戦後のドイツリート歌唱において最も多大な功績を残したのは 疑うべきもなく この不世出の名バリトン D.F.ディスカウであろう事は今更繰り返し論評すべくもない事、常識中の常識ではあるが 今は彼もこの世を去り、改めて こうして円熟期の彼が歌う このヴィンターライゼ”を聴くと やはり如何にこの偉大な歌い手が正に【孤高の芸術家】であったが手に取るように分かると言うものだ。これ程までに洗練され 完璧な感情表現と客観描写を高度に同化させ聴衆を詩情の世界へと導くその歌唱技法は彼の後にも先にも他の誰にも真似は出来ない。正に【神業】である。いくら彼に取ってドイツ語が母国語であっても この様に美しいドイツ語を耳にする事は滅多にあるものではない。いやはや 全てに脱帽である。【完全なる美 ・不滅の芸術】とはこの様なものを言う。『悲しいかな形あるもの、人も皆 否応なしに必ず滅する。それは避けては通れぬ宿命だ。しかし 芸術だけは永遠の命を持ち続け未来へと その【美】の世界を提示し続ける。』その確たる証が 今は亡きF.ディスカウの この歌唱の中には宿っている。最後まで一気にお聴き願いたい。
(ルチアーナ筆。)
シューベルト”
歌唱 ディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウ。【バリトン】
ピアノ アルフレート・ブレンデル。