そう言って再び旅路を進んだ。
やがて前方に深い森が見えてきた。
その森の名は――帰らずの森。
どこか不吉な響きを持つ名前だった。
闇王が森へ足を踏み入れると、木々の間から川のせせらぎが聞こえてきた。
さらに耳を澄ませると、人々の話し声も混じっている。
人がいる。
そう判断した闇王は音のする方へ向かった。
しばらく進むと、森の中にひっそりと存在する小さな村が姿を現した。
エイダ村。
木造の家々が並び、穏やかな空気が漂っている。
闇王は村人に話を聞いてみた。
この村では男衆が狩りを行い、その獲物を売ることで生計を立てているらしい。
さらに闇王は気になっていたことを尋ねた。
「なぜ、この森は帰らずの森と呼ばれている?」
その質問を聞いた村人は表情を曇らせた。
しばらく黙り込んだ後、重い口調で語り始める。
「この森には……昼間でも闇が現れるんです」
「昼間に闇だと?」
「はい。その闇に飲み込まれた者は、誰一人として帰ってきません」
その話を聞き、闇王はアガツマから聞いた古い伝承を思い出した。
――闇に吸い込まれた者は二度と戻れない。
――身体も心も黒く染まっていく。
――やがて動くことすらできなくなり、そのまま魔獣たちの餌となる。
単なる昔話とは思えなかった。
もし本当にそんな闇が存在するのなら、この森には何か異常な力が潜んでいるはずだ。
しかし村の光景を見る限り、そんな恐ろしい場所には見えない。
川辺では女性たちが楽しそうに洗濯をしている。
広場では子供たちが元気よく走り回り、笑い声を響かせていた。
村人たちは穏やかに談笑し、平和な時間を過ごしている。
闇王はその光景を眺めながら呟いた。
「こんな平和な場所に、闇が現れるとは思えんな……」
空は次第に夕焼け色へ染まり始めていた。
森の調査は明日にしよう。
そう決めた闇王は、村に一軒だけある小さな宿屋へ向かった。
宿の主人に部屋を借りると、久しぶりに柔らかなベッドへ身体を預ける。
帰らずの森に潜む謎の闇。
その正体を探るためにも、まずは休息が必要だった。
静かなエイダ村の夜が更けていく中、闇王はゆっくりと目を閉じた。
翌日、闇王は調査を始めることにした。
村の周辺から森の奥まで、広い範囲を歩き回る。しかし手がかりらしいものは何一つ見つからなかった。
「闇は、どこから発生するんだ?」
闇王は考える。
自分自身もまた「闇」の存在だった。
この世界にも自分と同じ闇があるのかもしれないという期待があった。一方で、もし本当に闇と出会ったなら、自分も伝承に語られるように魔獣の餌になってしまうのではないかという不安もあった。
そんな複雑な思いを抱えながら、闇王は探索を続けた。
その日の昼のことだった。
村に戻ると、子供たちがまだ帰ってきていないことを知る。
村人たちが心配そうに辺りを見回していたその時、一人の子供が息を切らしながら駆け込んできた。
「や、闇が現れた!」