(ルチアーナ筆。)
一昨日WOWOWにて放送されたメトロポリタン歌劇場公演、歌劇「トスカ」は期待に違わぬ名演であった。ゼッフィレッリの歴史的名演出と華麗な舞台装置に彩られたかつての名舞台から一変、新演出の妙は果てしなく暗く光を退け陰湿な策略と凶悪な圧政にその運命を深く傷付けられ、炎の様に燃え盛る愛の姿さえ無惨な結末へのプロローグでしかなかった歌姫フローリア・トスカの激しくも一途な想いを深い考察によって描き切った特異でリアリスティックな面持ちが印象的な舞台として今後共、今作品の定番演出となって行くのではないだろうかと想像させられた。スタッフ、キャスト全てが孤高の世界観を最高水準の演劇として体現した点でも本当に見事な出来と褒め称えられて然るべき公演であったやに思う。それにしてもプッチーニの音楽の素晴らしさには今更ながら脱帽である。19世紀末から20世紀初頭にかけて展開されたイタリアグランドオペラ創作におけるまさに最後の巨匠がプッチーニであり、その作品は劇音楽の最高峰に位置するものだ。特に「トスカ」は冒頭から終幕まで息をもつかせぬ切迫感みなぎるストーリー展開の中これ以上想像も及ばぬ程の美しさを誇る歌と壮大なオーケストレーションにより進行するその荘厳な音楽が掛け値なく我々に深い感動をもたらすのである。プッチーニの創作意欲もまさに円熟の極みに達していた時期に書かれたこの作品は【ザ・オペラ】とでも言うべき飛び切りの名作であり不滅の傑作である。【プッチーニの美】はこの歌劇「トスカ」に集約されていると言っても過言ではあるまい。どうか益々諸兄におかれてもこの歌劇「トスカ」を手始めに名作の宝庫たるプッチーニの諸作品に触れて頂きたいと私は切に望みたい。とにかく「トスカ」には名唱が数多記録されている。伝説のかの【マリア・カラス】のそれなどは【人類の宝】と言っても良いほどの記録遺産である。劇場の為にのみ音楽を作った作曲家ジャコモ・プッチーニ。彼が残したもの全てまさに【永遠の命】を持つ【不滅の芸術】なのである。