ある種の緊張感が漂う中、私は率直に
サヤに話かけた。「サヤちゃん良く聞いて!。何と言ってもさ!君がここヘ来る事になったきっかけは、今更言うまでもないけれど私達2人が君を君の同意無しにここに連れてきたからだからさ、君が今実の所ここに留まる事を正に良く思っていないのなら私達に君をこれ以上ここに引き止める権利はないと思っているんだ。だけれどね。君が前にお世話になっていた施設の先生方ともお話した様に今の君をこのまま、まるで犬や猫の様にここから放り出す様な事は私達夫婦には出来ないし、それではだいいち、それこそ施設の先生方との約束を反故にする事になるだろう?だからさ、この前も言ったけれど君はここにずっといて良いんだよ。」サヤ「うん、分かってる…。」私(市澤)「じゃ~それならばさ!やっぱり私達と一緒に生活する上でのルールをちゃんと決めてそれをお互いさ、きちんと守ってその上で暮して行こうよ。その方がきっと楽しいと思うしさ…。」サヤ「うん、ゴメンね。何だか私、自分ではそんなつもり無いんだけどいつも、おじさんの事怒らせちゃってるみたいだし、私馬鹿だからさ!
何んだかわかんないんだよね…!」私(市澤)「私は、君が馬鹿な子だなんで思ってもいないよ。ただね…。少しばかり言葉使いには注意してもらいたいんだよ。まだ君はここに来てから間もないから分からないと思うけど、これからは、ちょっとばかり偉い人とかもお客様として来る事があると思うのでね…。」サヤ「へえ~。そうなんだ。うん!分かった。頑張ってみる!」本当か?私は心で大声をあげていた。私(市澤)「それから私達の事をもうそろそろ、おじさん、おばさんと言うのを止めてもらいたいのだけれどね!」サヤ「えぇ~じゃ~さ!何て呼ぶの…。あぁ…!!あのムーンさんとかマミーとか言うの!あれ~!変じゃない、あれ~。あれが二人の名前だったらさあ~。超うけるんだけれど…!(笑)」言葉使いのどこが良くなったのだ…!この娘とは話せば話す程こちらの具合が悪くなる!。その後私達は私達夫婦が陸奥、まゆ美と言うそれぞれ名前である事、仕事はオペラの歌い手で海外生活が長かった事、私が病気で引退した事、(だが、病気の深刻さには触れなかった。)そしてこれからの生活の事、サヤを受け入れたからといって何も心配要らない事、等、事細かく話して聞かせた。サヤはあまりにスケールの大きな私達の話にあっけに取られた様だったが自分もこれからは、ここの単なる居候ではなく何か働いて私達に迷惑をかけた分を償ってみせると言い出した。実の所私達はそんな事はどうでも良い。しかし今日の所はその言葉をこの娘の誠意と受け止め 言葉をそのまま引き取った。さあ~これで終わりだ。そして何やら何かがスタートする。因みにサヤは今後私をムーパパ、妻をマーママと呼ぶと決めたそうだ。そう~!ご勝手に…。
固定電話のコールだ!。私が出た。
「はい、市澤で御座いますが…。」
「もしもし、市澤さんの御宅でしょうか?」「はい、さようで御座いますが…。どちら様でしょうか?」私の返事に「あの私、昨日横浜のストリートライヴで歌っていたNoonMooon
と言う…、」「ああ~君達か~!。」私は電話の向こうで緊張しきりの声を
さえぎる様に切り替えしていた。
瞬間、何か良い事が起きるのでは…っと急に思えて来た。( 続く。)
ルチアーナ作