両親とも都会育ちだったわたしは、森林豊かないわゆる田舎での思い出が無い。せいぜい休みに連れって言ってもらう、ロッジでの自然体験くらいが自然の中で遊んだ記憶。しかし、ある程度物心ついてからは、地方の人口密度が少ない、緑豊かな温泉地などへ行くのが大好き。最近では、地元の歴史ある旅館に泊まることにしている。そうすることにより、より、地元出身で長く働いている人達と交流することが出来るし、お料理の献立も年季が入っていて都会から来た者としては、新鮮さを感じられる。それに、歴史の長い旅館は器のひとつにも歴史があるのが良い。モダンで、おしゃれなものは、普段の生活に溢れ過ぎているから。
前置きが長くなってしまった。今の紹介するのは、地方空港から車で二時間かかる場所にある老舗旅館でいただいた、田舎風のあんかけ茄子田楽。「田楽」という響きだけでも、郷土料理感が満載。かなりボリュームのあるコース料理の箸休め的存在(と言ってもご覧の通り量はしっかりある)で出されたものだが、その素朴さが印象深かった。
かなり太めの茄子を薄く切り、しっかりと揚げ焼きに。その上から、そぼろ状のひき肉が入った甘しょっぱいコッテリとした餡がかかっている。彩として添えられたチンゲン菜と万能ネギも、そのシンプルさが嬉しい。茄子は揚げたて、餡はアツアツであるから、食べる際にはヤケドに御用心。箸でゆっくりと少しつづ切り分けて、ハフハフと頂く。何とも癒される味である。
そして何より私がジーンと来たのは、この器である。歴史を感じさせるのはもちろんのこと、この色使い。茄子の紫と、彩の緑をお皿のフチでも再現しているのだ。この料理にこの器を選んだ料理長の、無骨な心遣いを感じる。東京や京都の料亭では、この組み合わせはまず無いであろう。これこそ郷土の、温かさであると私は思う。
それに、ここでは時間に追われていないし、次に来る客のことを考えて食べるペースを考えることもしなくて良い。全てがゆったりとした時間の中にあるのだ。
End.
