久しぶりの観劇。 | ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

ルチアーナの音楽時評・アラカルト。

40年以上に及ぶ音楽家としての筆者の活動と
その経験から得た感動や自らの価値観に基づき
広く芸術、エンターテイメント等に独自の論評を
加えて参ります。現在小説 愛のセレナーデと、
クロス小説 ミューズの声を随時掲載中です。
こちらもご覧頂ければ幸いです。

私が推薦をしたレッスン生が
無事、音大附属高校を受験、
合格した事から、先ずは
一安心と言った状況となったが
年度末までは、まだまだ日々多忙だ。
そんな中、昨夜はひと時くつろぎの
時を過ごした。私がかつて手がけた
レッスン生が今、女優として活動をして
いるが、その子が参加した公演の
観劇に出かけたのだ。
私のレッスン生だった子である当然、
音高を卒業(大学へは進学
しなかった。)その後、
主にミュージカル女優として
日々精進している。
中々、厳しい活動状況の下
自身の能力を最大限生かして努力
している姿には教え子ながら
深く敬服している。
昨日の公演は決してメジャーとは
言い難いが独創性豊かな積極的
アプローチに富んだものだった。
主演は空前絶後の超アイドルだった
松田聖子を母に持つ、神田沙也加。
ミュージカル座の新作オリジナル
ミュージカル
【プロパガンダ・コクピット】。
分断された架空の国家の狭間に
介在する集落とその空間で繰り広げ
られる荒唐無稽な心理、悲喜交々の
生活、理想、価値観。てんこ盛りの
内容。余りに色々盛り過ぎて、
何を言わんとしているのか、
甚だ(?)…の瞬間も
無きにしも非ず…っとまあ~そんな
作品だったが、初演であったにも
関わらず出演者個々の演じ手
としての技量は決して低くない。
歌唱力も一定の水準を満たし
アンサンブルも上々の出来では
あったが
我々クラシックを歌っている者に
取っては唯一、この種の公演で
必ず気になる事があり、それが
今回ここでも払拭されない状況を
垣間見た。それは明確な話、
歌唱における【音程】だ。
いくら声が良くてもフレーズを
まとめ切れず音程がフラットするのは
如何とも私の耳には不快としか
言い様がない。
やはり総合的には
発声法の修練が今の日本の
エンタメ界には不足しているのだろう。
マイナー&メジャーに関わらず
この課題の克服を切に
願わずにはいられない。
しかしそれにしても
数多の劇団や個人も含め、末端で
日々、苦労しつつも力強く
気概を持って芝居の公演を行ない
地道に将来を切り開こうと邁進している
若者達のいかに多い事か。それはそれで
実に頼もしい限りだが、
些か切なくもなる。
苦労の程が良くわかるからだ。
クラシックの世界も同じ、才能と
チャンスがなければ脚光を浴びる事は
まずない。だが、この広い意味での
芸術の世界はひとたび足を踏み入れると
抜ける事が出来ない魅力、いや魔力に
満ちている。我々は生涯恐らく
この道を極めんが為、行き抜くで
あろうし又、今回のこの公演の舞台を
飾った若きキャスト達も
私の教え子も含め多難な現状にもめげず
自分達の表現を極める為、前進する事
のみを考えているに違いない。
夢はあくまでも夢である。夢を
追いかけても意味は無い。芸術の世界に
身をおく者に必要なのは明確な
目標を持って現実をつかみ切る事だ。
その為に努力・勉強を惜しまぬ事
それこそが、正しい道筋と言うものだ。
そんな感慨を新たにしつつも
昨日は僅かな時間、充分晴れやかな
時の流れを享受出来た。その事には
充分感謝しなくてはなるまい。
(ルチアーナ筆。)

★神田沙也加、かのスーパーアイドル
の娘、そして父方は祖母以来の役者。
その血筋か、小柄だが存在感は
たっぷりだ。まあ~お母さんと比べると
些か可哀想だがやはり血は争えぬとは
良く言ったもの。
新鮮な輝きに満ちた愛らしい舞台姿
であった。