サブは、
深い眠りから覚めたような心地よさを
感じていた。
恐ろしい大蛇に締めつけられ、
媚香に体の自由を奪われたところまでは
覚えている。
「き、キクどのぉっ。順覧どのぉっ。」
サブの叫びは
空に吸い込まれていった。
と、一羽の白鷺がどこからか舞い降りた。
黄泉(よみ)の入口は、
冷たい霧に包まれていた。
体のシンまでこごえそうな気がする。
白鷺に化した順覧の姿は
いつの間にか消えていた。
「ある、南の方の漁師町の話なんじゃが。」
キクの語部が聞こえてくる。
流れ者の漁師のリュウと、
サチという土地の娘がおっての。
二人は好きおうとったんじゃ。
まわりの者は、
反対しとったんじゃが。
ある日、漁に出る前、リュウはサチに言うた。
「今日、大漁じゃったら祝言あげるんじゃ。」
サチはたいそう喜んだ。
じゃが、
リュウの乗った船は夕方になっても、
二日経っても三日経っても戻ってこなんだ。
その間、サチは何も食べず、寝ることもせず、
迎え火のそばで、ずっと沖を見とったそうじゃ。
リュウが帰りゃすぐにでも祝言あげれるよう、
きれいなべべ着て、幾日も幾日も…。
そこでキクの語部はとだえた。
「数日後の夜の事じゃった。」
サブが語りはじめる。
月明かりに水面がきらきら輝いとった。
青白い光の玉に導かれるよう、
リュウの船が帰ってきおった。
沖で嵐に遭うたリュウの船は、
転覆こそまぬがれたが、
気を失うたリュウを載せたまま、
何日か漂流しとったんじゃ。
気がついた時、
その光の玉が現れ救うてくれた。
浜辺には、月に照らされた
サチの姿が見える。
手を振るサチの姿が。
「サチーっ。今戻ったぞーっ。祝言じゃっ。」
リュウは力の限り叫んだ。
つづく


