(ルチアーナ筆。)
プラシド・ドミンゴ絶頂期の空前の名唱がここにある。ウンベルト・ジョルダーノの歌劇「アンドレア・シェニエ」は私が最も好愛してやまない作品だ。フランス革命に身を投じ それが成就するも やがてその革命政府の暴政があらわとなり 新たな対立と混乱の中 正義を貫いたが為 冤罪を着せられ無慈悲にも断頭台のつゆと消える実在の詩人 アンドレア・シェニエ。彼の波乱に満ちた空前の生涯を没落した元貴族の令嬢マッダレーナ・コアニーとの悲恋と言う創作を加味し 永遠の価値観を踏まえ人の真実の生き様に照らし鮮烈に描いたこの作品はイタリア・オペラを代表するまさに名作中の名作である。今収録は既に四半世紀以上前のものと思われ、はっきりした記憶はないが かつてNHK教育TV(現Eテレ)でオンエアされ当時まだステレオ音声でも無かったがVTRに録画し 今だ所有しているものと同一である事を今回YouTubeで確認したところである。(所有VTRは今や劣化が進み再生がおぼつかない。)冒頭でも述べが ここでタイトルロールを歌い演じるプラシド・ドミンゴは言うまでも無く 三大テノールの一人にして当時 まさに最高のコンディションを保持して世界の数多オペラハウスを席巻していた。ウィーン国立歌劇場での本公演は舞台装置・衣装・演出等々随所に渡り優れた水準を誇り ジェラール役の世界的バリトン ピエロ・カプッチェルリ他 共演のキャストも各々名唱・名演を繰り広げていて 非の打ち所がない歴史的名演と言うに相応しいものだ。そんな中 繰り返すが 取り分けプラシド・ドミンゴのタイトルロールは際立った存在感を示し この上ないパフォーマンスを繰り広げている。やはり物語の核になる部分にこれだけの名歌手であり演じ手が存在する事はオペラ作品の価値を尚一層 倍化させるに充分だ。今後 これ程 シェニエにはまるテノールが現れるかどうか私は何やら疑わしく思う。勿論 優秀・有能なオペラ歌手は次から次へと現れてはいるが かつてのドミンゴ、カレーラス、パヴァロッティに匹敵する人材が我々の心を揺さぶる様な歌声で今 存在しているかと言えば残念ながらそうした状況にはないのが現状ではないか。とにもかくにも ここに提示したウィーン国立歌劇場での「アンドレア・シェニエ」は格別だ。まさに素晴らしいと言う賛辞の言葉しか出て来ない!。とくとご鑑賞あれ。