どうあってもサトミは過去のイジメを許してくれそうにない。
すると、俺の脇から今まで黙りこんでいたタカポンが興奮ぎみに言う。
「土下座でも何でもする! 頼む! 許してくれ!」
途端にサトミの口元がひきつり、微かな苛立ちが浮かぶ。
「…あんたもバカなの? 謝ったぐらいじゃ許さないって、今言ったばかりじゃない。土下座は結局のところ、ただ体勢を変えただけで謝罪でしょ?」
「じゃあ、気の済むまで殴ってくれ!」
イチハラが叫ぶと、呆れ顔でサトミが言った。
「気の済むまでって…死ぬまで殴っても良いってこと? 私を暴行犯か殺人犯にしたいの? 何であんたのために私が罪を犯して刑務所に入らなきゃならないのよ? 仮に気の済むまで殴って、あんたが死んだとしても許す気にならないと思うけど?…って言うか、『気の済むまで殴れ』っていう台詞も『どうしたら許してくれるのか?』っていう台詞と同じくらい聞き飽きたわ。子供の頃も全く同じこと言ったよね?」
イチハラ…お前、バカすぎるわ。
俺も思わず呆れていると。
「良いよ! 殺したいなら、殺してくれ!」
興奮気味にイチハラが叫ぶ。
…コイツはサトミの話を聞いてたのか?
俺が更に呆れていると、サトミは更に冷たい目でイチハラを見て言った。
「…イチハラくん。私の話、聞いてた?」
「『死ね』って言うなら、死んでも構わない!」
「それも昔、私を泣かせた後に良く言ってたよね。でもね、どんなに死んで欲しくても『じゃあ、死んで』とは言えないでしょうが。自殺示唆って知ってる?」
尚も自分勝手な謝罪を畳み掛けるイチハラに、サトミは呆れを通り越してドン引きし始めているようだった。
サトミは溜め息混じりに呟いた。
「…そんなに許されたいのなら、一つだけ私が思い付いた方法があるんだけど…実現不可能だし」
…え?
許される方法があるの?
「それって…」
「絶対に実現できないから言わないわ」
「いや、言ってくれ。なんでもするから」
俺が言うと、サトミはニッコリ笑って言った。
「…今すぐ過去に戻って私をイジメる前の自分たちを、その手でブチ殺して来てくれる? そうしたら許してあげる…というか許すも何も、あんたたちの存在もイジメた過去も何もかも全部消えて無くなるワケだから、謝罪しても許してもらえない現在も消えてなくなるワケ。…ね? 実現不可能でしょ? でも、綺麗にすべて消えてなくなるわ」
続く