最近、次のようなコメントをいただきました。


『先生の指導スタンスはギリギリ合格を狙うというスタンスですか? それともギリギリラインの答案を見て上位の答案をイメージしようというスタンスですか?

最近、司法試験合格者が2000人から一気に1800人に減らされたため、ギリギリ合格ラインを狙う学習法は危険だと認識されているようです。

某有名憲法対策本の著書も、某snsで、「ギリギリを狙う勉強法」と言うこと自体,賛成できない。そんなに点数を変化球みたいにコントロールできるなら,コントロールして上位合格すればいいのではないかとコメントしています。

先生はどのようなお立場でしょうか?過去のブログを見る限りはまずはギリギリラインを狙えという指導に見える感じなのですが。』


…とりあえず、記事「上位合格を狙う≠合格可能性を上げる 」、記事「再現答案vs出題趣旨等 」、そして、NOAさんのブログ「司法試験情報局」の記事「再現答案 vs. 出題趣旨 」等を読んでもらえば、抽象理論的なところはだいたい分かってくれると思うんだけど、もう少し具体的にまとめておく。


0.

前提として、上記コメントが、普段の勉強での話なのか、(論文)本試験現場での話なのか不明確なので、両場面における私のスタンスを明確にしておこう。


私は、論文本試験現場では、

①“まずは”合格ライン(論文本試験現場の異常な心理状態では、合格ラインかどうかを適切に判断しにくいことも多いので、“最低ライン”という意識でもよい)を“確保する”。

その上で、

②時間(・答案用紙)に余裕のある限り、リスクとリターンを衡量しながら、加点を積み重ねる。

という姿勢・戦術を強くオススメしている。

しかし、上記①②は、問題によって異なりうる相対的なものだし、上記①につながる勉強と上記②につながる勉強は区別できないことも多いので、普段の勉強としては、①②を特に区別せずに、とにかく本試験と同じことをする(その中で、もちろん上記①②も訓練する)ことを優先するようにオススメしている(cf.記事「司法試験の下4法対策 」)。


というわけで、以下、論文本試験現場での姿勢・戦術①②について書く。


1.

まず、私が「ギリギリ合格を狙うというスタンス」ではないことは、上記①②から明らかだろう。

総合点で合否が決まる試験なのだから、どの問題でも、最後の1秒まで諦めず・手を抜かず、1点でも0.5点でも得点を高くする足掻きを続けるべきだ。


2.

次に、上記コメントの「点数を変化球みたいにコントロールできるなら,コントロールして上位合格すればいいのではないか」というのは、おっしゃるとおりだと思う。

私自身、司法試験系の試験で、「点数」をコントロールできる自信まではない。

しかし、私は、(新)司法試験で①合格ラインを確保することは、どんな問題でもほぼ100%できる自信がある。


たとえば、(新)司法試験論文刑事系第2問では、刑訴法320条1項の文言へのあてはめ(≒伝聞証拠の定義へのあてはめ≒伝聞と非伝聞の区別)が超頻出だよね。

でも、合格ライン前後の再現答案を見れば(それどころか採点実感を見るだけでも)、毎年毎年、この点の出来が悪いことはすぐに分かるだろう。

となると、これは①ではなく②に分類される。


そんなことよりも、たとえば、実況見分調書の証拠能力が出題されたら、321条3項について、「検証の結果を記載した書面」と真正作成供述要件の解釈・あてはめを書くだろうことは、瞬間的に判断できるはずだ(過去問を解いてさえいれば、何度も出題されているから)。

現場思考をほとんど要せず、事前準備可能な部分だから、多くの再現答案でも、これに触れてはいるだろう。

しかし、この点について、“しっかりと”書けている再現答案が少ないことに気付いただろうか。

上記②伝聞と非伝聞の区別がどんぐりの背比べ状態である以上、他に配点項目がなければ、321条3項の解釈・あてはめでしか点差がつかない。

だから、この点について、論文過去問をくり返し解く中で身に付けた論述を“しっかりと”書けば、他の受験生に点差をつけて、相対的に①合格ライン(最低ライン)を確保できるのだ。


その上で、時間が余れば、自分が考えられる限りで、たとえば立会人の指示説明についての②伝聞と非伝聞の区別とかにトライすればいいじゃない。それが運よく当たれば上位合格レベルに達するけど、運悪く当たらなくても下~中位合格レベルにはとどまるんだから。

これが、“合格可能性を上げる”姿勢・戦術の具体例である。


3.

これに対し、②伝聞と非伝聞の区別の方にばかり時間と答案用紙を使って、①321条3項の解釈・あてはめを全く書いていないか、不充分にしか書いていないと、得点可能性の低い②伝聞と非伝聞の区別で合否が分かれることになってしまう。

よほど②伝聞と非伝聞の区別が得意な受験生(まずいないだろう)でない限り、“合格可能性”の低い姿勢・戦術であることは明らかだ。

確かに、上位合格レベルの再現答案では、①321条3項の解釈・あてはめがある程度書けていて、かつ②伝聞と非伝聞の区別も割と適切に書けていることが多い。

しかし、“合格可能性”の観点からは、そのような上位合格レベルに至る順序(②→①ではなく①→②)が本質的に重要なのだ。


4.

以上のようなことは、旧司論文では当たり前だったと思うんだけどなあ…。

「ホームラン答案を狙うとG答案になる」とか、「基本をしっかり書く」とか。