美しき佇まい”。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

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40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
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今般、世界的評価を確立しつつある若手演奏家に注目してみると昨今、中々とその充実ぶりに目を見張らされる事然りである。女流ヴァイオリニスト、ジャニーヌ・ヤンセンもそうした中の一人である。…っと言っても彼女の場合もう既に相当多年に渡っての国際的な活躍を経ての今であり、新進気鋭と言えばかえって失礼に当たるのかも知れない。それ程までに彼女の演奏は近年著しく充実の度合いを極めている。1978年、オランダ・ユトレヒト生れのヤンセンは先ず今そのステージ姿の美しさで際立つ存在となっている。大柄ながら決して特異な押し出しで聴衆を威圧する様な事は微塵もない。均整の取れた立ち姿そのものが端正で気品ある面持ちと相まって、これから展開するその演奏の充実ぶりを期待されるに充分だ。今年も既に来日を果たし、数々の充実したプログラムで我が国の聴衆を魅了したが、私が特に絶賛したいのがブラームスのヴァイオリン協奏曲において彼女が見せた卓越した技巧と重厚ながら且つ透明感を兼ね備えた優れた音楽性の発路であった。NHKホールのあの巨大な空間でこれ程までに物怖じせず堂々たる厚みと色彩を持った音色でフルオーケストラを従えブラームス円熟期の傑作を十全に引き切るとは…!実に見事であった。一口に言えばブラームスの今作品は【枯れた作品】である。ある種の悟りが無ければ容易に弾き熟せる様な【ヤワな作品】ではない。それを30代半ばのまだまだ若手と言うに相応しいヴァイオリニストである彼女が、これ程までに完熟した音楽性を持って体現するとは私に取ってはっきり言って想像を遥かに超える出来事であった。その【美しき佇まい】からは俄かに計る事の出来ないジャニーヌ・ヤンセンの才能はまさに驚愕の的だ。選ばれし者!…とは、芸術の創造と人間として然るべき心的表出とその息吹をまさに体現なし得る者!。これに尽きる。そしてこれを完全に満たしヴァイオリンを通しあらん限りの【美】を提示して尽きない女性、それがジャニーヌ・ヤンセンその人なのであろう事は言うに及ばない。
(ルチアーナ筆。)