苛立つサトミを前に何も言えず、俺たちが突っ立っていると誰かが「まあまあ」と言いながら割って入って言った。
「そんなに怒るなよ、サトミ。コイツらも十分反省しているみたいだし」
この同窓会の幹事のエダという男だった。
コイツは昔からイイコちゃんぶってて、サトミのことをイジメていない。
それどころかかばってやっていたのを見たことがある。
「遅すぎる謝罪に関しては怒っているけどね」
サトミは微笑みを浮かべて言う。
「イジメに関する怒りは長い年月の間に風化したわ。でもね、この胸の中で時々あの頃の私が泣いているように思えるの。『悔しい、悲しい、許さない、殺す』って。この子が泣き止まない限り、私はこの人たちを許すワケにはいかないわ。私の味方は私だけだもの」
エダは「…そっか」と呟くと、困ったように黙りこんだ。
頼りにならない助け船だったようだ。
「いや、その…本当に悪かったよ。じゃあ、どうしたら許してくれるんだよ」
イチハラが言うとサトミは軽く目を見開き、驚いたような表情をした後、お腹を抱えて大笑いを始めた。
「な…なんだよ! 何がおかしいんだよ!?」
イチハラが声を荒げると、サトミは笑いすぎて浮かんだ目尻の涙を拭いながら言った。
「いや、全然変わってないんだな~って思って。イチハラくん、子供の頃に私を泣かした時も『じゃあ、どうしたら許してくれるんだよ!?』って聞いて来たよね」
「そ…そうだっけ?」
「そうよ。あの頃も思ってたんだけど、あんた本当にバカよね。許しを乞うぐらいなら最初から人を傷つけるような真似、しなきゃ良いのよ。それに許す方法なんて、いちいち私に聞かないでくれる? 許して欲しいのはあんたでしょ? 私はあんたを許さなくてもこの先の人生をまっとう出来るもの。許されなきゃ後にも先にも進めないのはあんたじゃない。 あんたが人生をまっとうしてもしなくても私は知ったこっちゃないし、正直どうでも良いことだわ」
にこやかに笑いながらサトミは言った。
続く