第6章:エターナルボンド

アルミスは懐から古びた羊皮紙を取り出し、説明を始めた。

「アルフェロッチェに薄く闇のオーラを纏わせてください。そして契約書が目の前にあると想像しながら、私に続いて唱えてください」

闇王は頷く。

「わかった」

闇王は右手をアルフェロッチェに向け、静かに闇のオーラを解放した。薄い黒霧のような光が青年を優しく包み込む。アルフェロッチェは恐れることなく、その光を受け入れた。

闇王は呼吸を整え、アルミスの先唱に続いて呪文を唱えた。

「――汝が瞳に我が影を映し、呼吸の鍵を委ねよ」

声が部屋中に響き渡り、空気が重くなる。

「――抗えぬ絆を誇りと知り、その魂の全てを我が御心に捧げよ」

闇王の瞳が妖しく輝く。

「エターナルボンド!」

その瞬間、室内の空間が歪み、目の前に巨大な光る巻物が現れた。巻物から無数の漆黒の鎖が飛び出し、アルフェロッチェの身体を縛り上げる。ジャラジャラと重々しい音が響くが、アルフェロッチェは苦痛の表情を浮かべることなく、ただ闇王をじっと見つめていた。

しかし鎖はすぐに激しい光となって弾け、消えた。代わりに彼の両腕と両足へ、精緻な鎖の紋様が焼き付くように刻まれる。

アルミスが説明した。

「これで隷属の契約は完了です。アルフェロッチェは闇王様の命令に逆らえません。彼の命も、彼の持つ闇の因果も、すべては闇王様のものとなりました」

そして満足そうに微笑む。

「闇王様、ご命令をどうぞ」

闇王は少し考えた後、言った。

「まず、その名前は長くて呼びづらい」

「はい」

「今日からお前はアルだ」

アルフェロッチェ――アルは即座に頭を下げた。

「はい。闇王様の仰せのままに」

あまりにも素直に受け入れられたため、闇王は少し拍子抜けし、照れくさそうに頭をかいた。

「それと、そんな堅苦しい話し方はやめろ。普通に喋れ」

「ああ、わかった」

「それでいい」

闇王は満足そうに頷いた。そして、先ほどからずっと気になっていた疑問をぶつけることにした。

「ところで……お前、魔王なのになんでさっきから掃除なんかしていたんだ?」

アルは落ちていた箒を愛おしそうに握り直し、胸を張った。

「趣味だ」

「趣味?」

「ああ。掃除、洗濯、料理は全部得意だぞ。この城がいつも綺麗なのは、俺が毎日隅々まで磨いているからだからな!」

闇王は思わず呆れたような顔になり、隣のアルミスを見た。アルミスは「ね? 可哀想で可愛いお方でしょう?」と言いたげな顔で微笑んでいる。

魔王らしからぬ家庭的な答えに、闇王の緊張は完全に解けていた。

こうして、かつて世界を恐怖させた(あるいは引き寄せる闇のせいで恐怖の象徴とされていた)魔王アルが、新たな仲間として加わった。

闇王、アルミス、そしてアル。

目的も素性もバラバラな三人は、これからさらなる未知なる領域――光の世界へと向かうことになる。

天空船の甲板に立ち、南の大陸を後にする三人の頭上には、どこまでも続く青空が広がっていた。新たな冒険の幕が、今、静かに上がろうとしていた