原作:コナン・ドイル 1901年
主な登場人物…役柄
シャーロック・ホームズ…ロンドンに住む名探偵。
ジョン・H・ワトスン…ホームズの助手。元軍医。
ジェイムズ・モーティマー…医師。今回の事件の依頼人
ヘンリー・バスカヴィル…チャールズ卿の甥。莫大な遺産を相続した若者。
イライザ・バリモア…バスカヴィル家の家政婦。ジョンの妻。
ジャック・ステイプルトン…近くに住む昆虫学者。
ベリル・ステイプルトン…ジャックの美しい妹。
フランクランド…近くに住む老人。アマチュア天文学者。
ローラ・ライオンズ…クーム・トレイシーに住むフランクランドの娘。
セルデン…プリンスタウン監獄から脱獄した囚人。
カートライト…ディストリクト・メッセンジャー会社で働く少年。
レストレード警部…スコットランド・ヤード所属の警察官。
『第1章 シャーロック・ホームズ君』
昨夜、訪ねて来た客が忘れていった「ジェイムズ・モーティマー」のステッキを見て、ワトスンとホームズは、持ち主を推理する。そのモーティマー医師がやって来て、ホームズに仕事の依頼をする。
『第2章 バスカヴィル家の呪い』
モーティマー医師はバスカヴィル家の伝説を話す。「大反乱の時代のバスカヴィル荘園の領主ヒューゴー・バスカヴィルは乱暴で残忍な男だった。ヒューゴーは思いを寄せる娘をさらった。娘はムア(荒地)に逃げ出し、ヒューゴーは猟犬を放って追わせた。ムアで娘の死体とヒューゴーの死体の脇に、巨大な黒い猟犬のような物がいた」
次にモーティマー医師は、新聞記事を見せる。「チャールズ・バスカヴィル卿が急死した。使用人バリモア夫妻(夫が執事、妻が家政婦)、主治医のモーティマー医師の証言では、しばらく体調が悪かった。6月4日、ロンドンへ発つ前夜、チャールズ卿がイチイ並木道へいつもの夜の散歩に出かけたが、戻ってこなかった。バリモアが探すと、道のつきあたりにチャールズ卿の遺体があった。遺体に暴行を受けた跡はないが、顔は苦痛にゆがんでいた。モーティマー医師は心臓疲労による死ではないかと説明し、検死解剖団も同様の考えだった。後継者はチャールズ卿の弟の子息で、アメリカのヘンリー・バスカヴィル氏である。」
モーティマー医師は「あの付近には、ラフター館のフランクランドと、博物学者のステイプルトンが住んでいる。チャールズ卿はあの伝説をひどく気にし、夜のムアには出なかった。死亡する3週間前ほど前の晩に彼の屋敷に訪問すると、大きな黒い生物を見た。彼は私にバスカヴィルの伝説を教えた。チャールズ卿が亡くなった晩、執事が馬屋番に使いを出し、私は彼の死後1時間弱でバスカヴィル館に着いた。イチイの並木道の足跡をたどると、ムアへの門の前で足を止め、その後は爪先立って歩いていたようだった。遺体はものすごい恐怖か何かで顔が引きつっていた。外傷はない。少し離れた所に、巨大な猟犬の足跡があった。」と話す。
『第3章 問題は何か』
並木道はイチイの生け垣が2列に並び、潜り抜けられない。ムアに出る高さ5フィートの門以外に出入り口はなく、錠がかかっていた。足跡と煙草の灰から、チャールズ卿がそこに数分立っていた。彼の足跡は砂利の小道一面に残っていた。
また、チャールズ卿が亡くなる前に、3人がムアでバスカヴィルの魔犬そっくりの、青白い光を帯びた巨大な怪物を見たと言う。
チャールズ卿の遺産相続人のヘンリー・・バスカヴィル卿が1時間15分後に駅に着くので、モーティマー医師は、危険なバスカヴィル館に連れていっていいか、ホームズに相談する。ホームズは、ヘンリー卿を迎えに行き、何も言わずにおく。明日朝10時にヘンリー卿を連れてここに来るように、と言う。
ホームズは、部屋の中で推理するので、ワトスンに夜まで戻ってこないように言う。ワトスンはクラブで過ごし、9時に戻ってくる。
ホームズは地図専門店で手に入れた、ムア一帯の地図を見せながらワトスンに説明する。バスカヴィル館、ラフター館、ステイプルトンの家、農家2軒、プリンスタウン大監獄が近くにある。
ホームズは、チャールズ卿の爪先の足跡は、走っていたから。死にもの狂いで走って逃げて、心臓が破裂したと言う。彼がムアの門の前で待っていたのは誰か?
『第4章 サー・ヘンリー・バスカヴィル』
10時にモーティマー医師とヘンリー卿がやって来た。ヘンリー卿はホームズに、宿泊先のノーサンバーランド・ホテルに届いた手紙を見せる。宛名が乱暴に書き殴ってあり、消印は前の晩。ホテルに泊まると決めたのは、モーティマー医師と会ってからだ。手紙は印刷された活字を貼り合わせ「生命もしくは理性が大事なら、ムアに近づくな」とあった。
ホームズは、『タイムズ』の昨日の論説欄から切り抜かれており、教養のある人物で、宛名を乱暴に書き殴ってあるのは、筆跡を知られないように。切り抜きがデコボコなのは、焦っていたから。ペンが引っ掛かり、3回もインクが切れているので、ホテルのインクとペンだろうと推理する。ホームズは手紙の台紙を見て、何かに気付く。
ホームズがヘンリー卿におかしな事がないか聞くと、買ったばかりの茶色の靴の片方だけ無くなっていた。
モーティマー医師はヘンリー卿に、バスカヴィル家の伝説を話す。手紙の警告もあり、ホームズはバスカヴィル館に行くのは危険だと忠告する。ヘンリー卿はホテルで一人考えたいので、2時にホームズとワトスンがホテルに昼食に来るように頼む。
2人がホテルに向かうのを、ホームズとワトスンが追う。ホームズは、ヘンリー卿が泊まったホテルが分かったのは、後を付けたからだと考え、ヘンリー卿達をつける馬車を見つける。馬車に乗っていた黒い顎髭の客がホームズ達に気付き、猛スピードで走り去る。
ホームズはディストリクト・メッセンジャー会社に行き、カートライト少年に23シリングを渡し「チャリング・クロス界隈にある23のホテルを回って、外にいるポーターに1シリングを渡し、昨日のゴミを調べさせてほしいと頼む。ハサミで切り抜いた跡がある『タイムズ』を探してくれ」と頼む。
ホームズは2704号の馬車の御者が誰だか、電報で問い合わせる。
『第5章 3本の糸が切れた』
ホームズとワトスンはホテルに行く。ホームズは受付で宿泊者名簿を見せてもらう。ヘンリー卿の後に2組が泊まっていたが、素性がはっきりした客で、怪しい人物はいなかった。ホームズ達が2階に行くと、ヘンリー卿が今度は古い黒の靴がなくなったと、ボーイに怒っていた。
4人が昼食をとった後、ヘンリー卿は、今週末にバスカヴィル館に行くと言う。ホームズはヘンリー卿をつけていた黒い顎髭の男に心当たりはないか聞くと、モーティマー医師は、チャールズ卿の執事のバリモアで、館の留守番をしていると話す。ホームズはバスカヴィル館のバリモア宛に「ヘンリー卿を迎える支度は万全か?」と電報を打つ。さらに最寄りの電報配達局の局長に「バリモア宛の電報を本人に手渡しされたし。不在の場合はヘンリー卿に返信を請う」と電報を打つ。
バリモアは4代目になる執事で、チャールズ卿から遺産を夫婦それぞれ500ポンド貰った。モーティマー医師や複数の個人、多数の慈善団体に遺産が分配され、残り74万ポンドがヘンリー卿に渡る。
ホームズはヘンリー卿に、一人でバスカヴィル館に行ってはいけないと言い、ホームズは他の仕事があるので、ワトスンが一緒に行くことになる。戸棚の下から、無くなった新しい茶色の靴が出てきた。
夕食前に電報が2通届いた。「バリモアは館にいるとのこと。バスカヴィル」と「指示通り23ホテルを回るも、切り抜き後の『タイムズ』発見できず。カートライト」。ホームズは「2本とも糸が切れてしまった」と残念がる。
ホームズの家に馬車2704号の御者が、何の苦情かと尋ねてきた。ホームズが今日の客を尋ねると、「シャーロック・ホームズという探偵が一日馬車を貸切った。ノーサンバーランド・ホテルで待って、2人の旦那をつけた。客が急に馬車を全速力で走らせろと言った。客は黒い顎髭があった。」と話す。ホームズは悪賢い奴だと、デヴォンシャーに行くワトスンを心配する。
『第6章 バスカヴィルの館』
ヘンリー卿、モーティマー医師、ワトスンは、予定通り列車でデヴォンシャーに出発する。ホームズはワトスンに、事件に関係ありそうなことは何でも報告し、バリモア夫妻や近所の人物について、特に気を付けて観察してほしいと頼む。ワトスンはピストルを携帯する。
列車が小さな田舎の駅に着くと、4輪馬車が迎えに来ていた。馬車がムアの中を進むと、人殺しの囚人セルデンがプリンスタウン監獄から逃げ、ライフル銃を構えた兵士が道を見張っていた。
馬車はバスカヴィル館に着く。バリモア夫妻がヘンリー卿とワトスンを迎え、モーティマー医師は馬車で家に帰る。バリモア夫妻は、執事を辞めたいと話す。
ワトスンがなかなか寝付かれずにいると、真夜中に、屋敷の中から女のすすり泣く声が聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。
『第7章 メリピット荘のステイプルトン兄妹』
翌朝、ワトスンはヘンリー卿に、夜中に女がすすり泣く声が聞こえなかったか尋ねると、彼も聞いたと言う。ヘンリー卿がバリモアに聞くと、心当たりが無いと答えたが、夫人は泣き腫らした顔をしていた。
ワトソンはグリンペンの郵便局長に会う。電報を届けたのは郵便局長の息子で、バリモアは屋根裏に上がっていたので、奥さんに渡したと話す。
昆虫学者のメリピット荘のステイプルトンが、ワトスンに声を掛け、メリピット荘に案内する。ここにきて2年で、妹と暮らしていた。この土地にはグリンペン・マイアーの底なし沼があり、危険だと教える。
すると、悲しげなうめき声がムアじゅうに低く響く。ステイプルトンは、農民逹はバスカヴィル家の魔犬が獲物を求めていると言い、1、2度聞いた事があると言う。丘の斜面には新石器時代の石を並べた屋根のない小屋が沢山あった。ステイプルトンは蝶を見つけて追いかける。
メリピット荘の方から、ステイプルトンの妹ベリルが来て、ワトスンにすぐにロンドンに帰るように言い、兄には内緒にして欲しいと頼む。蝶を追うのを諦めたステイプルトンが来る。ベリルはワトスンをヘンリー卿だと勘違いしていた。
メリピット荘に着くと、使用人が迎える。ステイプルトンは学校を経営していたが、伝染病が流行って生徒が3人死に、資金も底を突き、この地に来て植物学と動物学のフィールドワークをしていると話す。
ワトスンがバスカヴィル館に戻る帰り道、ベリルが先回りしてワトソンを待っていた。ワトスンが先の警告の意味を尋ねると、ベリルは、魔犬の話をする。
『第8章 ワトスン博士の最初の報告』
ワトスンはホームズに手紙を送った。「10月13日。脱獄囚は、2週間になるが発見されていないので、ムアにはいないと思われる。ステイプルトンはバスカヴィル館を訪ねて来て、我々をヒューゴー伝説のゆかりの地の不気味な岩山に連れて行った。帰りにメリピット荘で昼食をご馳走になった。その時、ヘンリー卿はステイプルトンの妹に強く惹かれたようだが、妹は常に兄の顔色をうかがっている。兄は妹の結婚話には反対のようだ。木曜日、モーティマー医師とステイプルトン兄妹が館にやって来た。ヘンリー卿の頼みで、モーティマー医師は皆をイチイの並木道に連れ出し、チャールズ卿が亡くなった晩の出来事を詳しく説明した。
ラフター館のフランクランドにも会った。この老人は怒りっぽく、周りの住人を様々な内容で訴えていた。アマチュア天文学者の彼は、望遠鏡でムアを見渡し、脱獄囚を見つけようとしていた。
ヘンリー卿がバリモアに電報を受け取ったか尋ねると、妻から貰ったと答えた。バリモアは、何か信用を無くすような事をしたのかと尋ね、ヘンリー卿はそうでないと証明するために、古服を沢山バリモアに譲った。
バリモア夫人は泣き顔だったことが何度かあり、夫が暴力を振るっているのではないかと疑っている。昨夜午前2時頃、自分の部屋の前を通る者があって目が覚め、ドアを開けて覗くとバリモアだった。後を追うと、廊下の突き当りの部屋に入り、ロウソクを窓ガラスに押し付けるようにしていた。」
『第9章 ワトスン博士の第2の報告』
「10月15日。翌朝、バリモアが入った部屋を調べてみた。彼が外を眺めていた西側の窓は、ムアを見渡せた。何か、あるいは誰かを捜していたに違いない。ヘンリー卿に話したら、バリモアが夜中歩き回っている事に気づいており、一緒に調べようと言う。
今日、ヘンリー卿が一人で出かけ、ワトスの同行を断る。ワトスンがこっそり後を追うと、彼は小道でステイプルトン妹と立ち話していた。そこにステイプルトンが来てヘンリー卿を罵り、妹を連れ帰った。ワトスンに会ったハンリー卿は、彼女が運命の人だと思うのに、兄の行動は訳が分からないと話す。その日の午後、ステイプルトンが来てヘンリー卿に非礼を詫びる。仲直りの印に、金曜日にワトソン達とメリピット荘で食事をする事になった。兄は、妹が人生の全てで、妹がいなくなると思うと矢も楯もたまらなくなったのだと言う。
ヘンリー卿の部屋でワトソン達が2時まで起きていると、廊下に足音がした。2人はバリモアを追うと、彼は例の部屋に入る。ヘンリー卿がバリモアに何をしているか聞きただすが、話さない。ワトスンは信号を送っていたと思い、ロウソクを掲げると、ムアから窓に向かって光がさす。ヘンリー卿が、相手が誰か問うと、答えらえないと言う。バリモア夫人が来て、相手は弟の脱獄囚のセルデンで、明かりは食べ物の用意ができた合図で、向こうの明かりにバリモアが食べ物を運んでいた、と教える。
それを聞いたワトスンとヘンリー卿は、セルデンを捕まえに向かう。途中で犬の鳴き声を聞く。明かりの場所に行くと、バスカヴィル家にだけ見えるように、岩の割れ目に火のついたロウソクがあった。人が見えたのでワトスンとヘンリー卿が飛び出すが、脱獄囚は逃げて行く。すると、脱獄囚とは別に、岩山の上に人影があったが、すぐに消えた。」
『第10章 ワトスン博士の日記から』
ワトスンは日記を元に事件を説明する。
10月16日。犬はどこにいるのか?岩山の人影は誰なのか?バリモアがヘンリー卿に、進んで秘密を明かしたのに、義理の弟を追いかけたのは公平でないと文句を言い、2、3日のうちに南アメリカに向かう手筈が整っているので、警察に知らせないで欲しいと頼む。ヘンリー卿は了解する。バリモアが、チャールズ卿が亡くなった時に門で待っていたのは、イニシャルがL.L.の婦人に会うためだった。あの朝、手紙が届き、暖炉の中に燃え残った「10時に門の前で待っています」と、L.L.のサインが付いた手紙があった、と教える。ワトスンは手紙でホームズに教える。
10月17日。一日中土砂降りの雨。夕方、男が立っていた岩山に行く。帰りに馬車でやって来たモーティマー医師に乗せてもらう。近所にイニシャルL.L.の女性がいないか尋ねると、モーティマー医師はクーム・トレイシーに住むローラ・ライオンズ、フランクランド老人の娘の名を挙げる。
館に戻ったワトスンはバリモアに、弟は出発したか尋ねると、3日前に食べ物を運んでから音沙汰がないと言う。また弟の話では、ムアにもう一人の男がいて、丘斜面の古代の石の小屋に住んでいる。男の子が必要な物を運んでいる、と言う。
『第11章 岩山の男』
10月18日。ワトスンはクーム・トレイシーに行き、ローラ・ライオンズに会う。チャールズ卿が亡くなった日に「10時に門の外で待っている」と言う手紙を書いたか尋ねると、彼女は認める。しかし、行かなかったと言う。離婚訴訟中の夫から虐められていたので、チャールズ卿に助けを求めたが、別の所から助けを貰ったからだと言う。
ワトソンが馬車で館に帰る途中、大通りの庭の門の前でフランクランド老人がワトスンを呼び止め、いくつかの訴訟で勝った祝いにワインをご馳走すると言う。老人は、ムアにいる脱獄囚に食べ物を運ぶ子供を何度も見たと言う。ちょうど人影があり、ワトスンが望遠鏡で覗くと少年の姿を見る。
ワトスンは帰り道、少年を見た所に向かう。屋根が残っている古い石の小屋に、人が住んでいる痕があった。小屋の主が帰って来るのを待つと、ホームズだった。
『第12章 荒れ地の死』
ホームズは石の小屋を根城にして、バスカヴィル家の事件について調べていた。ホームズが館にいると相手が警戒するし、自由に行動するためだと言う。必要な物やワトスンの手紙も、カートライト少年に運んでもらっていると話す。
ワトスンはローラ・ライオンズの話をする。ホームズは、彼女とステイプルトンがごく親しいと話す。また、ステイプルトンの妹は、本当は妻だと教える。ロンドンでホームズ達を嗅ぎまわっていたのはステイプルトンで、警告を送ったのは彼の妻だと考えられた。ワトスンの話から、離婚話が持ち上がっているローラは、独身だと思っているステイプルトンを頼っている、とホームズが話す。
ホームズは、ステイプルトンはヘンリー卿を殺そうとしていると話す。あと2日あれば事件を解決できるので、ヘンリー卿を守って欲しいと頼む。
その時、物凄い悲鳴と、犬の唸り声が聞こえた。ホームズとワトスンは、悲鳴の方向に走る。辺りを探すと、頭が潰されたヘンリー卿の遺体を見つける。2人は、助けられなかった事を後悔する。
しかし、ロウソクの光で顔を見ると、ヘンリー卿の服を着た脱獄囚セルデンだった。バリモアがヘンリー卿から貰った古着を、セルデンに譲ったと思われた。ホームズは、ホテルで盗まれた靴の臭いを嗅いだ犬が、ヘンリー卿の服の臭いで襲ったのだろうと言う。
ムアの向こうからステイプルドンがやって来る。彼は死体がヘンリー卿でないと知って驚き、がっかりしている事を隠す。ステイプルは、悲鳴以外に何か聞いたか尋ね、幽霊犬の噂があったので聞いたと言う。ワトスンは、彼は崖の上から落ちて首の骨を折って死んだのだろうと話すと、ステイプルトンはほっとした様子だった。ステイプルトンは、ワトスンの連れをホームズだと見抜く。
ワトスンとホームズは、バスカヴィル館に向かう。ホームズは、ステイプルトンがあの男を殺した証拠が無いと言う。確かな事実を掴むために、ローラに協力してもらう、と話す。
『第13章 網を張る』
ホームズを見てヘンリー卿は喜ぶ。ホームズはヘンリー卿とバリモア夫妻に、セルデンが死んだと伝える。食事の席でホームズは、壁に並んだバスカヴィル家の一族の肖像画に注目する。
ホームズは広間のヒューゴーの肖像画が誰かに似ていないかと、ワトスンに質問する。ワトソンは、ステイプルドンとそっくりな事に気付く。ホームズは、彼はバスカヴィル家の一員だと言う。
翌朝、ホームズはグリンペンに行き、セルデンが死んだと知らる。ホームズはヘンリー卿に「ワトスンと私はロンドンに帰るので、今夜のステイプルドンとの食事には一人で行って欲しい。メリピット荘には馬車で行き、馬車を帰して、帰りは館まで歩いて帰って欲しい。」と頼む。
ワトスンとホームズは馬車でクーム・トレイシーの駅に行く。駅事務所にホームズ宛の「逮捕状を持って来る」とのレストレード警部の電報が届いていた。
2人はローラ・ライオンズに会う。ホームズは彼女に、ステイプルトンの妹は、本当は妻だと教える。ローラは、ステイプルトンからプロポーズされたと怒る。
ローラは「チャールズ卿に手紙を出すように勧めたのはステイプルトンで、彼の言うとおりに書いた。手紙を出してから、行くのは止めるように言い出した。翌朝、チャールズ卿死亡の新聞記事を見て、疑いが掛からないように黙っているように約束させられた。」と話す。
ホームズはワトスンに「最近の犯罪の中では、最も奇怪で衝撃的な物だ」と話す。ロンドンからの急行列車がやって来て、レストレード警部が降りる。ホームズは彼に「ここ数年で最大の事件だ」と話す。
『第14章 バスカヴィル家の魔犬』
ホームズ達は馬車でバスカヴィル館に近づくと、3人は歩いてメリピット荘に向かう。手前の岩に隠れて待ち伏せする。ワトスンが家に忍び寄って、塀の陰から窓の中を見ると、ヘンリー卿とステイプルトンが話していた。ステイプルトンは外に出ると、果樹園の角の納戸の鍵を外して中に入り、出てくるとまた鍵をかけて家に戻る。
ワトスンは見た事をホームズに話す。ステイプルトンの妻はどこにいるのか?グリンペン・マイアーの底なし沼から白い霧が流れて来て、やがて霧が屋敷を包む。
やっとヘンリー卿が家から出て来て、ホームズ達が隠れている岩の前を通り過ぎる。霧の影から巨大な真っ黒い犬が飛び出して来る。口から火を噴き、目が赤く燃えてらんらんと輝き、鼻先から首筋に揺らめく炎をまとっていた。ワトスンは度肝を抜かれる。ホームズとワトスンは同時に発砲し、1発は命中したらしい。犬はヘンリー卿に向かって走り、3人が追いかける。
ワトスンが追いつくと、犬はヘンリー卿を地面に引き倒して、喉に食らいつこうとしている所だった。ホームズが銃の残り5発を犬の脇腹に撃ち込み、巨大な犬は息絶える。犬には燐が塗られて光っていた。
ヘンリー卿は無事だった。ホームズ達は家を捜索すると、2階の寝室の一つにステイプルトン夫人が柱に縛られていた。夫に暴力を受けた傷があった。
夫人は、ステイプルトンがグリンペン・マイアーの底なし沼の真ん中の島にある錫鉱跡で犬を飼い、隠れ家にしていると教える。棒を植えて道標にしているが、霧で見つけられないだろうと言う。
メリピット荘はレストレード警部に任せて、ホームズ達はバスカヴィル館に引き揚げた。ヘンリー卿はショックで高熱を出し、モーティマー医師に診てもらう。
翌朝、霧が晴れたのでステイプルトン夫人の案内で、ホームズ達は底なし沼に行く。小さな棒を辿って泥沼を進むと、無くなったヘンリー卿の靴を見つけた。島にはステイプルトンの姿はなく、昨晩底なし沼に落ちたと思われた。小屋には犬を飼っていた跡や、犬に塗った発光塗料の瓶も見つかった。
『第15章 追想』
11月末、ワトスンがバスカヴィル家の事件の細部について話を聞くと、ホームズが次のように語る。
「当初はステイプルトンの動機が分からず、複雑な物に見えた。肖像画を見て彼はバスカヴィル家の血を引いていると分かった。チャールズ卿の弟で、南アメリカに逃げたロジャーの子だ。ヴァンデルーアと名前を変えて英国に来た。学校の経営に失敗し、デヴォンシャーに移って来た。自分の家系を調べて、邪魔者は2人だと知った。チャールズ卿から魔犬の伝説を聞き、心臓が悪い彼を死に追いやろうと考えた。ロンドンで犬を買い、島で飼った。チャールズ卿を夜中に館の外に連れ出すため、ローラに手紙を書かせた。その夜、ステイプルトンは犬に燐を塗り付けて魔犬に仕立て、門で待っていたチャールズ卿にけしかけ、恐怖のあまり心臓発作を起こして息絶えた。
相続人ヘンリー卿がアメリカから来る事を知り、妻を連れてロンドンに来た。ステイプルトンは顎髭で変装して、モーティマー医師をつけた。妻は夫に筆跡がばれないように、新聞を切り抜いて作った警告文をヘンリー卿に送った。ステイプルトンは犬に匂いを覚えさせるため靴を盗んだが、新品だったので、古い靴も盗んだ。ホームズが事件を担当したと知り、ダートムアに戻った。
ホームズは警告文の香水の香りから女性の存在を知り、犬がいる事も確信し、ステイプルトンに目を付けた。ワトスンと一緒だと警戒されるので、ステイプルトンを見張るために、ロンドンにいる事にしてこっそりダームトアに行った。ワトスンの活躍でステイプルトンの正体が分かった。現行犯で捕まえるしかないので、ヘンリー卿に囮になってもらった。」
ワトスンは、「ヘンリー卿は心臓が悪くないので、魔犬で脅して殺そうとするのに無理がある」と質問する。ホームズは「犬は凶暴で飢えているので、抵抗できなくすることができただろう」と答える。また「成功した場合、相続人が偽名で屋敷の近くに住んでいた事をどう言い訳するつもりだろう」と質問する。ホームズは、色々な方法を説明する。
(新訳シャーロック・ホームズ全集『バスカヴィル家の犬』日暮雅通訳 光文社文庫より)