『アルマゲドン』科学的におかしい点・疑問点を検証する | アンパンマン先生の映画講座

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映画の面白さやストーリーの素晴らしさを伝えるため、感想はネタバレで、あらすじは映画を見ながらメモを取って、できるだけ正確に詳しく書いているつもりです。たまに趣味のAKB48のコンサートや握手会なども載せます。どうかご覧ください。

 映画『アルマゲドン』は「ネタバレの感想」で書いたように非常に感動的な物語であるが、科学的におかしい点や疑問点が沢山あり、感動を薄めているのが残念である。そこで、『アルマゲドン』の疑問点を検証してみたいと思う。

 

1.流星雨が大気圏外で燃えている?

 スペースシャトル・アトランティスを襲った流星雨が光っていたので、大気との摩擦で光っていると思われる。スペースシャトルの軌道は、通常は地上200~300kmなので大気が非常に薄い。その高度では流星雨は燃えない。もし流星雨が燃えるなら、秒速8kmで飛行しているスペースシャトル自体も燃えるはずである。

 

2.小惑星を肉眼で発見した?

 アマチュア天文家のカールは、自宅の大口径の天体望遠鏡を肉眼で覗いて小惑星を発見した。カールは「宇宙で何か燃えている」と言っていたが、「1」で説明したように宇宙では摩擦熱で燃えない。

通常は日にちを変えて撮影した写真を比較し、背景の恒星に対して移動している小惑星を探す。小惑星の移動はわずかなので、肉眼では移動は確認できないはず。

 また、天体観測中は暗い星を見るために目を暗闇にならすため、ドーム内を消灯している。カールはドーム内を明るくしていたが、暗い天体は見えないはず。映画の撮影のためだろう

 

3.小惑星の命名権を与えるのはNASA

Wikipediaを引用すると「新天体と思われる天体を2夜以上にわたって位置観測し、その観測結果が小惑星センター (Minor Planet Center, MPC) に報告されると、発見順に仮符号が与えられる。仮符号を付けられた天体は既知の天体との軌道の同定作業が行われる。最終的に軌道が確定して新天体だと確認されると、小惑星番号が与えられた上で命名される。発見者によって提案された新小惑星の名前は国際天文学連合(IAU)の小天体命名委員会によって審査される。」

 つまり、小惑星を発見したと認めるのは小惑星センターであり、NASAではない。カールの報告先は間違っている。物語の進行上、NASAだけが小惑星の存在を知っていた事にするためか。

 

4,小惑星を観測できる天文台だけに通達?

 NASAは小惑星の発見を秘密にするため、小惑星を観測できる天文台には通達したと言っていた。でも、その小惑星を発見したのはアマチュア天文家のカールなので、カール並みの天体望遠鏡を持つアマチュア天文家にも通達を出さなければならないのでは?

 

5.小惑星はカリフォルニア州と同じ大きさ!?

 トルーマンが大統領に小惑星の長さがカリフォルニア州くらいと報告した。カリフォルニア州の南北の長さは1240㎞、東西は402.5㎞なので、長径が1240㎞くらい、短径が400kmくらいと言う意味だろう。それにしても1200km以上の小惑星とはとてつもなく大きい。最大の小惑星は1801年に発見されたケレスで、直径933kmである。200年も前に発見された最大の小惑星より大きい小惑星が、今まで未発見とは考えられない。

実際は1km以下の小惑星は発見しにくいそうである。2005年に小惑星探査機ハヤブサが着陸した小惑星イトカワの長径は535m、2018年にハヤブサ2号が着陸した小惑星リュウグウの直径は700mである。この程度の大きさなら未発見もあり得るが。

 

6.その巨大小惑星が衝突した被害はそれだけ?

 映画冒頭のように、恐竜が絶滅したのは直径約10㎞の小惑星が落下し、半径数百kmに及ぶ火災と、高さ数百mの津波を引き起こし、数十億トンの硫黄を大気中に放出し、そのガスが太陽を遮って地球を冷やしたため、と考えられている。

 映画の長径1240㎞の巨大小惑星が地球に衝突した場合の被害を、トルーマンはハリーに「小惑星本体が大洋に落下すると、一瞬で海水を沸騰させ、海底に激突する。高さ5000メートルの津波が太平洋を時速1600キロで突っ走り、西海岸からコロラドまで飲み込む。日本もオーストラリアも消滅。人類の半分は焼死。残りはその後の氷河期で凍死。」と説明していた。

 でもこの被害は直径10kmの小惑星とほぼ同じで、この100倍も大きい小惑星が衝突したら、こんな被害で済むの?

「アストロアーツ」によれば「月の起源については地球に火星(直径6,779 km)程度の巨大天体が衝突してできた「巨大衝突説(ビッグ・インパクト)」が有力であるが、2017年にイスラエル・ワイツマン科学研究所の研究チームは「一度の巨大衝突で月が誕生」したのではなく「複数回の小天体の衝突で月が誕生」したという理論に基づいたコンピュータシミュレーションを行った。新説では、地球の10分の1から100分の1サイズの小天体が地球に衝突し、その破片から小さい月が作られる。形成初期の太陽系には多くの小天体が存在していたので、こうした天体は一度だけではなく何度か地球に衝突し、小さい月も複数作られたはずだ。そしてその小さい月同士が同じ軌道を回るようになれば、衝突して大きくなり、最終的に現在の月ができあがったと考えられる。」とある。

 地球の赤道の直径は約1万2756kmなので、その10分の1から100分の1だと、約1300㎞~130㎞である。映画の小惑星の直径が1240㎞なので、この新説の最大の大きさの小惑星に値する。映画の小惑星が地球に衝突したら、津波どころか、地球は破片になるはずである。

 

7.穴の深さが浅すぎるのでは?

 映画では。小惑星に深さ240mの穴を掘り、その底で核爆弾を爆発させて真2つに割る計画だった。でも短半径200kmの小惑星に対し、穴の深さはたった240m、短半径のわずか0.12%の深さにすぎない。中心で爆発させた方がいいと思うのだが、240mにこだわった意味は何だろう?

 しかもアルマジロのドリルは斜めに掘っていた。垂直に掘らなくてもいいのだろうか?

 

8.小惑星を半分に割るのに核爆弾1個でいいの?

核爆弾1発であんな大きな小惑星が真2つになるのだろうか?割れたとしても、細かい破片が沢山出るのでは。映画の様に2つの破片に分かれて地球を避けるのはおかしい。

 「シネマ・アップデート」によると「英国のレスター大学の物理学者が、科学的に研究しています。その名も、「Could Bruce Willis Save the World?」(ブルース・ウィリスは世界を救えるか?)という題の研究です。そちらの物理学者の研究では、直径1,000キロメートルの小惑星を2つ割るには、地球上で爆発したことがある最も威力の大きい核爆弾の10億倍の威力の爆弾が必要と指摘されています。つまり、主人公たちが爆発させた核爆弾の量では小惑星を割って地球を救うことはできない」

 

9.小惑星の重力はどのくらい?

小惑星に着陸した隊員と掘削員は機材を運ぶときは軽そうでなかったし、地球上と同じように歩き、重力が小さいとは見えなかった。ところがA.J.達が乗ったアルマジロが渓谷に行く手を遮られた時、スラスターを噴射して渓谷を飛び越えたので、かなり重力が小さいと思った。この小惑星の重力はいったいどのくらいなのだろう?計算してみた。

まず小惑星の体積を計算する。小惑星はカリフォニアくらいの大きさ(南北1240km、東西402.5km)だそうなので、長半径620km、短半径200kmと200kmの楕円体とする。

体積=(3/4)×π×620km×200km×200km

=103881997.07870247960090637×1015

 小惑星の密度は大型の小惑星か、探査機が測定し他小惑星など一部しか分かっていない。一番大きいケレスが2.161g/cm。2番目に大きいベスタが5.0 g/cm3。ハヤブサが探査したイトカワが1.90g/cm。外国の探査機が調査したイーダが2.6 g/cm3。マチルドが1.3 g/cm3である。

 映画の小惑星は鉄を含んでいたので、ベスタ並みに密度が大きいと考えると、体積に密度5.0 g/cm3をかけて

質量=103881997.1×1015㎤×5.0g/cm

=519409985.4×1015

 「数値」というサイトに「太陽系の天体の重力」の計算式があった。それによると

 重力の公式 F=G×m1×m2÷r2

F :重力 [ N ]    G :万有引力定数 6.67384×10-11 [ m3・kg-1・s-2 ]

m1:物体1の質量 [ kg ]    m2:物体2の質量 [ kg ]

r :物体1と物体2の間の距離 [ m ]

 m1に小惑星の質量=519409985.4×1012㎏   m2の質量を1㎏

 小惑星の表面にいるとしてr=200km=200×10mとして計算すると

重力 F = 0.8666147842404839 [ N ]

 質量約102gの物体に働く重力が1ニュートンなので、質量約88gの物体に働く重力になる。 つまり1000gが88gの重さになるので、約0.088Gである。

 また、映画の小惑星の密度がケレスやイトカワ並みの2.0g/cmだとして同様に計算すると

 重力 F = 0.346645913762932 [ N ]

 つまり、約0.035Gである。

 従って、小惑星の重力は約0.035G~約0.088Gと考えられる。これは地球の重力の3.5%~8.8%であり、体重(宇宙服を含む)100kgの人が小惑星上では体重が3.5kg~8.8kgにしかないほど、非常に重力が小さいという事である。

 このような低重力下では、タッカーが蹴とばすと宇宙に飛んでいく、と言っていたのもあながち嘘ではない。歩くのも気を付けないと体が宙に浮くだろう。宇宙服に推進装置がついて、使うと移動が楽と言っていたが、使わなかったのはなぜだろう?

ところが隊員や掘削員の歩き方は地球と同じ。物が落ちても落下速度も地球と同じ。A.J.が石を投げて初めて重力が小さいと気付いたのは鈍すぎる。アルマジロにスラスターがついていたのは、『2001年宇宙の旅』のムーンバスのように、低重力を利用して飛ぶためだろう。

 

10.スペースシャトルの発射台が近い。打ち上げ間隔も短い

 ロケットの発射台は、もし失敗して爆発した時の被害を避けるために数km離す。また2基のスペースシャトルをほぼ同時に打ち上げていたが、衝突を防ぐため同時には打ち上げないはず。映画で先に発射したシャトルがブースターを切り離した時、すぐ後ろをシャトルに当たりそうになった。

 なお、シャトルが真空の宇宙を飛ぶときにジェット機のような音がしていた。真空では音が伝わらないが、『スター・ウォーズ』の様に効果音と考えよう。

 

11.ロシアの宇宙ステーションが回転するのはなぜ?

 スペースシャトルがドッキングする直前に、ロシアの宇宙ステーションが回転を始める。映画では「作業の効率を上げるため」と言っていたが、ありえない。

 まず、回転している宇宙ステーションにドッキングするのは、スペースシャトルもその回転に合わせなければならず、至難の業で大変危険である。

 回転すると外側に向かって遠心力(人工重力)が発生する。円筒形の宇宙ステーションの外側の壁全部に向かって人工重力が発生するので、映画のように片面にだけ人工重力が発生するのはおかしい。

 第一、無重力の方が物を運ぶのは楽だと思うが。

 

12.燃料をシャトル内部から補給するのはおかしい

 スペースシャトルは、ロシアの宇宙ステーションで液体酸素を補給する。燃料区域から2本のホースを伸ばして、インディペンデンス号とフリーダム号の中に引っ張っていたが、燃料タンクの注入口は、普通は外側についているのでは?

 それに、燃料は液体酸素(正確に言えば酸化剤)だけでなく液体水素(こっちが燃料)も必要である。燃やすと水になり、水の化学式はH2Oなので、水素は酸素の2倍必要である。水素は補給しなくても大丈夫なの?

 

13.ロシアの宇宙ステーションがボロすぎる

 燃料を補給中に燃料(液体酸素)が漏れ、引火してロシアの宇宙ステーションが大爆発する。燃料バルブを閉めようとすると折れるし、老朽化し過ぎでは?

 ロシアの宇宙ステーションは名前が出ないが、ミールと思われる。ミールは1986年にコアモジュール打ち上げられ、その後ドッキングを繰り返して1996年まで増築された。映画で「宇宙で11年が経過」と言っていたが、映画の公開は1998年だが撮影が1997年なので、年代も合っている。

ミールは1997年に内部で火災が発生し、ハッチを閉めるときにハッチを通していた電線を切断して停電になった。同じ年に無人輸送船が衝突して空気漏れが発生し、一時避難した。と事故が相次ぎ、2001年に大気圏に再突入させて廃棄処分された。本物のミールも映画のような老朽化があったかもしれない。

 なお、ミールの構造図を見ると、燃料区域はない。

【図は苫小牧市科学センターHPより】

 

14.月周回軌道に入るなら減速するのでは?

 シャトルは月の周回軌道に入り、月の裏側を通って小惑星の後ろに回るはずである。月に接近した時、シャトルは加速していた。それでは月を通り越すのでは?月周回軌道に入るには減速しなければならない。

 なおトルーマンは「9.5Gが11分続く」と言っていたが、最高12Gにもなった。予定より加速し過ぎて軌道が変わったのでは?