『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ネタバレの詳しいあらすじ(改訂) | アンパンマン先生の映画講座

アンパンマン先生の映画講座

映画の面白さやストーリーの素晴らしさを伝えるため、感想はネタバレで、あらすじは映画を見ながらメモを取って、できるだけ正確に詳しく書いているつもりです。たまに趣味のAKB48のコンサートや握手会なども載せます。どうかご覧ください。

 2024年5月6日にNHKで『岸辺露伴 ルーヴルに行く』を放映していたので、見直して改訂版を掲載する。

監督:渡辺一貴  2023年

主な登場人物:読み(俳優)役柄

【日本】

岸辺露伴:きしべろはん(高橋一生/青年期:長尾謙杜)特殊能力「ヘブンズドアー」を持つ人気漫画家。

泉京香:いずみきょうか(飯豊まりえ)集明社に勤める、露伴担当の編集者。

奈々瀬:ななせ(木村文乃)岸辺露伴が青年期に祖母の家で出会った女性。

猷(白石加代子)岸辺露伴の祖母。

ワタベ(池田良)オークションで岸辺露伴と競り合う。

カワイ(前原滉)オークションでのワタナベの相談相手。

骨董屋A(中村まこと)岸辺露伴が取材に訪れる骨董品屋の店員。露伴を知らない。

骨董屋B (増田朋弥)岸辺露伴が取材に訪れる骨董品屋の店員。露伴を知っている。

山村仁左右衛門:やまむらにざえもん(高橋一生)無名の日本画家の作品。

【フランス】

辰巳隆之介:たつみりゅうのすけ(安藤政信)東洋美術の専門家で鑑定家。ルーヴル美術館の収蔵品の調査メンバー。

エマ・野口:のぐち(美波)ルーヴル美術館文化メディエーション部の職員。

モリス・ルグラン(Arnaud Le Gall)画家。

ユーゴ・ルナール(ロバ)Z-13倉庫に案内する消防士。

ニコラス・ト―マ(Jean-Christophe Loustau)Z-13倉庫に案内する消防士。

 

(回想)後姿の奈々瀬が「この世で最も邪悪な黒い絵を知っている?」と聞く。

(現代)漫画家の岸辺露伴は、奈々瀬の言葉を思い出し、骨董品屋で山村仁左右衛門という無名の日本画家の作品を、漫画の取材のために探す。黒すぎて光を全く反射しないため人間の目には見えず、この世の物ではないとまで言われているそうだ。

 応対した骨董屋の店員Aは露伴を知らず、追い返そうとする。骨董屋の店員Bは店のカウンターに置いてあった露伴の偽色紙を慌てて隠し、店員Aに「この人は有名な漫画家の岸辺露伴だ」と教える。露伴は、この店で盗品の美術品を売買している事を見ぬき、「盗まれた美術品を売る商売を取材させてくれ」と言う。

 露伴は店員2人に「ヘブンズドアー。今心の扉は開かれる」と言うと、顔に切れ目が入り、彼らの過去を記録した本になる。露伴はそれを読んだ後、「すべての作品に最大の敬意を払って扱う」と書き込む。店にあった オークションの出品カタログに、「黒い絵」が載っているのを露伴が見つける。

 (タイトル『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』)

 露伴は漫画の取材でオークションに参加したいと、集明社の編集者の泉京香に頼み、彼女は「ピンクダーク」のサイン3枚で手配した。露伴が、オークションの出品カタログに載っているフランス人画家のモリス・ルブランが描いた題名のない「黒い絵」を泉に見せて、露伴は「ちょっと思い出したことがあるだけだ」と話す。泉は「先生は、ちょっとモナ・リザに似ている」と言う。

  露伴と泉が会場に入ると、オークションは始まっていた。露伴のお目当ての、モリス・ルブランが描いた「黒い絵」が出品される。20万円から始まり、露伴が「17」のパドルを挙げると、後ろの席の2人の男が「9」のパドルを挙げて競り合い、50万円、100万円と次々に値が上がる。結局、露伴が150万円で落札する。

帰り道で泉は「どこまで上がるかドキドキした」と言うと、露伴は「欲しいから買った。絵と言うより色だ」と答える。

  露伴の家に絵を持っていくと、家の中には昔の顔料がたくさんあり、露伴が泉に原理を教える。泉は「すごく綺麗ですね。これでカラー原稿書いたら面白いのでは」と感心する。露伴は「黒は何かを燃やした炭か煤だ」と教える。

 露伴は泉に「この世で最も黒い色を見たことがあるか?」と尋ねる。ゴクラクチョウの一種のオスの写真を見せると真っ黒だった。露伴は「この鳥の羽毛はほぼ100%光を吸収し反射しないので、真っ黒に見える。おそらく、この世にそんざいしないほど最も黒い色は、山村仁左右衛門と言う日本画家が250年前に描いた絵だ」と説明する。

 その時、家の外に怪しい男がいた。露伴が「ヘブンズドアー」の能力で気を失わせると、オークションで競り合ったワタナベだった。すると家の中で泉が悲鳴を上げ「いきなり男が入ってきて、あの絵が盗られた」と教える。

 オークションにワタナベといたカワイが、絵を盗んだのだ。路上で絵の裏を破るが、目当てのものはなかった。カワイが絵の裏に染み出した黒い顔料に手を触れると、体中にクモが付く。カワイは車の音を聞いて逃げる。

 カワイを追った露伴と泉が、道に落ちている絵を見つけて不思議がる。絵の裏に書いてあったフランス語の文章を泉が読み「これはルーヴルで見た黒・後悔」と訳す。泉は「先生が言っていた最も黒い絵と関係があるのですか?」と質問する。露伴は泉に「次の取材先が決まった。ルーヴルだ」と言う。

 ワタナベは電話で「あの露伴は変だ。俺は降りる。絵の裏には何もなかった」と中国語で話す。

 カワイは自動車の音に追われて、山道を逃げていた。カワイは車に轢かれたようにして死に、体にクモが這っていた。

 泉はカフェでパリの写真を眺め「パリか」と呟く。露伴は奈々瀬の絵を描く。

 (回想)昔、露伴の祖父母は老舗旅館を経営していたが、祖父が亡くなった後、祖母は旅館をやめて祖父が集めていた骨董品を全て売り払った。旅館は自宅にして余った客室は下宿として貸し出していた。しかし、部屋に住もうという人はなかなか現れず、いつも閑散としていた。その年の夏に漫画家デビューした17歳の露伴は、執筆に集中するためにその下宿部屋に2カ月滞在していた

 露伴が風呂に入ろうとして、男女の印がわかりにくいので、間違って女子風呂の扉を開けると、唯一の下宿人の奈々瀬という若い女性が着替え中で、露伴は謝る。

 露伴が縁側で庭のスケッチをしていると、2階の部屋で奈々瀬が洗濯物を干していた。露伴は奈々瀬に心惹かれてスケッチするが、すぐに彼女がいなくなる。

 庭に出て露伴が探すと、いつの間にか来ていた奈々瀬が露伴に「あなた、覗きしているの?」と言い、露伴のスケッチを見つけ「あなた漫画を描くの?」と聞く。露伴は「覗きと違う。編集者に、僕が描いた女性の絵が可愛くないとけなされ、あなたをデッサンして研究していた」と弁明する。奈々瀬は「あなた漫画家なの?今度、あなたの作品を読んで見たいわ」と頼む。

 露伴はそのままにしていたが、奈々瀬に催促されて、ある夜、書きかけの原稿を持って奈々瀬の部屋に行く。露伴は「未完成のものを見せられない」と断る。奈々瀬は露伴に「この世で最も邪悪な黒い絵を知っている?」と聞く。「光を全く反射させない、見ることも出来ないくらい黒い色で書かれた絵。最も邪悪な絵。250年も昔、書いたのは山村仁左右衛門と言う絵師。大事な神木から、理想の顔料を見つけた。傷つけたら死罪。彼はその黒を使って描いて死んだ」と教える。露伴が「それ、どこにあるの?」と聞くと、奈々瀬は「ルーヴルに」と答える。「決して見ていけないし、触ってもいけない。あなたに似ている」と言うと、急に奈々瀬は露伴に帰るように言う。

 その日以来、奈々瀬は下宿に帰らない日が続いた。その間、露伴は必死に漫画の原稿を書く。

 ある日、奈々瀬が下宿に帰ってくると、露伴にしがみついて泣く。露伴は「あなたの力になりたい。全ての恐れからあなたを守ってあげたい」と抱きしめる。露伴は彼女に「ヘブンズドアー」をしようとしてやめる。

 奈々瀬は、露伴が描いていた、彼女をモデルにした漫画の原稿を見ると「これ私なの?あなた、何をやっているの?私を描くなんて!」と怒り出し、原稿をハサミでめった刺しにする。我に返った奈々瀬は露伴に謝ると、何かを呟いて去っていく。彼女は二度と戻らなかった。祖母も行き先を知らなかった。

 祖母は、蔵の絵が売れて取りに来るが、祖母は出かけるので、露伴が対応するようにと頼む。旅館に外人のバイヤーが絵を取りに来る。

 部屋から彼女がいた痕跡はなくなり、露伴は彼女が本当にいたのかとさえ思うことがあった。

(現代)露伴は、黒い絵とともに彼女の記憶が甦り、行く必要があると思った。この世で最も黒い絵があると言うルーヴルへ。

ルーヴル美術館文化メディエーション部の職員エマ・野口がオフィスに行くと、同僚のジャックが「今日、日本から有名な漫画家が来て、モリス・ルグランと山村仁左右衛門について調べたいと言っている。事前に検索してみる」と話す。野口は露伴と泉の案内をする予定だった。

露伴と泉は2階建てバスに乗り、パリ観光をしていた。凱旋門と露伴の写真を撮る泉に、露伴は「泉君、観光に来たのじゃない」と言うと、泉は「雑誌に載せるので、こういうのが大事です」と答える。露伴は観光客の質問にフランス語で答え、泉が感心する。

露伴と泉がバスを降りると、野口が迎えに来る。露伴はホテルより先にルーヴル美術館に行きたいと言い、野口が案内する。ルーヴル美術館の中庭を見た泉は「思った以上に広い」と感激する。野口は「広いので効率的に回らなければ。バックヤードも見学する」と教える。泉はピラミッドを背景に、野口に写真を撮ってもらう。

 露伴たちがエスカレーターで地下1階に降りていると、ファンが露伴を見つけてサインを頼む。泉が制止するが、露伴はいつの間にか、彼らのサイン帳や服の背中にもサインを書いていた。

 泉はアポロン・ギャラリーの荘厳な天井画に感嘆する。野口は「中世は元要塞で、王宮としても使われた」と教える。モナ・リザの前では露伴は、絵を模写している人を見つけて野口に尋ねると「美術の普及のために、条件付きで許可している。問い合わせがあったモリス・ルグランも、よく模写をしていた」と教える。

 泉は、あのモリスの黒い絵はルーヴルで描いた模写かもしれないと思う。野口は「オリジナルだ。山村仁左右衛門の絵は、今調べている。地下倉庫の一部がセーヌ川の氾濫で水没する危険があるため、収蔵品を新資料館に移す作業で、地下倉庫から1000点以上も新しい絵画が見つかった。戦争で記録が消失して残っていない。その中には日本の絵もあるので、山村仁左右衛門の絵もあるかも知れない」と言う。

 そこに東洋美術の専門家で、鑑定家で、ルーヴル美術館の収蔵品の調査メンバーである辰巳隆之介が、露伴に会いに来る。野口は、優れた鑑定家だと紹介する。辰己は「モリスは模写に優れていたが、事故で亡くなった」と教える。

 その時、ニケ像がある「ダリュの大階段」付近にいたジャックが「やめろ。助けてくれ」と叫び、何かから逃げて大階段に転落する。

 露伴たちが駆け寄るとジャックは「クモ、黒い髪」と言い残して気を失う。泉は、モリスの絵に、クモの巣と髪の毛のような物が描かれてあったことを思い出す。露伴は「モリスはルーヴルで何かを見て後悔した」と呟くと、泉は「あのフランス語は名詞なので、『後悔した』ではなく、『後悔を見た』」と訂正する。

 野口は彼女のオフィスでジャックが使っていたパソコンを調べる。野口は露伴と泉を呼び、「彼は山村の絵の記録を探して検索していた。山村の絵はタイトル不明で、地下Z-13倉庫にある」と教える。しかし、Z-13倉庫は老朽化のために20年以上使われていない倉庫で、ここに美術品は無いはずだった。ジャックの同僚のマリは「ジャックは昔、山村の話を聞いて、Z-13に自分で確かめに行ったかも」と教える。

 露伴、泉、野口、辰巳は、Z-13倉庫を見に行く。道案内と危険防止のためにユーゴとニコラスの2人の消防士が同行する。カメラや携帯電話、ペンなどは預ける規則になっていた。6人は階段を降り、地下通路を通り、Z-13倉庫に向かう。マリから野口に連絡があり、ジャックは20数年前に山村の絵を買い取ったキュレーターから話を聞いたのだという。露伴がキュレーターの写真を見せてもらうと、露伴の祖母の家に絵を取りに来た男だった。野口は、この男は行方不明だと教える。露伴は、祖母の家にあった絵が、探していた山村仁左右衛門の絵だったと気づく。

 Z-13倉庫に入ると、床にモリス・ルブランの筆と、フェルメールの未発表の作品を見つける。野口は発見された後に保管センターに移動されたはずだという。このフェルメールの絵を辰巳は贋作だと判断するが、露伴は本物だと見立てる。

 辰巳の不審な態度を見た露伴は、ルーヴル美術館でひそかに起きていた、絵の窃盗事件に気付く。辰巳の正体は絵画の窃盗グループの一員で、全ての倉庫の鍵を持つ消防士とグルになっていた。モリス・ルブランは辰巳に雇われて贋作を作っていた画家で、辰巳は職員も滅多に入らないZ-13倉庫でモリスに贋作絵を描かせていた。美術館から保管センターに送られる絵画を贋作とすり替えて、本物を盗んでいた。モリスは、辰巳たちに内緒で贋作の裏に本物を隠して、海外に安値で売っていた。

 モリスが描いた黒い絵もその一つだった。コレクター達の間でモリスの絵の秘密が噂になり、辰巳がモリスの行為に気付いた。辰巳はモリスを問い詰めていてうっかり殺してしまった。露伴から黒い絵を盗もうとした男たちは辰巳の仲間で、彼らはモリスが流出させた本物の絵を回収して周っていた。

 すると、消防士の二コラは兵隊の幻を見て、銃で撃たれた跡を残して死ぬ。もう一人の消防士のユーゴが露伴につかみかかる。辰巳は露伴に「何か知って調べに来たのだろう。モリスは急におかしくなった」と言う。

 露伴たちは倉庫の壁に、木村仁左右衛門の本物の黒い絵があることに気付く。その絵を見た辰巳は、モリスが迫ってくる幻影を見て「殺す気はなかった。わざとじゃない」と謝り、死ぬ。露伴は泉に絵を見ないように言う。

 野口は、死んだ息子の幻影の顔に手を触れ「公園の池で手を離さなければ。ママのせい。許して」と言うと、口から水を吐き出し、体中が水に包まれる。露伴は泉に、野口を外に連れだすように頼む。

もう一人の消防士の二コラは、炎に包まれた焼死した祖父の幻影に襲われ、体が燃えて焼死する。

 露伴は気づいた。黒い絵が映すのは過去であり、絵を見た人間には、自分が犯した罪や後悔。または先祖が犯した罪や後悔が襲ってくる。モリスはフェルメールの贋作を書いたが、黒い絵を見て自分の後悔を見たのだ。辰巳はモリスにフェルメールの本物の在りかを問い詰め、殺したのだ。

 絶対的な黒を見ると過去を見る。襲ってくるのは罪と後悔。祖先の罪も襲ってくる。モリスは贋作を描き、自分の後悔を見た。それはルーヴルで見た黒(後悔)。黒い絵を見た者は、過去の罪と後悔が襲ってくる。

 露伴の手も黒くなり始めていた。露伴が黒い絵を見ると、奈々瀬が描かれていた。露伴に斧を持った山村仁左右衛門の怨霊が向かってくる。露伴は山村に「ヘブンズドアー」を掛けようとするが、死んでいるので掛からなかった。露伴が窮地に陥ると、奈々瀬が現れて仁左右衛門の怨霊を抑えて引き留める。奈々瀬は露伴に「何もかも全て忘れて」と言う。少年の露伴に奈々瀬が呟いたのも「何もかも全て忘れて」だったと気づく。

 露伴は自分自身に「ヘブンズドアー」を掛けて、「記憶を全て消す」と書き込むと、仁左右衛門の怨霊も奈々瀬も消える。露伴は倉庫から逃げ出す。左手に「顔の文字をこすれ」と書いてあるのに気付いて、顔をこすると「記憶を全て忘れる」が消え、記憶が戻る。

 倉庫では、消防士の体から出た炎が倉庫内に広がり、奈々瀬の黒い絵も燃えていた。

 ルーヴル美術館から脱出した野口に泉が「ピエール君はきっと責めるためじゃなく、お母さんの傍にいたかったのでは」と話す。泉は野口に、父がルーヴル美術館の前で撮った写真を見せる。泉は「父は5歳の時に亡くなった。エマさんに撮ってもらった写真を見て、父が近くにいた感じがした」と笑う。野口が撮った泉の写真は、父の写真と構図が全く同じだった。野口は泉に抱き付く。

 カフェで露伴と泉が話す。泉は「地下室に溜まっていたガスでみんなが幻覚を見て、パニックになった。辰巳と消防士2人は、幻覚に惑わされてお互いを攻撃し合って死んでしまった悲しい事故として処理された」と教える。

 泉は「ルーヴルの作品は全てネットで見られる。もう忘れられたり、亡くなったりしない」と言う。露伴は「どうかな」と言って、祖母のサングラスをかけ、「ルーヴル美術館は、人間の手に負える美術館でなかった」と話す。泉は黒い絵の奈々瀬を見ており、「綺麗な人でしたね」と感想を言う。露伴は「君、見たのか!よく何ともなかったね。感心するよ」と、感心する。

 日本に戻った露伴は、祖父母の旅館の近くで、黒い絵の元になったに違いないご神木の大木を発見し、木の根元にある石碑(奈々瀬の墓?)を見つけ「やっと見つけたよ」と言う。「ごめんなさい。ああするしかなかったの。あの人を止めて全てを終わらせるには」と言う声が聞こえ、露伴が振り向くと奈々瀬がいた。露伴は奈々瀬の顔に手を当て「あの時は読めなかった」と言って、「ヘブンズドアー」を掛ける。奈々瀬が倒れ、露伴が奈々瀬の顔のページをめくって読む。

 奈々瀬は山村家に嫁ぎ、仁左右衛門の妻となった。山村家は将軍御用達の絵師をしていた。仁左右衛門は奈々瀬の黒髪を気に行って、いつも描いていた。長男の仁左右衛門はこだわりが強く、依頼通りの絵を描かなかったため父親と喧嘩になり、仁左衛門と奈々瀬は山村家から出て行った。田舎の家に2人が住み、近所の人の襖絵や屏風絵、仁左右衛門が描きたい絵を描き、気に入ってもらった人に買ってもらって、静かに暮らしていた。仁左右衛門は奈々瀬の黒髪が気に入って絵に描くが、「普通の黒では君の髪の美しさは表現できない もっと黒くなければ」と言い、最も黒い原料を探していた。そんなある日、奈々瀬が重い病に侵される。奈々瀬の医者代と薬代で出費がかさみ、仁左右衛門は金に困って、恥を忍んで父親に謝りに行く。父親は「私を超える絵が描けたら、戻ってきても良い」と言う。それから仁左右衛門は、寝食を忘れて絵を描き始める。奈々瀬は病気が治るようにと、近所の神社で祈っていると、ご神木から真っ黒な樹液が出ているのを見つける。奈々瀬は絵の顔料に使えるかもしれないと思い、樹液を持ち帰って仁左衛門に渡した。仁左右衛門はその樹液をとても気に入り、何かに取りつかれたように、毎日樹液を取りに行くようになった。ある日、仁左右衛門はご神木の樹液を採集しているところを弟に見られ、奉行所に「仁左衛門がご神木を傷つけている」と通報される。弟は後継ぎの座を狙っていたので、仁左右衛門に帰ってきてほしくなかったのだ。仁左右衛門は役人に捕まる。役人が、夫を庇う奈々瀬に暴力をふるったので、仁左右衛門は激怒してその役人を殺した。その後、仁左右衛門はご神木を斧で傷つけて樹液を持ち帰り、真っ黒な奈々瀬の絵を描いた。仁左右衛門は死罪になり、彼の罪の意識や後悔が黒い絵に宿って「最も邪悪な絵」になった。

 奈々瀬は「いつか止めてほしいと思い続けて、あなたを巻き込んでしまった。本当にごめんなさい」と謝る。露伴は「いや、あの夏は僕にとって必要な過去の一つだ。二度と忘れない」と言うと、奈々瀬は笑って消える。奈々瀬は仁左右衛門の死後に妊娠に気付き、山村家とは縁を切って旧姓の岸辺に戻り、病に負けず子どもを産み育てたのだ。

 泉が顔料の資料を持って露伴の家にやってくると、絵の具の原料の研究をやめていた。泉は、露伴が描いた奈々瀬の絵を見つける。露伴は、顔料の資料を持たせて泉を追い返す。泉は「取材旅行記のタイトルは『岸部露伴ルーヴルに行く』だ」と呟く。

 数日後、露伴は仕事前に必ず行う腕と指の体操をしていると、窓の方から物音がした。行くと、昔奈々瀬がハサミでめった刺しにしたはずの露伴の原稿が、傷一つない状態で落ちていた。露伴は微笑んで原稿をしまうと、漫画の執筆に励む。

 (エンドクレジット)

(写真は「映画com」[IMDb」より)