中村真暁記者
「厚労省は国民をだましていた」 生活保護に隠された「調整」 存在を突き止めた元北海道新聞記者に聞いた
2025年9月19日 16時00分
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東京新聞
生活保護基準の引き下げを違法とした最高裁判決で、厚生労働省の対応で「違法」とされなかったことがある。
それは「ゆがみ調整」の「2分の1処理」と呼ばれるものだ。実は、この調整は国民に知らされなかっただけではない。生活保護の基準を話し合う基準部会にも知らされていなかった。
厚労省は何のために、そしてなぜこんなことをしたのか──。ひそかな「調整」の存在を突き止めた元北海道新聞編集委員の本田良一さん(66)が取材に語ったこととは?(中村真暁)
厚生労働省が世耕弘成氏に示した「取扱厳重注意」の書類。「ゆがみ調整」の「2分の1処理」が書かれている
◆厚労省に情報公開請求も「不開示」
──どうやって2分の1処理を見つけたのですか。
当時は、生活保護バッシングがひどかったころです。自民党は2012年3月、世耕弘成参院議員(現無所属の衆院議員)を座長とする生活保護プロジェクトチームを発足させます。12月の衆院選では生活保護費の「給付水準原則1割カット」を公約に掲げ、政権に返り咲きました。
保護基準の引き下げにあたり、厚労省は世耕氏に事前説明をしたはずだ、と考えました。官僚は手ぶらで説明しません。そこで、その資料の情報公開を請求しました。
ところが、結果は「不開示」となりました。理由には「検討段階での不完全な情報を公にすることにより、国民の間に誤解や臆測」を招く、と記載されていました。
カチンときたわけです。請求したのは2013年8月で、引き下げはすでに始まっていた。誤解や臆測を招くなら、ちゃんと説明すればいい。怒りに任せて情報公開・個人情報保護審査会への不服申し立てを、1時間と少しで書き上げて郵送で出しました。
2年後の2015年9月、資料を入手しました。「取扱厳重注意」と書かれたA4サイズの用紙8枚。でも、資料を読み込むのに時間がかかりました。
◆資料を眺めて目についた「2分の1」
──資料を一覧しただけでは、「不開示」にしてまで厚労省が何を隠したかったか分かりにくいですね。
そこで、当時の社会保障審議会の生活保護基準部会の委員数人に取材しました。1人目の取材の直前に入ったカフェテリアで、昼食のパンをかじりながら資料を眺めていたとき、「年齢・世帯人員・地域差による影響の調整を1/2とし」という文言が目につきました。「2分の1とは何?」と委員に聞きました。
──ゆがみ調整2分の1処理のことですね。
委員はみな、「え、そうなの?」という反応で、自分たちが議論の末に出した「ゆがみ調整」のデータが、そのまま使われていると思っていました。
基準部会長だった駒村康平氏(慶応大経済学部教授)は「(2分の1処理の)議論はしてないし、部会として説明を受けたことはない」とした上で、「その先は行政の裁量なので2分の1、3分の1、4分の1ということはありうる。ただし、それだけ基準部会が軽んじられている」と語りました。2016年6月に北海道新聞朝刊で報道し、今回の裁判でも2大争点のひとつになりました。
その後、埼玉弁護団の小林哲彦弁護士は「2分の1処理」によって年間91億2100万円の保護費削減効果が生まれた、との検証結果を明らかにしました。「ゆがみ調整」で生じたと国が認めている削減額90億円は、すべて「2分の1処理」の結果だったのです。
資料は当時の村木厚子社会・援護局長と古川夏樹保護課長が世耕氏に示しています。その時期について、古川課長は「よく覚えていない」と厚労省の聞き取りに回答しています。
しかし、資料を分析すると、2013年1月7日~15日に作成されたことが分かりました。基準部会は2013...
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