【ブログ小説 25】癒し、天職でした! シーズン2「2.緊急事態宣言発出」 | コラム「快整体術」

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講座内容に関するお話をご紹介します

 夕方4時、夜の部のスタートだ。昼の部が思ったよりも盛況だったので、夜も期待したのだが、こちらは最近の様子とあまり変わらなかった。

 

 もっとも、口開けの段階ではこれまでもあまり来店者はおらず、近くの常連客が顔を出す程度だ。この日も最初の来店は常連の相沢だった。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 私は来店の挨拶をし、相沢は目線と会釈で返した。いつもの席に着くと、とりあえずのオーダーも変わらなかった。早々に準備できるメニューなのですぐに運んだ。

 

 いつもは私から声をかけることが多いが、この日は相沢から話を切り出した。

 

「店長、今日からランチタイムスタートしたよね。どうだった? 俺も顔を出そうかとも思ったけれど、こういうことは新しいお客さんを呼び込む良い機会になるから、今回は遠慮したよ」

 

 思わぬ言葉に私は驚いた。事前にランチタイムのお知らせはチラシで告知しているし、店頭にも貼り出している。だから相沢は知っていても当然なのだが、その心遣いが嬉しく、また驚いたのだ。

 

「お気遣い、ありがとうございます。おかげさまで予想よりもお越しいただいたお客様が多く、準備していたメニューのうち、日替わりについてはもう少しオーダーが増えればお断りしなければならない、と思うほどでした」

 

「ほう、それはすごいね。やっぱり、女性客のおかげかな?」

 

 相沢の指摘は的を射ていた。

 

「その通りです。よくお分かりですね」

 

「チラシを見て分かったけれど、この企画は普段女性には敷居が高い居酒屋にランチで呼び込むためと思っていたんだ。メニューの構成やデザインから分かったよ。実は俺、昔、広告関係の仕事をしていてね、チラシなどからいろいろ読む癖がついているんだ。だから、今回のチラシでもそう考えたんだが、当たったかい。初日に転べば気持ちは沈むけれど、逆に良い結果になれば弾みもつく。だけど気を付けないといけないのはこの後だ。初めのうちは珍しさも手伝って客は来るが、だんだん尻すぼみになるケースは多い。だから、最初の勢いを保つ、そしてそれ以上のことを目指すつもりでやっていかなければ、後発組に追いつき追い越されちゃうよ」

 

 相沢は真顔で言った。そこには常連客のイメージはなく、コンサルタントのような感じだった。私はまさか相沢からこのようなアドバイスを受けるとは思っておらず、話を聞いている間は直立していた。そして、そのような相沢が常連で通っている理由について興味が湧いた。

 

「相沢さん、貴重なアドバイスありがとうございます。もう一つお聞かせいただきたいのですか、なぜ毎日のようにウチに足を運んでいただけるのですか? 特別変わったことをやっているつもりはないのですが・・・」

 

「店長、それは味だよ。食べ物屋の命は何といっても美味しいことだ。俺が気に入っているのはお通しといつも頼んでいる煮込みだけど、お通しなんかはいくらでも手を抜けるし、煮込みも同じだ。ここはそういった基本的なところをきちんと意識していると食べていて感じるんだ。だからつい足が向いてしまう。まあ、そういうことかな。だから、ランチで新規のお客様が増えていけば、夜のほうにも流れていくんじゃないかな」

 

 相沢のこの言葉はまさしく値千金だった。リップサービスでないところはほぼ毎日のように足を運んでくることで分かる。そしてそのベースになっているのが確かな経験則に基づいてのことだったので、私はこの言葉を糧に頑張ろうと改めて心に誓った。

 

 

 

 

 

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