さて、水月湖シリーズも終わりに近づいて参りました。今回は「古気候学」に焦点を当てて2部に分けて解説を試みたいと思います。
(Jw的関連はvol.2の後半になります)
🌎 気候は変動している?
もし読者が私と同年代の方なら、地球温暖化現象を子供時代の記憶から実感として感じておられるのではないでしょうか。
しかしそれ以外にも、過去の気候変動の「小さな記録」はあちこちで観察できるようです。
日本の歴史書によると、平安時代の宮中のお花見の日は室町時代のそれより平均7日早いそうです。桜の満開日は3月の平均気温に関係しているため、平安時代は室町時代より3月の平均気温が2℃高かったと推定されています。
他にもヨーロッパの近世以降の絵画を観察すると、アルプスの風景画に描かれた氷河の末端の標高が少しずつ変化している事が分かるそうです。
また、下の写真をご覧ください。
画像はナショナルジオグラフィックよりお借りしました。
これらの写真の巨石は、周囲に山や崖もない平地に忽然と落ちていて、容易に動かすことの出来ない重さなのです。
これらは一体どこからやって来たのか?
昔は謎とされていましたが、現在では大昔の氷河によって遠くの山岳地帯から運ばれて来たと分かっています。
この様な大規模な気候変動は、いったいどんな仕組みで起きているのでしょうか?
また、人類はどうやって、その仕組みを解き明かしていったのでしょうか?
ほんの一部ではありますが、その歴史を辿ってみたいと思います。
🌏 気候変動の仕組みを解く
🟢気候変動のからくり〜温暖化の発見
18世紀後半にフランスの数学者フーリエ(熱の伝わり方の方程式フーリエ解析を考案)は、地球に到達する太陽からの熱エネルギーと地球から出て行くエネルギーを計算することで、地球表層には熱を蓄積するシステムがあるはずだと考えた。
これが大気による温室効果作用についての初めての記述であった。
(ちなみに彼はナポレオンのエジプト遠征に同行しロゼッタストーンを発見した人物でもある)
その後、1896年、二酸化炭素が持つ温室効果についての論文がスウェーデンのアレニウスによって発表される。
彼は、太古の昔、二酸化炭素濃度の低下によって寒冷な気候がもたらされ、長期に渡って氷河がヨーロッパを覆った時代があったと結論付けたのである。
しかし当時の科学者達には二酸化炭素の僅かな変化が地球の巨大なシステムを変えるだけの影響力はないと否定されてしまう。
20世紀に入り、カナダの蒸気機関のエンジニアだったギー・カレンダーは仕事の合間に、アレニウスの理論を実証すべく世界の147ヶ所で観測された月平均気温のデータを集め、1880年代〜1930年代の間に0.3℃の上昇を認める。そしてそれを当時の二酸化炭素濃度の観測データと照合しその相関関係を見出したのである。
更に彼は大気を複数の層に分け二酸化炭素の吸収スペクタルの最新の実験結果を用い、地球の熱バランスを予測した計算を行う。すなわち大気二酸化炭素を2倍に上昇させ十分に時間の経過を見ると、気温の変化は2℃であった。
これは21世紀のコンピュータによる計算の予測変換範囲内(1.5〜4.5℃)という精緻なものであった。
しかし、当時の研究者達は、二酸化炭素が増加しても海洋が吸収するので影響は出ないと、取り合わなかった。
1957年、カルフォルニア大学サンディエゴ校にあるスクリプス海洋研究所の2人の研究者、ロジャー・レヴェルとハンス・ズースは驚くべき論文を発表する。
それは「海洋が二酸化炭素を吸収されるには5年以上の時間がかかる」つまり大気中に滞留する二酸化炭素の温室効果は予想より大きいと主張したのである。
彼らが用いたのは当時分析手法として信頼を得て来たリピーの炭素14年代測定法であった。
空気中の二酸化炭素がすぐに海洋に取り込まれない事を測定によって確証する。
(この際、海洋リザーバー効果と言われる、海底に残る古い炭素の影響により、測定した年代値が古く得られる現象が理解され、その後海洋性の試料はデータ補正が必要と認識される事になる)
また、ここで大切な事が解明される。
石油、石炭等の化石燃料(恐竜時代等の数百万年前の炭素)を燃やすと古い炭素が空気中に放出されるが、その中の14Cはすでに全部が崩壊して窒素に変わっており、含まれていない。(放射能を全て失う時間の限度の5万年を優に超えているから)
ところが測定によると、産業革命以降の250年で大気二酸化炭素濃度は45%も増えているが、14Cはむしろわずかに減少していた。
という事は、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の放出が大気中の14Cの割合を薄めたのである。
この事は産業革命以降の気温の上昇は、人間活動が原因だという直接的な証拠になった。
その後、二酸化炭素濃度の測定技術が発達し、ハワイのマウナロア山頂に観測拠点が設けられ正確な計測データの整備が進む。
時代を進めるが、1960代後半、コロンビア大学のオーロラ研究者であったジム・ウォーカーは地球表層で行われる炭素循環の壮大なサーモスタットの存在を見出す。(1981論文)
二酸化炭素濃度が増加して気温が上がると、海水が蒸発しやすくなり、雲ができて降雨する。すると二酸化炭素は水に溶けやすいので、雨に溶けて炭酸になって、岩に降り注ぎ、鉱物岩を風化させる。(ケイ酸塩鉱物の風化)
そしていくつかのプロセスを踏んで、二酸化炭素は炭酸塩となって沈澱する事により、大気中の二酸化炭素が取り除かれていく。
この反応がどんどん進むと、大気中の二酸化炭素濃度が低下し、気温も下がり、雲も出来にくくなって降水量も減り、風化が減少する。すると再び大気中の二酸化炭素が増加し始める。
このサイクル、いわば自然のサーモスタット機能が、地球表層の気温を安定させるシステムとして働いている事は「ウォーカーフィードバック」と呼ばれ、知られるようになった。
余談になるが、もしノアの洪水が史実として、地球表層が全て水で覆われたなら、植物の光合成は停止し、酸素は供給されず、一方で地殻変動の火山ガスが充満してこの炭素循環システムにも無視できない影響が及んだはずである。人間が生息出来る環境はもはや復元されなかった可能性が大きい。
このフィードバックが効き過ぎて地表が雪や氷で覆われるとどうなるか。
白い雪や氷は太陽光を反射して地球はますます冷えていく。(アルベドと呼ばれる効果)このサイクルに歯止めが掛からなくなって地球全体が凍結し、大きなスノーボールになっていた時代が何度か訪れていた事が研究から分かっている。
スノーボールアースと言われるこの状態から脱却出来たのは、火山活動のおかげらしい。二酸化炭素を含む火山ガスが定期的に大気に排出され、一定量になると、再び二酸化炭素の温室効果が現れだし、気候変動の針を一気に逆回転させたのだ。
これ以外にも「火山活動、海流、太陽の黒点周期」「熱塩循環と呼ばれる海水の温度と塩分が関係したサーモスタット」「ハインリッヒイベントと呼ばれる氷床の崩落を原因とする寒冷化」など沢山の現象が気候変動に関係しています。
その全てについてここで説明する事ができませんが、またご興味をお持ちでしたら、最終回巻末の参照資料をぜひご覧になってみて下さい。
さて、本当の意味での地球の気候変動を語るには、この二酸化炭素濃度や炭素循環のような短いサイクルの仕組みだけでは話を終わらせる訳にはいきません。
地球と太陽の距離、地球の自転軸、宇宙の仕組みと関わるもっと規模の大きな、あるシステムの中で、気候変動の波は激しく揺れ動いていて、「現在の我々は、たまたまその温暖な時期に生きているだけ」と言う事が分かって来たのです。
🌎 ミランコビッチサイクル
セルビアの天才と言われる彼の理論は、気候変動についての信じられない要素を我々に教えてくれます。
次回はこのミランコビッチサイクルの驚くべき仕組みをご紹介します!



