第3章:友の名は「魔王」

眼下にはどこまでも青い海が広がり、見上げれば果てしなく続く青空が広がっていた。闇王は船の甲板から景色を眺めながら、ふと思い出したようにアルミスへ尋ねた。

「そういえばアルミス。行かなければならない場所とは何なのだ?」

アルミスは静かに答える。

「助けたいお方がおります」

「助けたい者? 一国の王であるお前が、そこまでして助けたい相手とは誰なんだ?」

闇王は興味を抱いた。アルミスは少しだけ表情を曇らせて言った。

「魔王です」

その言葉に闇王は目を見開いた。

「なぜ魔王なんかを助けるんだ!?」

魔王とは魔物たちの王。普通なら討伐の対象であり、助ける存在ではない。しかしアルミスは真剣な眼差しで続けた。

「魔王は私の友人です。そして、とても可哀想なお方でもあります」

「可哀想?」

「はい。魔王は闇に好かれています。闇を引き寄せてしまう体質なのです。そのため常に魔獣たちに狙われ、追われ続けています」

闇王は黙って話を聞いた。魔王が闇を引き寄せ、そのために狂暴な魔獣に狙われ続けるという矛盾。だが、今の闇王にとっては、その「闇」という言葉自体が奇妙な親近感を持たせるものだった。

数時間後、遥か彼方に南の大陸が見え始めた。緑豊かな大陸だが、どこか不穏な空気が漂っている。

その時だった。

「来ます!」

アルミスが叫ぶ。巨大な赤い影が空を横切った。

「あれはフレイムドラゴンです! 強烈な炎を吐きます!」

アルミスはすぐに命令を飛ばした。

「シールド展開!」

「イエッサー!」

船員たちが声を揃える。次の瞬間、フレイムドラゴンが大きく息を吸い込み、灼熱の業火を吐き出した。轟音と共に炎が船を包み込む。しかし船を覆う透明な膜が炎を完全に防いでいた。

「シールドで接近します! 闇王様は甲板で迎撃を!」

「わかった!」

第4章:圧倒的な闇の力

闇王は階段を駆け上がり甲板へ出る。フレイムドラゴンとの距離はみるみる縮まり、やがて真上へと到達した。

闇王は右手に闇のオーラを集中させた。すると黒い光が集まり、巨大な漆黒の剣へと変わる。吐き出される炎を剣で受け止めながら、闇王は高く跳躍した。その跳躍は人間離れしていた。一瞬でフレイムドラゴンの頭上へ到達する。



さらに剣へ大量のオーラを流し込むと、刀身は空を突き抜けるほど巨大化した。

「終わりだ」

闇王が振り下ろした一撃は、フレイムドラゴンを真っ二つに切り裂いた。ドラゴンは光の粒となって消滅した。

船はそのまま大陸の奥へ進んでいく。やがて巨大な山脈が見えてきた。その山頂には、雪のように白い城が建っていた。

「あの城です」

アルミスが指差す。しかし城へ近づいた瞬間、無数の影が空を埋め尽くした。ドラゴンの群れだった。

「待ち伏せか!」

闇王が眉をひそめる。

「魔王を助けに行くんじゃなかったのか!? なぜ攻撃してくる!」

アルミスは苦笑した。

「まあ、魔物ですから。そういう生き物なんですよ」

その直後、四方八方から炎が飛んできた。だが闇王の姿が一瞬消える。いや、速すぎて見えなかっただけだった。自分自身ですら驚くほどの速度。闇のオーラを吸収してから、身体能力が飛躍的に向上していた。

炎を避ける。

斬る。

避ける。

斬る。

避ける。

斬る。

襲いかかるドラゴンたちを一撃ずつ確実に倒していく。やがて援軍まで現れた。数百体を超える大軍勢。しかし結果は変わらなかった。闇王は次々とドラゴンを切り伏せ、最後の一体まで倒し切った。

「さすがですね」

アルミスが感心したように言う。これほどの軍勢を一人で、それも無傷で全滅させるとは。闇王の力は、すでに世界の常識を遥かに超越していた。

第5章:白銀の城の家事手伝い

船は城の最上部にある塔へ着陸した。闇王たちはすぐに城内へ入り、階段を下っていく。静まり返った城内は、外の騒がしさが嘘のように整然としていた。

しばらく進むと大きな扉が現れた。中へ入ると、一人の青年がいた。

青年は窓を磨き、机を拭き、床を掃いている。熱心に掃除をしていた。

闇王は思わず首を傾げた。

(人間がなぜこんな場所にいる?)

てっきり恐ろしい姿をした魔物の王が、禍々しい玉座に踏ん反り返っているものとばかり思っていたのだ。目の前にいるのは、エプロンこそつけていないものの、どう見てもただの真面目な給仕の青年だった。

するとアルミスが親しげに声をかける。

「アルフェロッチェ!」

青年は振り返った。

「アルミス!」

嬉しそうに駆け寄ってくる。

「どうしてここに!? 王の仕事で忙しいだろ!」

「簡単ですよ」

アルミスは微笑みながら答えた。

「闇王様と出会えたので連れてきました」

そして闇王へ向き直る。

「こちらが闇王様です」

青年――アルフェロッチェは驚愕した。

「あなたが闇王様!」

すぐに片膝をつき、頭を下げる。その所作は洗練されており、魔王というよりは没落した名門の騎士のようでもあった。

「どうか魔王をお助けください!」

闇王は腕を組んだ。

「魔王を助けて何か得があるのか?」

「あります」

アルミスが代わりに答える。

「魔王を守れば、闇が発生する頻度が減ります。結果として世界の被害も減るでしょう。彼が引き寄せる闇を、闇王様が制御・吸収してくだされば、この世界に真の平穏が訪れるのです」

「なるほど」

闇王は頷いた。自分の持つ闇の力が、巡り巡って世界を救うことになるのなら、断る理由はない。

「なら手を貸そう。どうすればいい?」