『原作から大きく改変された映画』2 | アンパンマン先生の映画講座

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映画の面白さやストーリーの素晴らしさを伝えるため、感想はネタバレで、あらすじは映画を見ながらメモを取って、できるだけ正確に詳しく書いているつもりです。たまに趣味のAKB48のコンサートや握手会なども載せます。どうかご覧ください。

 ドラマ「セクシー田中さん」の原作者である漫画家、芦原妃名子さんの急死によって、原作の改変問題がクローズアップされている。これはドラマだけではなく、映画でも同様である。そこで、原作から大幅に改変された映画を紹介する。

 「1」では映画を原作から大幅に変えたため、原作者と監督との間がもめた例や、失敗例を紹介した。この「2」では、原作を大幅に変えて成功した例を紹介する。

 

5.『猿の惑星』

原作『猿の惑星』1963年、作者ピエール・ブール

 恒星間旅行をしていた男女は、宇宙空間で瓶に入った手紙を拾う。その内容は「私、ユリウス・メルウはオリオン座のベテルギウスに宇宙旅行に出た。地球とそっくりな惑星に着陸すると、人間は知能を持たず、猿が文明を持っていた。私は文明を持つ猿たちの狩りに遭い、捕獲される。言葉を話す私に興味を持った猿は観察する。好意的なチンパンジーのジラから、この惑星は昔人間が文明を持っていた事を知らされる。猿たちは私を殺す決定をした。ジラの手引きでロケットで衛星軌道に出て、この惑星に来た宇宙船に乗り込む。地球に戻ると、猿が支配していた」。この手紙を読んでいた男女も猿で「ありえない」と言う。

 ブールは、人間と猿の立場を逆転させることによって、人間の愚かしさ、残酷さを暴き出そうとしたと思われる。しかも手紙を拾った物去ると言う皮肉を聞かせた寓話になっている。

 

 

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映画『猿の惑星』1968年、監督フランクリン・j・シャフナー。主演チャールトン・ヘストン

地球から宇宙船がオリオン座のベテルギウスに向かって打ち上げられる。テイラー船長たちは人工冬眠につく。ところが宇宙船はある惑星に不時着水する。人間は知能を持たず、猿が文明を持っていた。テイラーは猿に捕まる。猿は知能を持つテイラーを脅威とみなし、脳葉切開を行おうとする。チンパンジーのジラ博士の手引きでテイラーは人間の女性ノヴァと馬で、禁断地帯に逃げる。テイラーはそこで半分砂に埋もれた自由の女神を見つけ、自分はいつの間にか未来に地球に来て、人類は核戦争で滅亡し、文明を失ったことを知る。

最後の場面は原作と全く異なる。別の惑星に来ていたと思ったら、ここは地球で、人類はおそらく核戦争により文明を失っていたと言う、映画史上に残る衝撃的な場面である。映画は大ヒットし、第5作まで続編が作られた。

 

 

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映画『PLANET OF THE APES 猿の惑星』2001年、監督ティム・バートン。主演マーク・ウォールバーグ

 さらに、2001年にティム・バートン監督より再映画化された。

 宇宙船オベロン号は、遺伝子操作で高い知能を持つチンパンジーが操縦する探査ポッドで磁気嵐を探査するが吸い込まれる。レオのポッドも磁気嵐に吸い込まれて、未知の惑星に不時着する。そこは原始的な人間たちが、高い知能を持つ猿に支配される世界であった。レオは「禁断の聖域」で、約数千年前に不時着したオベロン号の残骸を見つける。レオは宇宙船を修理して地球に戻ると、猿が支配する世界だった。

映画の最後の場面は原作に近いものになったが、レオが戻った地球は猿が支配するのは唐突すぎて不評だった。1968年版のような衝撃はない。

これは第22回ゴールデンラズベリー賞で、最低リメイク賞を受賞した。また本作には第1作のテイラー役のチャールトン・ヘストンとノヴァ役のエステラ・ウォーレンがゲスト出演していたが、それぞれ最低助演男優賞と最低助演女優賞も受賞している。

 

 

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『猿の惑星: 創世記』(2011年)

 さらに再映画化され、第1作がなぜ猿が知能を持つようになったかを映画化した。この映画もヒットして続編が次々に作られ、今年2024年に第4作『猿の惑星/キングダム』が公開予定である。

 

 

 

6.『ブレードランナー』

原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』1968年、作者:フィリップ・K・ディック

リック・デッカードは、サン・フランシスコ警察署に所属する、逃亡アンドロイドを「処理」するバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)である。この時代は、本物の動物を飼うのが地位の象徴になっているが。経済力がないため、自室の在るビルの屋上でロボット羊(タイトルの電気羊)を飼っている。

6人のアンドロイドが火星から脱走して地球に侵入した事件が発生し、ハリイ・ブライアント警視は、部下のデッカードに残りの6人の処理を命じる。

デッカードは、逃走したアンドロイドに搭載されているネクサス6型脳ユニットを開発したローゼン協会を訪問する。重役のエルドン・ローゼンの姪、レイチェルにフォークト=カンプフ感情移入度検査法で試験を行ったデッカードは、レイチェルはネクサス6型脳ユニットのアンドロイドだと見破る。

捜査のためサン・フランシスコに戻ったデッカードに、世界警察機構所属のソ連の刑事を名乗る男が近づいて来る。しかし彼は、逃走したアンドロイドのポロコフで、殺されかけたデッカードは、レーザー銃でポロコフを射殺する。

デッカードはソプラノ歌手ルーバに検査を行おうとして変質者とみられ、警察に連行される。そこの賞金稼ぎフィルは、上司のガーランド警視がアンドロイドである事を見抜いて、射殺する。デッカードとフィルは、ルーバを射殺する。

フィルをアンドロイドではないかと疑ったデッカードは、フォークト=カンプフ感情移入度検査法で試験を行うが、結果は人間であった。

トラックの運転手ジョンは、知能が弱く、廃墟のビルに一人で住んでいた、同じビルに、プリスと言う女アンドロイドと、ロイとアームガードという夫婦のアンドロイドが同居する。ロイは脱走したアンドロイドのリーダーであった。ジョンは3人がアンドロイドと知らされるが、孤独だった彼は匿おうとする。

残った3人のアンドロイドの居場所を遂に特定し、廃墟のビルに突入したデッカードは、激しい戦闘の末、プリスとロイとアームガードを射殺する。

史上初めて一日で6体ものアンドロイドを倒したデッカードは、疲労困憊して家に帰る。

 

 

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『ブレードランナー』1982年、監督:リドリー・スコット、出演:ハリソン・フォード

映画の冒頭、壮大なコンビナートのような火を噴くロサンゼルスの上空をスピナーが飛び、タイレル社に向かう。原作者のフィリップ・K・ディックはこの場面を見て「まさに私が想像していたとおりのものだ」と喜んでいたと言う。映画は1982年6月25日に全米公開だが、ディックは完成を見ずに1982年3月2日に亡くなったのが残念である。

この世界は酸性雨が降り続き、巨大高層ビルが立ち並び、「強力わかもと」等の日本語の看板があり、時々日本語の会話が聞こえる、雑多な大都市になっている。シド・ミードのデザインによるスピナーなどの車両が未来的である。原作では本物の動物を飼うのが地位の象徴になっていたが、映画ではタイレル社で本物のフクロウを飼っており、市場で複製の動物を売っているのがその名残だろう。

原作のアンドロイドはロボットのイメージなので、映画ではレプリカントと呼ばれる人造人間に代わっている。主人公リック・デッカードは原作では逃亡アンドロイドを「処理」するバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)だが、映画では「非合法医療器具(blade)の運び屋(runner)」と言う意味の「ブレードランナー」と呼ばれている。

ネクサス6型レプリカントはほとんど人間と変わらず、フォークト=カンプフ検査法で辛うじて判断できる。このフォークト=カンプフ検査の再現も素晴らしい。

最後にレプリカントのリーダーのバッティは、寿命が尽きて静かに亡くなる。人間とは何か、考えさせられる映画になっている。SF映画の傑作の1つだろう。

 

 

 

7.『トータルリコール』

原作『追憶売ります』1966年、作者フィリップ・K・ディック。

政府機関の職員のダグラス・クウェールは火星に行きたいが金がないので、代わりに「リコール株式会社」で火星に言った記憶を植え付けてもらう。クウェールが火星に惑星間刑事警察機構の秘密捜査官として出張したと言う記憶を社員が植え付ける作業中に、クウェールは実は本物の秘密捜査官で火星に行った記憶が消されていた事がわかる。社員は作業を中断して、クウェールを家に帰す。すると、クウェールの思考を受信していた惑星間刑事警察機構の職員が家に来て、彼を殺そうとする。彼の記憶が完全に回復し、プロの殺し屋だったことを思い出す。惑星間刑事警察機構は彼をリコール社に連れて行き、地球を救ったと言う新たな記憶を植え付けようとする。すると、実際に彼が地球を救ったことがわかる。

 原作はわずか40ページ余りの短編である。「記憶と現実」がテーマで、どんでん返しが続き、ユーモアがある。

 

 

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映画『トータルリコール』1990年。監督ポール・ヴァーホーヴェン。主演アーノルド・シュワルツネッガー。

地球に暮らす建設労働者ダグラス・クエイドは、毎夜行ったことが無い火星の夢に悩まされていた。クエイドはリコール社に行き、火星に行ったという偽の記憶を植え付けてもらおうとする。ところが、彼の記憶が消されていて、彼は実は諜報員で、妻のローリーは彼の記憶が戻るかの監視役だったという恐ろしい事実が分かる。クエイドは妻ローリーや組織のリクターに襲われ、逃げだす。記憶を消される前の自分(ハウザー)のビデオの指示によって火星に行く。太った女性に変装して入境しようとするがバレ、組織に追われて逃げる。クエイドは酒場で美女メリーナに遭い、レジスタンスの指導者である、腹にもう1つの頭を持つミュータントのクアトーに会う。ところが治安維持部隊にクアトーは殺され、クエイドは採掘会社総督コーヘイゲンのもとに連行される。コーヘイゲンは「ハウザーは自分の部下であり、クアトーの居所をつかむため、記憶を消しクエイドとして地球へ送りこんだ」と語る。クエイドはレジスタンスのために働いたと思ったら、レジスタンスの指導者のクアトーに近付くために、前の自分とコーヘイゲンが練った計画だった。自分が確かだと思っていた現実と、さらに自分自身の人格までが次々に崩壊していく。クエイドとメリーナは、50万年前にエイリアンが作った酸素を発生させるリアクターがある地下氷河に向かう。コーヘイゲンが仕掛けた爆弾の爆風により、隔壁に穴が開き、クエイドとメリーナは真空に近い火星の外部に放り出される。しかし、クエイドはその直前に、50万年前にエイリアンが作ったリアクターを作動させ、酸素が発生し、火星に青い空が誕生する。クエイドは「これも夢かもしれない」と思いつつも、青く変わった火星の空の下でメリーナとキスを交わす。

これも『ブレードランナー』と同じく、原作者がフィリップ・K・ディックである。しかも、僅か40ページの短編なのに、かなりの創作が加えられ、SF冒険長編映画にするとは凄いものだ。

でも、見終わった後で、話がうまく出来すぎているような気がする。そう言えば、リコール社で「秘密諜報員として火星を旅する」コースを選択し、オプションで火星を救い、美女とのロマンス、二つ頭のミュータント、火星の青い空も付けてもらう。その通り、クエイドは記憶を消された秘密諜報員で、リコール社で顔を選んだ美女そっくりのメリーナが出てきたし、クアトーは2つ頭のミュータントだった。クエイドは火星を救い、火星に青い空が誕生した。これは現実なのだろうか、それともダダがリコール社に植え付けられた偽の記憶なのだろうか。

偽の記憶が本物と区別できないとき、現実とか自分の人格とかは、はたして意味を持つのだろうか。現実とは何か。人格とは何か。考えさせられる映画である。

 

 

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映画『トータルリコール』2012年、

この『トータルリコール』は、さらに2012年に再映画化された。

化学戦争によりブリテン連合(UFB)とオーストラリアの労働者コロニー以外は壊滅していた。コロ二-の市民ダグラス・クエイドは、巨大エレベーター「フォール」を使って毎朝地球の裏側のUFBに通勤している。主人公は火星に行かず、スケールダウンしている。さらに原作にも前作にもない「フォール」が登場するが、実現は不可能だろう。

前作は、物語は夢だったのではないかと疑問を残して終わるので面白みがあった。本作では夢だったと思わせる根拠が弱いので、面白みが薄い。カーチェイスやエレベーターでのアクションなど、アクション映画として見れば面白いが、夢か現実か分からなくなるという点では前作を越えられなかった

 

 

 

8.『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』

原作『バスカヴィル家の犬』1901年、作者:コナン・ドイル 

 ジェイムズ・モーティマー医師がやって来て、ホームズに仕事の依頼をする。モーティマー医師はバスカヴィル家の伝説を話す。そして、彼が主治医をしているチャールズ・バスカヴィル卿が急死し、伝説のバスカヴィル家の犬に殺されたと思われるので、捜査を依頼する。

 遺産相続人のヘンリー卿とモーティマー医師がバスカヴィル家に向かうので、ホームズは助手のワトスンを同行させ、情報収集と、経過報告を頼む。

 ワトスン達がバスカヴィル家に付くと、付近の荒野には脱獄囚が潜伏していると言う。夜には、不気味や犬の唸り声が聞こえる。執事のバリモアは、夜怪しい行動をする。ワトスンは近くのメリピット荘に行き、ステイプルトン兄妹に聞き込みをする。

 荒野でヘンリー卿も犬に殺される事件が発生するが、ヘンリー卿の服を着た脱獄囚だった。囚人はバリモアの弟だった。

 霧の夜、ヘンリー卿が燐光を放つ魔犬に襲われる。ホームズが駆けつけ、犬を撃ち殺す。

ステイプルトンはチャールズ卿の弟の子で、チャールズ卿から魔犬の伝説を聞き、心臓が悪い彼を死に追いやろうと考えた。チャールズ卿を夜中に館の外に連れ出し、犬に燐を塗り付けて魔犬に仕立て、門で待っていたチャールズ卿にけしかけ、恐怖のあまり心臓発作を起こして息絶えた。と分かる。

 詳しいあらすじは私のブログ「『バスカヴィル家の犬』原作小説のネタバレの詳しいあらすじ」と「『バスカヴィル家の犬』原作小説のネタバレの感想 魔犬伝説と荒涼とした風景が不気味な伝奇的推理小説」を読んでください。

 

 

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映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』2022年、監督:西谷弘、主演:ディーン・フジオカ

原作が書かれたのは120年も前のイギリスなので、そのまま現代の日本を舞台では映像化できない。原作と関連があるのは、遺産相続をめぐる殺人、黒犬の呪い(原作は魔犬の呪い)、新聞の活字を貼り合わせた脅迫文、千里の片方の靴が行方不明、登場人物の名前が原作と似ているくらいで、ほとんど別の話と言ってもよかった。

原作では大型犬に燐(夜光塗料?)を塗って魔犬に仕立て上げていたが、本作ではドローンに犬の作り物を取り付けるとは、近代的で面白い。また、心臓発作で殺すのは難しいと思うので、狂犬病で殺すという方法も感心した。でも、狂犬病ウイルスは消毒液に入れたら死なないのだろうか?中身を替えたのか?

複雑な人間関係や憎愛などじっくり描いていたのがよかった。

 詳しくは私のブログ「『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』ネタバレの詳しいあらすじ」及び「『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』ネタバレの感想 原作と違う複雑な人間の憎愛が生んだ悲劇」「『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』劇場版の登場人物名と原作との関係」を読んでほしい。