『イヌは何を考えているか(脳科学が明らかにする動物の気持ち)』
『What It's Like to Be a Dog(And Other Adventures in Animal Neuroscience)』
グレゴリー・バーンズ著
Gregory Berns,MD,PhD
野中香方子・西村美佐子訳
化学同人
面白かった。
化学同人さんから出てますが、研究論文ではない一般人に向けての、こういう事を知りたいからこういう事をやってますと云う本なので、読みやすくて理解しやすく気軽に手に取れます。
原題と邦題には差異があって、この本だけで邦題の答えが得られるわけではありません。
動物に対して行動学でなく脳科学からのアプローチ、fMRIを使用してイヌの心を理解しようと、イヌの自由意思を尊重したやり方で行われる実験経過が書かれています。
イヌが何を考えているかというよりも、科学者がイヌを実験動物として見ないで研究をしているんだという事に感動を覚えました。
①イヌに危害(苦痛)を加えない。懲罰は用いず報酬だけでの訓練。
②イヌを拘束しない。物理的にも、そして薬物も使用しない。
③犬に自己決定権を与える。拒否権を持たせる。
の三原則を決めて著者は実験を行っています。
ただ、その後に続く言葉
「イヌに決定権を与えることで、わたしは文化的、科学的罪を犯しているように感じた。人間の意思に従うか否かを決める権利を動物に与えるのは異端だ。」
科学者でもなければ、文化的に唯一絶対神を持たないで百鬼夜行や付喪神にこそ親しい私には、彼の苦悩はわかりようがないけれども、他の種の苦痛や命を搾取することで今の私が在ることは理解している。
肉食するための畜産。
医学にとどまらず、日用品開発で使われる実験動物の痛みと命。
皮をはがれ、羽毛をむしられる家畜たち。
楽しみのために消費される動物たち。ここにはペット産業も含まれる。
他にも私が知らない事はいっぱいあるだろう。
鶏肉を豚肉を牛肉を食べて、
医者に行き薬を飲んで、インフルエンザワクチンを接種して、
シャンプーで頭を洗って、化粧して、
ダウンジャケットを着て、羽毛布団で寝る。
そこに痛みを感じる動物がいることを理解しながら、見ないことで毎日を生きている。
保護犬に心を寄せるのは、私がこゆきと群れになったから。
こゆきが牛だったらビーガンになっていただろうし、
こゆきがガチョウだったら羽毛布団の不買運動をしてただろう。
私は私に出来ることしか出来ない。
そして、出来ることであればやる。
それがどんなにささやかでも、知る事とやる事、そして伝える事は大切だと思うから。
グレゴリー・バーンズ氏が実験でイヌに自己決定権を与えたように。
一部の獣医学部で動物実験をシリコンモデルに変えたように。
ヒトが動物から搾取する行為のその線引きは難しい。社会により文化により個人によっても違ってくる。
でも、だからこそ、
誰もが自分の出来ることをそれぞれすればいい。
そして、世界に伝える術がある今の時代。
自分がしている事、思う事を伝えていけば、
今よりも少しだけ、犬にとって人にとって良い世界になる。
…と良いな
最後に、
こゆきに行った輸血。
あれだって献血犬の承諾なんて得ていない。
訳も分からず針を刺され痛い思いをして血を抜かれた犬たちがいた。
献血してくれたわんこたちに何かお礼をしたいと言ったけど受付のお姉さんに遠慮された。
あの時は言う機会がなかったから、せめてここに書いておこう。
献血してくれたわんこたち。
あの時は本当にありがとうございました。
お礼言う事も撫でる事もしなくてごめんなさい。
こゆきが少し元気になったのはあなた達のおかげです。
私が少し楽になったのはあなた達のおかげです。
本当にありがとうございました。