もっと炎を。
行ってまいりました。
Yさん宅です。
「Yさん」でピンと来られない方は、こちら をどうぞ。
トゥル ルルル~。
「おや、電話ですね。」
コードレスの子機を取る私。
素早くYさんに手渡します。
Yさんはね。
施術中だろうと関係ありません。
しっかり話されます(笑)
「あら、Tくん。」
I神社の神主さん。
Tさんだ。
Yたばこ店はね。
I神社の鳥居のすぐ横。
戦後から店を構え続けて65年。
歴代の宮司さんとも家族ぐるみ。
いつも食料供給を受けているので。
神主さん一同、Yさんにはね。
誰もアタマが上がりません。
しかも、Tさんはね。
一時期、Yさんの所有されるお部屋。
借りておられたんです。
つまり、大家さん。
30代半ばなんだけどね。
しょっちゅうYさんにこき・・・尽くされておられます。
私も過去のセミナーでね。
神社の関連施設をお借りした関係でね。
Tさんとは、顔なじみ。
「Yさん友の会」の幹部です(笑)
「じゃあ、取りに来てちょーだい。」
あら、終わった。
すぐに子機を戻されるYさん。
「Tさん、来られるんですか?」
「そう、フライパンを貸してほしいって。」
I神社は、由緒正しき官幣(かんぺい)大社。
お正月の来客もひっきりなし。
で、お料理自慢の氏子さんがね。
まかないで焼きそばを作ってくれると。
ところが、社務所にはフライパンがない。
で、「天下の台所」へ。
「先生、お願いがあるんですけど。」
「はい?」
Yさん宅のフライパンはね。
長年使いこまれてね。
イイ味が出ています。
で、もらいもののフライパンがね。
新品のまま、廊下に積み上げてると。
その箱を探し出してね。
Tさんに渡してくれと。
そのまま、進呈されるみたい。
さすがYさん。
気風がイイ。
Yさん宅の廊下脇。
お歳暮、お中元、意味不明の段ボール箱。
堆(うずたか)く積み上げられてます。
特に、低層はキケン。
ジュラ紀や白亜紀から放置されてます(笑)
通称『魔界の回廊(ラビリンス)』。
うわ~、どれかわからん。
いつもながらね。
その物量に圧倒されます。
「Yさ~ん」
「は~い」
「どんな箱に入ってるんですか~?」
ラビリンスにはね。
箱の中身を示すためでしょうか。
ガムテープにね。
「かんづめ」「洗剤」とか書いて貼っておられます。
「ああ、『ちんげんさい』って書いてます。」
「は?」
「だから『ち・ん・げ・ん・さ・い』って。」
えっ?
チンゲン菜?
なぜに?
フライパンで炒めようとされてたのか?
確かにYさんは、葉野菜が好物。
「ついでにチンゲン菜の絵も描いてましたよ。」
はっ?
チンゲン菜の絵?
なぜに、そこまで?
よっぽどチンゲン菜を炒めたかったのか?
まあ、いいや。
どこだ、どこだ?
見当たらないなあ~。
フライパンが入っているなら。
30cm×50cmくらいで。
厚さが10cmちょっとかな。
で、チンゲン菜の文字と絵が。
「漢字で書いてますよ~。」
チンゲン菜を漢字で?
「ゲン」ってどんな字だ?
まあ、「チン」は「青」だろね。
う~ん、それらしい特徴の箱が・・・ない。
どこなんだ?
探しているうちにTさんが。
「あっ、あけましておめでとうございます。」
新年の挨拶もそこそこに。
Tさんに事情を話します。
「では、私も一緒に。」
Tさんと二人で。
探索力も倍増。
「チンゲン菜、チンゲン菜・・・。」
「う~ん、ほんと見当たりませんね。」
ダメだ。
見つからない。
降参です。
居間に戻ってね。
イビキをかいてるYさんに。
「Yさん、Yさん。」
「・・・はっ?」
寝ボケて、目が「3」。
「フライパンの箱がね。」
「はあ」
「見当たらないんですけど。」
そんなことないわよ。
ちゃんとありますよ。
仕方がないわね~。
大の男二人がね。
探し物ひとつできないのかと。
重い腰をあげられるYさん。
「すいません。何度も探したつもりなんですが。」
平身低頭。
お詫びするだけ。
魔界の主。
直々にラビリンスへ。
「・・・ほら、ここにあるじゃない。」
はっ?
えっ、それ?
いや、確かにありましたよ。
でも、箱の側面に何も貼ってないし。
しかも、厚みが30cmぐらいあってね。
フライパンにしては、デカすぎるし。
一体、どういうことだ。
はやる気持ちを抑えつつ。
テトリスを崩すように慎重に。
上の箱を脇に降ろします。
・・・ハッ、こ、これは!
↓
↓
↓
↓
↓
『陳建一の中華鍋』
ではないか。
チンゲン菜・・・ちんけんいち。
全然違うし。
そもそも、中華鍋でしょ、これ。
分厚いはずだ。
しかも、絵って。
陳建一じゃないか。
勝ち誇ったようにほくそ笑む彼。
完膚無きまでの敗北感。
「ほら、ちゃんとあるじゃないですか。」
「・・・すいません。」
云いたいことは、のど元まで来てます。
しかし、口に出してはイケません。
素直に謝っておかないと。
帰宅時間がね。
確実に30分は遅くなります。
Tさんと目が合います。
諦観したピュアな眼差し。
すべてを受け容れた寂しげなほほ笑み。
ドナドナで市場に売られる仔牛のように。
荷馬車以上にココロも揺れます。
さすが神さまに仕えるTさん。
できた方です。
そう、Yさんはお試しになられたのです。
経絡ストレッチだなんだと。
意識を手放そうなんて云ってるけど。
ホントに解放されてるのかと。
年頭に私の決意のほどを。
フライパンも中華鍋もね。
似たようなもんです。
セドリックとグロリアみたいなもの。
「良い加減」を愉しみなさいと。
Yさんの教えや深し。
凍てつく夜空。
さんざめくオリオン。
ふとよぎる一抹の不安。
果たして、社務所にあるのだろうか?
中華鍋が使えるような火力が・・・。
-つづく-