【連載9】健常者スポーツと障がい者スポーツの違いって

右足と脳機能を失っても、挑戦し続ければ道は開ける。
人生の目標を実現していく、夫婦の起死回生ストーリー。
ノンフィクション小説「逆境のトリセツ」

 

 

 





テニスでひたすら汗をかいた私は、自分自身のストレス発散に彼の時間を使ってしまったことに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。でも、こんなに真剣にテニスができたのは、中学以来で本当に楽しかった。スポーツはだいたいなんでもできると自負していた私は、アンプティサッカーという聞いたこともない競技が気になった。純粋に見てみたいと思い、ついて行った。

選手は、足や手を切断しているか、足や手に麻痺がある人。スタッフは、理学療法士が多く、とても優しい人ばかりだった。私は、見学に行って驚いた。医療用の杖を使って、全速力で走っている人たちがいるのだ。

「医療用の杖ってそんな使い方するんですか?けが人が使うイメージだったので驚いてしまって」

「俺たち片足の健常者だから」

労らなければいけないのかと思っていたら、誰よりも速くボールを追いかけ、誰よりも強くボールを蹴ってゴールする。アンプティサッカーは、けが人のする競技じゃなくて、足を失った人がアクロバティックに競技する種目なのかな? 見ているうちに、楽しそうなサッカーだなと思うようになってきた。

「サッカー一緒にやる? まずはクラッチなしでもいいから」

観戦するより、プレーする方が好きなので、誘われれば断らない。このとき、アンプティサッカー選手と一緒にプレーしたことで、スポーツって足が二本あっても一本でも一緒だな、って思うようになっていった。

私は、シングルマザーで小学生の息子がいる会社員。生活も会社もアスリートとしての気質で取り組むから、なんでもがむしゃら。男性を見る視点も同じで、平凡な人では物足りないと思っていた。そんな私には、足を切断した彼が、それを乗り越えてパラスポーツに打ち込む姿は、とても魅力的に映っていた。

ただ……、彼には、少し残念なところがあった。アンプティサッカーチームの練習に参加したときにそれは起こった。

「遅刻するんじゃない?」

「大丈夫だよ」

と平然と集合時間を守らず、遅刻していたのだ。一回だけでなく何度も。

「アスリートとして……遅刻は絶対にダメだと思うよ」

彼よりも六歳も年上の私は、説教っぽくなったけど、大事なことだと思い言ってしまった。遊びに行くことになっても、迎えに来てくれると言った時間から一時間以上待たされることはざら。

「遅かったね。なんかあったの? 大丈夫?」

「いや、別に何もないけど」

理由を聞いてもよくわからなかった。時間を守れない以外は、素直で優しく、ポテンシャルがある人だと思っていた。一年経過した頃、結婚を前提に、彼が私の家に転がり込むことになった。
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本連載は、突然の事故、右足切断、記憶障害、脳機能の低下。途方もない試練を乗り越える裏には、小さな気づきと大きな愛情があった。夢を見つけ夢を掴む姿を描いた、試行錯誤の記録。※本記事は、 谷口正典氏・益村泉月珠氏の書籍『逆境のトリセツ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

https://life.gentosha-go.com/articles/-/13161?page=2