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【連載5】カフェで出会った女性に義足のことを隠してしまった理由とは…

右足と脳機能を失っても、挑戦し続ければ道は開ける。
人生の目標を実現していく、夫婦の起死回生ストーリー。
ノンフィクション小説「逆境のトリセツ」

 

 


「なんで足を切ったの? 事故? 病気?」

アンプティサッカーチームに参加して、みんなの会話に驚いた。

義足生活になってから感じていたのは、周囲から奇異の目で見られていたことだった。義足や切断した足を見て、見てはいけないモノを見てしまった、という顔をされ、目を背ける人もいた。それだけならまだしも、

「若いのに、可哀想に、これからの人生が大変ね」

と俺の人生が終わったかのような言葉をかけられたこともあった。要するに、切断した足のことを聞くのはタブーだと思っている人がとても多かったのだ。一方で、このアンプティサッカーチームは、足や手の切断や麻痺のある人ばかり。さらに、チームの代表をはじめスタッフは、理学療法士や義肢装具士といった医療従事者ばかりということもあって、足を切断した理由を聞くことは、自己紹介代わりだったのだ。

「どこから切ったの? いつ? どこで?」

「正面衝突事故で、開放骨折した箇所がMRSAという菌に感染して壊死してしまって……」

「それ、俺もだわ!」

「俺は、大学時代にバイク事故だったんだよね。幻肢痛ってなかった?」

「あ、ありました。切断してるのに、ない足が痛くなるやつですよね」

「そうそう、これって切ったことある人しかわかんないやつだよね。俺、結構長く続いて、いまだにあったりするんだけど、どう?」

「たまにあります。これまで、俺だけだと思っていました。足を切ったら、みんな幻肢痛ってあるんですね」

「俺は、骨肉腫。九歳で。でも幻肢痛はなかったな」

切断というレアな経験を普通に話す人たち。初対面の人たちとの会話は緊張したが、少しずつ気持ちが楽になっていった。

「きっと、健常者がこの会話を聞いたらぎょっとするよね」

俺の言葉に笑いがあがった。

アンプティサッカーを通して同じ競技を志す仲間。それ以上に、切断や麻痺という、希有な経験を持つ仲間ができて悩みを共有できたことは本当に有り難い時間だった。

ただ……、俺がこのとき、それよりももっといいなと思ったのは、切断した足を隠す必要がなかったことだった。

この日、医療用の杖でグラウンドを走って爽快な気持ちになった。そして、片方しかない足で、少しだけボールを蹴ることを教えてもらった。なんだか面白そうな競技だし、仲間がいるのがいいな。そんな安易な気持ちでその日のうちにチーム入りを決めたのだった。
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本連載は、突然の事故、右足切断、記憶障害、脳機能の低下。途方もない試練を乗り越える裏には、小さな気づきと大きな愛情があった。夢を見つけ夢を掴む姿を描いた、試行錯誤の記録。※本記事は、 谷口正典氏・益村泉月珠氏の書籍『逆境のトリセツ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
https://life.gentosha-go.com/articles/-/12905