、地球にはワープを実現する科学力がない、と思い込んでいたルーパスには、その当たり前のことが思い浮かばなかったのである。
「艦長! ミサイルが! ミサイルが本艦に!」
 下士官の悲鳴に近い声がした。
「しまった!」
 ルーパスは慌てて回避を指示したが、時既に遅く、目標を失ったミサイルが、空母の発する大量のエネルギーに引かれて至近距離まで接近していた。そして、敵に対して比類ない力を振るう自慢のミサイルが、自分自身に対してもまた容赦のないことを、ルーパスは身を以て知るのである。

「三、二、一、〇。ワープ!」
 剛也がレバーを引くと、不快な加速がハヤトを襲った。火星に淡い光を投げ掛けていたフォボス、ダイモスの二つの衛星が、メインパネルの中でぼやけてゆく。
 ハヤトは、今、四次元の方向に加速している。時間の波の頂点の接線方向へ飛び出そうとしているのだ。波動エンジンは、テティスの乗った宇宙船のエンジンを基に、メッセージと共に送られて来た設計図そのままに作られたが、今の地球の科学力では、その仕組みを完全に理解することは難しいだろう。
 ワープのあまりの衝撃に、乗組員の半数はたちまち気を失った。さすがに沖田を始め、メインスタッフたちは耐えていたが、交互に襲い掛かって来る激しい頭痛と吐き気とで、失神寸前の状態だった。その不快な感覚は、一つの体であるはずの手と足が別々の次元に存在するような奇妙さを併せ持っている。抵抗する術を知らぬ乗組員たちは、ひたすら耐えて、苦痛が去って行くのを待っていた。
 彼らにとって、その一分ほどの時間は、気が遠くなるほどの長い時間に感じられただろう。重なり合う次元を通り抜けて、やがて、ハヤトは、通常の宇宙空間に舞い戻った。
 デジタル表示の時計だけが音もなく時を刻み続けていたが、乗組員たちは皆、計器板に顔を伏せたままである。
「……成功したのか?」
 最初に気付いた猛が、薄目を明けた。逆流する血液がまだ頭の中でガンガン鳴っているのを振り払うように目を凝らすと、艦窓に巨大な輪を持った惑星が認められた。
「土星だ!」
 猛は、思わず立ち上がった。
 写真や映像で見慣れたその惑星は、明らかに目的地の土星である。その声にようやく艦内に生気が戻り、他のメインスタッフたちも、ぞろぞろと立ち上がった。
「片桐。現在位置を確認しろ。」
 沖田が指示したが、舞は、抜かりなく既に確認を終えている。
「はい。予定通り、土星から六百宇宙キロの地点です。」
 額の汗を拭いながら、舞が報告した。彼方には、巨大な衛星タイタンの姿も見える。
「うむ。ワープテストは成功だ。」
 ワープテスト成功――! 艦内に安堵の溜め息が漏れ、歓声が上がった。
「おい、剛也!」
 発進、ワープテストと続いた緊張が途切れたのだろう、まだ操縦席にうつ伏せになったままの剛也の肩を、猛は手荒く揺さぶった。
「う……。」
 ようやく顔を上げた剛也に、猛は窓外を指差してみせた。まだ意識が回復し切らない様子で視線を移した剛也は、窓一杯に広がる土星の姿に、思わず身を乗り出していた。
「おめでとう。やったな!」
 猛が剛也に手を差し出し、剛也は無言でその手を力強く握り返す。手の触れ合うパチンという大きな音と共に、少年らしい明るい笑い声が弾けた。他のスタッフたちの顔にも、会心の笑みが浮かぶ。これで、計画を完遂する理論的な目処はついたのである。
 こうして、ハヤトは地球初の光速突破の艦になった。