【連載16】「会社に行くなら出て行って!」夫を説得し、病院に行かせるも…2

右足と脳機能を失っても、挑戦し続ければ道は開ける。
人生の目標を実現していく、夫婦の起死回生ストーリー。
ノンフィクション小説「逆境のトリセツ」

しばらくして夫が帰ってきた。

「診断書をもらってきたよ」

帰ってきた夫にどうしても聞きたいことがあった。

「メモは見せたの?」

「見せたよ」

ちょっと言いにくそうに口を開いた。

「先生にメモのことを聞いてみたんだけど、二重人格!? そんなアニメみたいなことあるわけない、って。奥さんドラマかなんか見すぎじゃないの? って言われた」

私は、この言葉に憤慨した。

「家族が生き地獄を味わってるんだよ。家族の声に何かないかって思わないってどういうこと?」

「でも、それだけ言われたんだよ」

「これだけ観察して、身を挺して病院に行ってもらったのに『アニメ? ドラマ?』そんな言い方をする病院には二度と行かなくていいよ! 事故のあと、救急車で運ばれたのは総合病院だったよね。その病院に行かないと始まらないわ」

夫の説明不足かもしれない、と思い、今度は、私も一緒に病院に行く決心をした。アニメみたいなことはない、と医師は言ったものの、診断書は書いてくれていた。

“脳挫傷の影響があるため、残業ができない”

書くことは書いてくれていたんだ。

十五年前に救急車で運ばれた病院へ

「そうですか。やっぱりありましたか」

十五年前、夫が救急車で運ばれた病院の脳神経外科医、黒木先生の言葉に一瞬、なんて言った? と聞き返したかった。脳神経外科の主治医、黒木先生に会うのが、この日初めてだった私は、結婚したこと、妊娠していること、そして、夫は家に帰ると呂律が回らない、足下がふらふらする、家での暴言、暴力などの状況を説明した。黒木先生は椅子をクルッと回転させると、

「当時の診断書を見てみましょう」

と十五年前のデータを電子カルテから表示した。

「これは当時の頭のCT画像です。当時、脳挫傷があって、右の側頭部と頭のてっぺん部分の頭頂葉が損傷していて、画像にも白く映っています。この部分が治ることはありません」

続いて、電子カルテに書かれていた言葉を追った。

“高次脳機能障害の疑い”

この言葉がすべてだった。

「当時すでに高次脳機能障害の疑いがありましたね」

「呂律が回らない、足下がふらつく、暴言、暴力も高次脳機能障害によるものだと思われます」

本連載は、突然の事故、右足切断、記憶障害、脳機能の低下。途方もない試練を乗り越える裏には、小さな気づきと大きな愛情があった。夢を見つけ夢を掴む姿を描いた、試行錯誤の記録。※本記事は、 谷口正典氏・益村泉月珠氏の書籍『逆境のトリセツ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
https://life.gentosha-go.com/articles/-/13572?page=2