驚異のメゾ”アグネス・バルツァ。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

シミオナート、コッソットに続き20世紀後期のオペラ界において その主軸として世界的に活躍したメゾ・ソプラノにギリシャ生まれのアグネス・バルツァがいる。長身で端正な顔立ちと堂々たる佇まい、エレガントな表現はもとより直情的で力感に満ちた その歌唱も含め決して美声を欲しいままにする訳ではないが 作品に対する極めて的確な解釈で【万能の歌手】として世界のオペラハウスの常連たる地位を占め席巻したのである。ここに示す収録は「カルメン」がニューヨーク・メット「フィガロの結婚」がウィーン・シャターツオパーの来日公演の折の歌唱である。どちらも私には感慨深い思い出の公演であるが 特に「フィガロの結婚」はNHKホールでのもので、又しても私は この収録の時、会場にいた。勿論バルツァは素晴らしいケルビーノであったが何んと言ってもこの公演のオケピには かの大指揮者カール・ベームがいて その最晩年のまさに 神がかり的バトンさばきを私達の前で披瀝したのであった。因みに これが彼の生前最後の来日となった。舞台に目を転じれば 伯爵夫人を往年の名ソプラノ グンドゥラ・ヤノヴィッツが演じスザンナに故ルチア・ポップ タイトルロールのフィガロに故ヘルマン・プライと言う聴衆に取って贅沢この上ない布陣で この「フィガロの結婚」は海外の歌劇場の引越し公演の中でも特筆すべきものであったのは語るべくもない 素晴らしさに満ちたひと時を余す事なく表出してくれた演奏史の一コマと言えるものだった。一方「カルメン」は白血病発症前のホセ・カレーラスがドン・ホセとして相手役を演じているジェームズ・レヴァイン指揮のこれも又名演中の名演である。これらいずれに於いても やはりアグネス・バルツァの存在の大きさは揺るぎない。これ程 華のあるオペラ歌手は昨今見る事が少なくなった。この優れた演技と歌声も当然 我々の脳裏に永遠に刻まれて行くに違いない。そう思わせる驚異的なパフォーマンス!。これがメゾ・ソプラノ アグネス・バルツァの本領と言うものだ。
(ルチアーナ筆。)
★機会があれば どうぞ全曲もれなく
ご鑑賞ある事をお薦めする。
息をもつかせぬ感動の名演である。

歌劇「カルメン」.ハバネラ”《ビゼー》
カルメン〜アグネス・バルツァ。


歌劇「フィガロの結婚」.恋とはどんなものかしら”《モーツァルト》
ケルビーノ〜アグネス・バルツァ。