- 蛇行する川のほとり (集英社文庫)/恩田 陸
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夏の終わりの演劇祭に向けて、舞台背景の絵を仕上げるために「合宿」を始めた少女たち。だが、少女たちは気づかなかった、運命の歯車が回り始めたことを……。恩田ミステリーの傑作長篇。
久しぶりに読んだ恩田さん作品。恩田さんらしい作品ですごく面白かったです!
私は文庫を読んだのですが、これ、もともとは3部作として1冊ずつ刊行されていた本だったようです。
野外音楽堂で行われる演劇祭の舞台背景の絵を仕上げる為に、川のほとりにある「船着場のある家」で夏休みに合宿をすることになった少女たち。
憧れの先輩二人、香澄と芳野に誘われ、喜んで参加した毬子。
しかし美しい少年、暁臣の一言で毬子の世界が一気に変わってしまう。
遠い遠い過去の記憶。それぞれの記憶が交錯し、過去に起きた事故の真実が浮かび上がる。
第一部、第二部、第三部、そして終章という構成になっているのですが、すべて語り手が違います。
そして登場人物は6人のみ。
なんとなく舞台を観ているような錯覚に陥る作品でした。
第一部は毬子。
最初から何かが起こることを予感させるミステリアスな口調で語られていく夏休みの出来事。
なぜ、香澄と芳野は毬子を誘ったのか。
そしてとても好意的な印象だった暁臣の衝撃の一言が毬子をどん底へと突き落とす。
そして続く第二部。
語り手は芳野に代わり、毬子は何も語らない。
暁臣が毬子に言ったことの真相はわからないまま、話は進んでいきます。
そして芳野が知る過去の出来事。
皆が何かを隠している。何を考えているのかわからない。
当事者たちが証言していくことで少しずつ過去が明らかになりつつも、
不気味な空気が漂い続けていて、どんどん話に引き込まれていってしまいました。
第三部は毬子の親友、真魚子が語り手となります。
合宿には参加していなかった真魚子が語り手となることで、第三者的な感じがします。
神秘的な感じとミステリアスな感じが混ざりあった物語全体に漂う雰囲気がいいです。
多分、蛇行した川のほとりにある家、塔のある家をはじめとした舞台となる町の魅力的かつミステリアスな描写も巧いのだと思います。
その町にずっと住んでいたのに、毬子だけが気付いていなかった過去の繋がり、
それぞれが持つ断片的な記憶、子供の頃の記憶だからこその曖昧さ、少女たちの友情、
見えない鎖で繋がれた絆、守ろうとする想い、共有している秘密と封印している秘密、そして駆け引き。
それぞれの記憶や思惑が少しずつ明らかになっていく過程をドキドキしながら読み進めていきました。
香澄と芳野のそれぞれへの伝えなかった想いがすごくよかったです。
恩田さん作品としては珍しく(?)、終章でちゃんと事件の真相が描かれて終わるのですっきり。
あまりに作品が醸し出す空気が綺麗で、読み終わった後、しばらく余韻に浸ってしまいました。
★★★★