フランス領アルジェリア出身のノーベル賞作家アルベール・カミュ(1913-1960)が1942年に発表し、人の心理に潜む不条理の意識を巧みに描いた小説「異邦人」を、イタリア映画界の巨匠ルキノ・ビスコンティ監督が映画化。
第2次世界大戦前のアルジェ。会社員のムルソー(マルチェロ・マストロヤンニ)のもとに母の死の知らせが届く。葬儀で涙も流さない彼は翌日、元同僚の女性マリー(アンナ・カリーナ)と喜劇を見に行き夜を共にする。その後、友人レイモン(ジョルジュ・ジェレ)のトラブルに巻き込まれたムルソーは預かっていた拳銃でアラブ人を射殺してしまう。太陽がまぶしかったという以外、ムルソー自身にも理由はわからず、非人道的で不道徳だと非難された彼は裁判で死刑を宣告されるが……。
1967年に製作され、日本では68年9月に英語版で公開された。その後は短縮吹き替え版などがテレビ放送され、権利関係の問題でソフト化などもされずにいたが、2021年3月に復元されたイタリア語オリジナルの「デジタル復元版」で劇場公開が実現する。
あまりにも有名なアルベール•カミュの原作は未読であるが、雑誌やネット上でヴィスコンティ監督のコメントを読む限りでは、原作に相当忠実に映画化されている様だ。まあ、思えば「ベニスに死す」()も主人公の職業の設定以外は原作に極めて忠実であった。
原作は、不条理劇であり、主人公が「太陽が眩しいから人を撃った」ということだけは知っていたので、本当に理由無き殺人なのだと思っていたら、確かに、「何も殺す必要はないだろう」というシチュエーションではあるものの、全く関係ない人を殺した訳ではなかった。
主人公ムルソー(マルチェロ•マストロヤンニ)は母親の死にも悲しみを憶えないし、マリー(アンナ•カリーナ)にも愛を感じない、パリへの栄転というチャンスも断り仕事への情熱も感じない。
一方で、ムルソーは人当たりは悪くなく、マリーからは愛されるし、友人のヤクザ者のレイモンからも信頼されている。裁判でも全て正直に陳述し、自分の罪を軽減して貰おうとは更々思っていない。
不条理なのは殺人そのものではなく、ムルソーの内面と社会との矛盾である様だ。
これは「ベニスに死す」同様原作を是非とも読んでみなければなるまい。
【スタッフ•キャスト等:「Wikipedia」よりの引用】
【ルキノ•ヴィスコンティ監督作品リスト】
① 郵便配達は二度ベルを鳴らす (1942)
② 揺れる大地 (1948)
【2017年10月20日の記事】
③ ベリッシマ (1951)
④ われら女性 [オムニバス] (1953)
⑤ 夏の嵐 (1954)
⑥ 白夜 (1957)
⑦ 若者のすべて (1960)
【2017年10月17日の記事】
⑧ ボッカチオ ’70 [オムニバス] (1962)
⑨ 山猫 (1963)
【2017年7月25日の記事】
⑩ 熊座の淡き星影 (1965)
⑪ 華やかな魔女たち [オムニバス] (1967)
⑫ 異邦人 (1967)
⑬ 地獄に堕ちた勇者ども (1969)
⑭ ベニスに死す (1971)
【2019年9月17日の記事】
⑮ ルートヴィヒ (1972)
【2017年10月14日の記事】
⑯ 家族の肖像 (1974)
【2017年10月18日の記事】
⑰ イノセント (1976)
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