『世界でいちばん日本経済の実力』 三橋貴明(みつはしたかあき) | 前山和繁Blog

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このごろ、過去に書いた記事の誤っている箇所が気になり始めてきた、直したい箇所もいくつかあるが、なかなかできないでいる。

英語学習の記事も時折書くことにした。

世界でいちばん!日本経済の実力/三橋 貴明

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『世界でいちばん日本経済の実力』 三橋貴明(みつはしたかあき)

誰にでも読める経済学の入門書。非常にわかりやすい。これ以上わかりやすい経済学の本はないかもしれないですね。

政府の資産と負債の見方という基本的な知識も非常に丁寧に説明してある。

日本政府の借金というのは、あくまでも日本国民が貸し付けているのであり、日本政府の借金を国民一人当たりの借金という言いまわしで捉えるのは間違っている。そういう、ごくあたりまえな説明も丁寧にしてあります。

「政府の借金残高が家計の金融資産の残高を超えてしまうと、国債を発行できなくなって破綻する!」
などと、破綻論を展開している人は、政府の負債拡大と同時にバランスシートの借方に生まれた資産(現預金)がどこに行くのか、まったく考えていないことになります。政府が負債を増やすと民間(家計や一般企業)の資産も最終的には増えてしまうのです。(75ページ)

2011年には政府の借金が1000兆円程度になりましたが、民間の資産は1400兆円程度になっている。

政府が借金を増やせば、その分だけ民間の資産が増加する。そういう関係ですね。

ただし、政府が借金を無制限に増加させることはできない。政府の借金が大きくなりすぎると、インフレ(物価上昇)なりスタグフレーション(商品の供給が低い状況での物価上昇)なりが発生する。だから、無制限に政府が負債を積み上げることはできない。

しかし、現状の日本は物価が下落しているデフレの状況ですから、物価上昇が生じる程度に日本政府は負債を大きくしなければならない。

三橋貴明は

デフレ脱却のための「自転車の最初のひと漕ぎ」は政府がやらなければならないのです。(130ページ)

という表現で、政府の役割の重要さを強調している。需給ギャップが解消される規模の支出(借金)を政府が実行しないことには、デフレからの脱出は望めない。


GDPの捉えかたについても非常に丁寧に説明してある。GDPの他にもGNI(国民総所得)の解説もある。日本のGNIはGDPよりも大きい。日本のGDPとGNIはそういう関係になっている。

需給ギャップ(デフレギャップ)についても説明がある。需給ギャップ(デフレギャップ)とは、潜在GDPと名目GDPとの間にある落差です。

そもそも、デフレギャップの額の場合、専門家によって金額や対GDP比の値がバラバラです。デフレギャップとは、要は日本が「あと幾らの需要が足りないか」という話ですが、その金額が、ある人に言わせると「20兆円」、別のある人に言わせれば「40兆円」と、人によってギャップの規模がまるで違います。(248ページ)

結局のところデフレギャップの正確な額など分かりようがないためです。(248~249ページ)

潜在GDPというものの数字が、分かりようがないために需給ギャップ(デフレギャップ)の正確な数字は分からないのだろう。

しかし、名目GDPと失業率の数字とその推移を見れば、需給ギャップ(デフレギャップ)というものは、それなりにわかるはずです。2011年や2012年の日本国内の失業率は5パーセントぐらい。国内失業率が3パーセント前後になっていれば、需給ギャップ(デフレギャップ)はほぼ解消していると見ていいでしょうね。だから、失業率の数字が2パーセントは減少するぐらいの額の支出が必要なのでしょう。だから政府が50兆円の支出(借金)をしても国内失業率が1パーセントしか低下していないとしたら需給ギャップ(デフレギャップ)は完全には解消されていないとなる。そのなったとしたら政府はさらに追加の財政支出をする必要がある。デフレである現在の日本で失業率5パーセントということは、その失業率の数字の分だけ供給過剰になっているということです。需給ギャップ(デフレギャップ)が解消されたあかつきには、供給過剰の状態が治まり、需要が拡大し、失業率は低下しているはず。そういうことです。

現在の日本は、実質GDPよりも名目GDPが低くなっているので、それだけでも需給ギャップ(デフレギャップ)が生じていることが観察できる。

GDPは名目GDPこそが実質GDPよりも高くなっているのでなければいけない。名目GDPが実質GDPよりも高すぎるのも問題ですが、名目GDPが実質GDPより低いままでは、その国の経済は、正常に機能しているとはとても言いがたい。

三橋貴明は、デフレの現象を所得という概念から丁寧に説明している。現金に対して商品の価値が低下する物価下落が起きるのは、国民の所得が低下しているからである。日本の名目GDPが上昇しないということは、日本国内および国民の所得が上昇していないことを意味する。日本国民は所得が上昇しないために、消費を抑制せざるをえない、結果として物価下落が起きる。デフレとはこういう現象です。それも非常にわかりやすく説明している。ここまでわかりやすく懇切丁寧に説明している本は、なかなかないかもしれない。

三橋貴明は、日本政府にたいしてデフレからの脱却を働きかけるために、2010年の参議院選挙に自民党公認で立候補をしている。当選はできなかったが、選挙を通じてさまざまな政治家と知り合い自分の考えを理解してもらえたという。

『世界でいちばん日本経済の実力』は、経済学の入門書としては非常にいい本ですね。

ただ、この本の内容からははずれますが、三橋貴明はTPPには反対の立場なのが、気になりますね。TPPは日本経済にとって利がありさえすれ損はないはずです。三橋貴明は自由貿易自体には反対していないでしょうね。しかしTPPは日本国家の主権が脅かされるから反対という立場のようです。私ははたしてTPPごときで日本の国家の主権が脅かされるかどうかは疑問です。さまざまなメディアでの三橋貴明の主張は概ね正しいとは思うのですが、そこだけは引っかかっている。

米の関税が0になったら、日本の米農家は確かに全滅に近い状況になる。しかし、日本国内の農業従事者は、日本国内労働者のうち3.9パーセント程度に過ぎない。そして稲作専門の農業従事者は、それよりもいくらか低い数字にしかならない。それならば、日本の稲作農家がある程度消滅しても、稲作から別の産業に農業従事者を移動させるのはそれほど大変なことではない。だから政府が、そのために補助をするのも簡単である。その補助金の額も絶対額でそれほど大きくならないはず。

アメリカから米以外にも穀物が全般的に安く日本国内に入ってくるなら、日本国内の畜産業の規模を拡大させるのが望ましい対応になるだろう。輸入穀物が安く入手できるならば、日本国内の鶏、豚、牛の頭数を増やせるようになる。だから水田を減反した農家が家畜を購入したいと政府に申し出たら、その家畜購入の費用を政府がいくらか負担するという対策でも講じれば、農業従事者が失業して困るという事態も減るはずである。外国産の安い穀物を日本国内の家畜に食べさせれば、消費者は卵や肉をいまより少し安い値段で購入できるようになる。

そして、日本国内で肉用牛を増やすことができれば、その分だけ日本は、アメリカ産の牛肉の輸入量を減らせるのである。これは、アメリカにとって損になるだろう。私は、そうすることが、何がいけないのかよくわからない。

TPPは医療にも関係しますが、医療の問題にしても、日本国内で需要のある薬物の認可が遅すぎるという問題がいくらかは解消されるはず。これも何がいけないのかわからない。

自動車の貿易についても、アメリカは日本から自動車を輸入する場合は2.5パーセントの関税を掛けている。これがなくなれば、その分だけ日本車の売り上げが伸びるので日本にとって何も悪いことはない。

日本は、アメリカの自動車を輸入するときには関税を掛けていないので、自動車貿易については日本の方がアメリカよりも遥かに開放的なのである。日本国内でアメリカ車が売れにくいのは、単にアメリカ製の自動車のサイズが大きすぎるからである。日本の道路や駐車場ではアメリカ製の大きな自動車は非常に取りまわしが悪い。それが理由でアメリカ車が日本ではあまり売れないのである。もし日本の軽規格の廃止がされたとしても、日本の道路や駐車場が軽規格の廃止とともに大きくなったりはしないから、日本国内では軽自動車と同様のサイズの自動車への需要は高いままになっているはずである。だからアメリカの自動車会社が、日本に自動車を売りたいと本気で考えるならば、日本国内の狭隘な道路や、あまり広くない駐車場で使用することを考えたうえでの自動車の開発をしなければいけないのである。アメリカの企業というのは、大抵、物流については日本とは比較にならないぐらい優れているはずである。物流が優れているならば、あとは商品を物流ルートに乗せればいいだけだ。物流ルートにのせるべき小さ目のサイズの自動車を開発できるかどうかがアメリカの自動車会社の対日貿易の成否を決めるのだろう。

TPPは日本にとっての利益は大きくなるはずと思うが、なぜ三橋貴明は、TPP日本の国家の主権侵害になると言い出すのかそこがわからないですね。TPPを推進すれば確かに日本の物価が少しは下落するだろう。しかしその幅はあまり大きくはならないだろう。それに、日本政府および日銀がデフレ対策の財政金融政策を実施すればTPPによって生じるわずかな物価下落など消し去れるはず。

なぜ経済に明るい三橋貴明がTPPに反対なのか本当に不思議ですね。

リンク 三橋貴明オフィシャルブログ新世紀のビッグブラザーへ

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