評価 4/5 ☆☆☆☆★
原作の小説は読んでいない。予告編の「決して触れてはいけない闇」とは何か、興味を持った。
警察の事務職員の泉が、慰安旅行の情報を親友に漏らしたのではないかと疑われ、上司の富樫や捜査一課の梶山に事情聴取される。泉は親友の死の真相を知るため、刑事でないので捜査権はないが、独自に調べ始めるのに好感を持った。泉が梶山から捜査状況を聞くと、様々な事が分かって来るのが面白い。
また、泉に好意を持っている磯川も協力するのが頼もしい。磯川は生活安全課所属なので、最近退職させられた百瀬についての情報を、年配の女性職員の高田から聞き出そうとすると、高田は磯川が百瀬を好きだったと勝手に思い込んで、百瀬と辺見の浮気の話をするのが面白い。
さて、千佳は百瀬と会っていた事が分かるが、ところがその百瀬は自殺(に見せかけた他殺?)していた。ストーカーの宮部は、毒ガス事件を起こした元カルト集団で、新興宗教団体「ヘレネス」の信者だと分かる。そこで、被害届の受理が遅れたのは、ヘレネスが辺見に圧力をかけたからではないか。また、千佳と百瀬は、真相を知られたくないヘレネスが殺したのではないか、と泉や警察は推理する。このようにしだいに事件が奥深いと分かって来るのが怖い。
ストーカーの宮部は、ヘレネス内の公安のスパイで、宮部の逮捕を避けるために公安が辺見に圧力をかけて被害届の受理を先延ばしにさせていたと分かる。それを百瀬が辺見から聞き、百瀬は千佳に知らせた。真相を知った千佳を、今でも公安と関係を持つ富樫が、彼のスパイである浅羽を使って殺したと、泉は推理する。
公安を「サクラ」と呼ぶと知った。辺見は公安の圧力があったと百瀬に、在原業平朝臣の和歌「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」を使って知らせるとは、風流があると感心した。百瀬や千佳も「サクラ=公安」と知っていたのか?
もちろん、状況証拠だけなので、富樫は否定する。富樫は梶山に、泉にも捜査状況を知らせるように求めたり、教団の信者のリストを公安から手に入れ、梶山に提供したりするなど、捜査に協力的だと思ったら、浅羽を千佳殺しの犯人だとバラし、始末するためだったとは。そう言えば富樫は泉に、自ら「公安のタカと呼ばれていた」と名乗っていたのは、未だに公安と関係があると言う事だったのか。逃走した浅羽の車のブレーキが利かなくなるが、恐らく教団内の公安の別のスパイが、富樫の指示で浅羽の車に細工したのではないだろうか。
千佳の殺人事件を調査していくと、カルト集団の浅羽の犯行だと分かり、さらにその陰には公安と言う巨大な国家組織が関与しているらしいことが分かる。なかなか規模の大きなどんでん返しで感心した。百瀬の自殺の状況は明らかにしていないが、恐らく自殺に見せかけて公安が殺したのではないだろうか?
ただし、背後の公安の存在に気づいた千佳(や百瀬)は殺されたが、辺見が無事なのはなぜ?辺見が公安の圧力を百瀬に知らせ、さらに千佳に知らせたので、真っ先に逸見が殺されそうなものだが。
ところで、真相にたどり着いた泉は、今後、富樫(や公安)に殺されるのだろうか?ただの警察の職員である泉では、これ以上調べる事は出来ない。泉は警官になると宣言するが、警官になって公安に立ち向かうのだろうか?本映画の原作『朽ちないサクラ』には続編の『月下のサクラ』があり、警官になった泉の話が描かれていると聞く。是非『月下のサクラ』も映画化され、泉の活躍が見たいものだ。
一般職員の泉が周りの協力を得ながら真相に近づくと、公安と言う巨大な国家権力が陰にあるらしいと分かる展開に感動した。評価は「4である」
原題『朽ちないサクラ』とは、おそらく「永遠に続く公安」を意味しているのだろう。