これまで、

 

①「日本海軍が『海上護衛戦』で米潜水艦に完敗した理由」

 

 ②「『軍=お国』のために国民(民間人)が犠牲になるのが当たり前だった時代~『船乗りたちの戦争』」 ~

                                                                   

③「なぜ、日本海軍は『生命線』であるシーレーンを守る事が出来ず、『海上護衛戦』に惨敗したのか 」   

 

と、続けてきた「海上護衛戦」シリーズですが、今回は、最も重要な「現代編」です。

 

まだ上記の記事をお読みでない方は、先に③(総論)→②(各論)→①(結論)の順で過去記事を読まれてから、本稿に進む事をお勧めします。

 

 

 

 

「ウクライナショック・ドクトリン」

ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、それに便乗した自民党や維新、安部元総理を中心とした右翼界隈によるマスコミを総動員した軍備拡大・国防意識高揚大キャンペーンが展開されています。

 

今の国民世論だとすんなり通りそうな防衛予算倍増を手始めに、敵基地攻や敵軍中枢への(先制)攻撃能力の保持、米国との核兵器共有、台湾有事の際は日本も参戦、憲法九条を改悪して日本の核武装化を可能にするなどやりたい放題、言いたい放題で、日本の軍事大国化と世論の右傾化に歯止めがかかる気配はありません。

 

防衛予算倍増が実現すれば、日本は現在の9位から世界第3位の軍事大国になります。現在進行中の軍拡大キャンペーンはまさに「ウクライナショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義または火事場泥棒資本主義)そのものです。

 

安部元総理などの極右周辺は「戦後最大のチャンス」とばかり大盛り上がりですが、このまま軍拡が止まらず、好戦的な勢力の政治的圧力が増して行けば日本の周辺国も心穏やかではいられません。それらの国との緊張が一層高まるのは必至です。

通商破壊戦による「経済封鎖」は現代でも十分通用する

あまり考えたくはありませんが、仮に日本政府が「仮想敵国」としている国との緊張がエスカレートして「一触即発」状態になった場合、一体何が起き、相手国がどのような対応をしてくるのかシミュレーションしておくのも無駄ではないでしょう。

 

下手に手を出すと米軍が出てきて、かえって大火傷を負う危険性があります。ですが、そのようなリスクを冒さずに、また、一滴の血も流す事なく「お手軽、かつ手っ取り早く」日本を屈服させる方法が一つあります。

 

このシリーズの過去記事を読まれた方はすぐにピンとくると思いますが、太平洋戦争で米軍が実施して圧倒的な効果を上げたシーレーン(海上交通路)破壊による「日本の海上封鎖」をやればよいのです。

 

米海軍の無制限潜水艦作戦によって輸送船団を次々に撃沈された日本は継戦能力を失って戦時経済が崩壊、まさにノックアウト状態にまで追い込まれました。事実、米戦略爆撃調査団副団長は、「日本を降伏させるには、潜水艦と機雷による海上封鎖だけで十分だった。原爆もソ連参戦も必要なかった。」と証言しています。

 

現在、重量ベースで日本の輸入量の95%は海上輸送ですから、その効果は今日でも絶大です。

 

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          現在の日本の主要なシーレーン

太平洋戦争直前、1939年の日本の食料自給率は86%。これに対して、現在の食料自給率は、僅か37%(カロリーベース)にまで低下。その上、エネルギー自給率に至っては何と12%。この他、工業製品の製造に必要な資源の殆どを海外からの輸入に頼っています。

 

「海上封鎖」されると食料や石油、LNGなどのエネルギー、各種原材料資源がまともに入って来なくなるのは火を見るより明らかです。電力会社が慌てて原発を再稼働しても、全く需要に追いつきません。

※緊張が更にエスカレートして「ホットウォー」になった時のミサイル攻撃が恐ろしいので、原発再稼働にも及び腰になると考えられます。まあ、再稼働していなくても使用済み核燃料が原発にある限り、ミサイル攻撃されれば結果は同じ事ですが。

そうなった場合、太平洋戦争開始前の1.5倍以上、1億2500万人の人口を抱える「無資源大国」日本は、「海上封鎖」が少しでも長引けば食糧事情ひとつとっても戦前よりもっと悲惨な状態に追い込まれる事は火を見るよりも明らかです。

威嚇や「嫌がらせ作戦」だけでもその効果は覿面

まず手始めに相手国は、「日本へ向かう輸送船やタンカーの安全は保障しないと警告します(日本から出て行く船は関係ないので、スルーでもOK)。」それだけでも海運業界は恐慌を来すはずですか゜、本気じゃないだろうと楽観視して日本に向かう船があれば、警告としてその船の近くに対艦ミサイルを一発撃ち込み、「次は撃沈する。」と強い脅しをかけるのです。

 

シーレーン上に潜水艦が姿を見せるだけでも、その威嚇効果は抜群でしょう。

 

また、2019年に中東で起きた「ホルムズ海峡タンカー攻撃事件」のように相手国が正面切って声明を出さずに、どこの国か分からないように偽装した覆面部隊によって攻撃させるという手もあります。現にホルムズ海峡の事件については、イラン革命防衛隊犯行説と米国の謀略説(自作自演のフレームアップ)の二つがあって、未だにはっきりしていません。

 

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秘密裏に日本のシーレーンの要所に(あまり威力の強くない)機雷を敷設するだけでも大きな脅威になるでしょう。(潜水艦による機雷敷設が効果的です。) 別に日本の近海や港でなくてもよいのです。遠い公海上にある日本のシーレーン上にばら撒けばそこを迂回せざるを得なくなり、従来より時間と出費がかさんで打撃をこうむるので輸入が滞ります。

 

その場合も、上に書いたように別に「我が国がやりました。」と「犯行声明」を出す必要はありません。もしも紛争とは関係ない国の船が触雷して被害を出した場合、国際的批判が高まりますから。

 

ホルムズ海峡事件のように海賊か、どこかのならず者組織がやった事にすればよいのです。要するに「嫌がらせ作戦」ですね。

 

どちらにせよ、そのような「緊急事態」になれば、船舶輸送が停滞して日本の輸入量が激減する事はまず間違いのないところです。完全にストップせずとも輸入量が2~3割削られただけでも、日本経済と国民生活は大打撃を受けるでしょう。

 

攻撃される可能性があると分かれば海運会社だって船を出ししぶるでしょうし、船員たちだってそんな危険な海域には行きたくないに決まっています(日本船籍船員の内、日本人は僅か3.7%)。

自衛隊が日本向け船舶を防衛する事は可能か

「自衛隊の護衛艦でコンテナ船やタンカーを守ればいいじゃないか。」ですって? 御冗談を。

自衛隊は、その戦力から考えても膨大な日本向け船舶の全てを十分に守ることなど出来ない相談です。仮に護衛を実施するにしても、いつ相手が実際に攻撃してくるか分からない緊張状態の中で、貨物船護衛に割ける戦力などたかがしれています。

※2021年の海上自衛隊の主な戦力は、護衛艦47隻、潜水艦21隻、掃海艇などの機雷戦艦艇22隻、哨戒機74機、電子戦データ収集機など10機、航続距離の短い哨戒ヘリコプターなど79機です。

大戦中、海上護衛総隊を創設しようとした時、「船団護衛に回せる余力などない。」という強い反対論がありましたが、あれと全く同じ事です。自衛隊は、沖縄や尖閣諸島、本土を敵の上陸やミサイル攻撃から守る事で一杯一杯になり、貨物船護衛に回せる余裕などないのは、太平洋戦争中も今も変わりはないのです。

 

戦時中のような護送船団方式に切り替えてその船団に護衛艦を1隻ずつ付ける事にした所で、船団の組み上げや順番の割り当て、連絡調整などに時間がかかり、実際に運用できるのは早くても数か月も先になるでしょう。また、全ての船団に護衛艦をつける事も不可能です。

※自衛隊はその成り立ちからして米軍が戦争を始めた場合の後方支援か、鉄砲玉あるいは米兵の弾除けとして米軍よりも先に突撃させられるかのどちらかの役目を負わされています。自衛隊は「日米密約」の取り決めで、有事の際は米軍の指揮下に入る事になっています(指揮権密約)。自衛隊は、米軍の下部組織のようなものですから。

日本が他国と戦争を始めた場合は、継戦能力が乏しい自衛隊は米軍が参戦するまでのつなぎの役割が主任務で、自衛隊だけで戦う事態はそもそも想定されていません。
※現在、中国は紅海に面したアフリカのジブチ、ペルシア湾ホルムズ海峡のイラン・キーシュ島、南シナ海の南沙諸島などで軍事基地建設を進めており、それらの基地を拠点に日本のシーレーン航行を妨害・遮断する可能性もあります。日本向け原油の90%は南シナ海経由。
※やや古いデータですが、軍事評論家の田岡俊次は「2012年で、日本の船会社が雇う外国籍船は2698隻に達し、日本の海運輸入量のうち、日本籍船が積むのは10.1%にすぎず、55.2%は日本の船会社が雇った外国船、34.7%は純粋の外国船で運ばれている。」と言っています。ここには、そもそも「日本籍船ではない日本向け輸送船を自衛隊が護衛することが出来るのか?」という憲法と自衛隊法に関わる重大問題が横たわっています。
※清谷信一は、「<海上自衛隊のシーレーン防衛はフィクション>日本には戦時に守る対象となる自国の商船隊が存在しない」で、次のように書いています。

「しかも日本人船員の組合である全日本海員組合は戦争には協力しない姿勢をとっている。これは先の戦争で帝国海軍が商戦護衛を軽視し、まともに護衛を行わなかったために多くの民間船員が死亡しているからだ。つまり、日本人が乗り組んだ日本船籍の商船も戦時には使えない可能性がある。」   

「我が国には戦時に商船会社に対して船を運航するよう命令する、あるいは徴用するような法律もない。まして外国人船員に戦時の船団に乗り組めという強制などできない。例外は外国船による物資の輸送の「御願い」だが、だれが好きこのんで撃沈される危険を冒して外国のために働いてくれようか。」

                             米軍が対中国相手に本気で参戦する事は考えにくい

日本有事の際、最も頼りにしているのが米軍ですが、日本が本当に戦争状態になったとき、日米安保条約にはNATO条約第5条のような明確な「自動参戦義務規定」はなく、米国議会や米国世論の動向に左右されますので、米軍が必ず参戦するという保証はありません。

 

また、即決できる「大統領命令」で軍事行動を発動するにしても最初の内は様子を見るでしょうから、日本人の血が大量に流されてからになります。

 

もし、交戦相手国が中国と言う事になると、米側としては非常に厄介です。米軍が直接介入すれば強大な軍備を持つ中国との全面戦争になりますから、そうした最悪の事態は避けたいのが米国の本音でしょう。

 

ウクライナのように自らは直接介入せず、日本への大量の武器援助や精々後方支援に留める可能性も高いと思われます。

日本と中国を戦わせる事で中国を疲弊させ、併せて日本に大量の軍事援助(多分有償)を行って「軍産複合体」を大儲けさせるという一石二鳥。こうすれば米兵の血を流さずに「漁夫の利」を得る事が出来ますから。

 

「ネオコン」や「軍産複合体」の代理人の戦争屋バイデンが、ウクライナで大成功して味を占めた手法を新日中戦争」でも使おうという寸法です。

 

この手法、予想されている「台湾有事」でも使う可能性が高いです。「台湾有事」になった場合、台湾海峡だけでなくバシー海峡や南沙諸島にも戦火が及ぶので、その場合も日本の輸出入が大打撃を受ける事は確実です。「産業のコメである半導体」も入って来なくなります。

 

「台湾有事」の際、周辺国の中で最も被害を被る日本は、全力で「台湾有事」を止めなくてはいけないのです。自衛隊が参戦したところで「日本の存立危機事態」は何ら改善される事はなく、日本にも直接戦火が及んで逆にもっと事態を悪化させるだけです。

 

以上のように日本が本当に「ホットウォー」状態になった場合ですら米軍が本気で介入するか定かではないのですから、「嫌がらせ作戦」などによる「ソフトな」海上封鎖程度で米軍が出て来る事はないと考えられます。

 

ウクライナでもやっているように電子戦機などを出して日本に情報を伝える各種側面支援等なら大いにあり得るでしょうが。

 

また仮に、米軍が全面支援に入ったとしても、日本の代表的なシーレーンであるペルシア湾→マラッカ海峡→南シナ海→日本本土ルートだけでも優に1万2千キロはあるのです。長大なオイルシーレーンひとつ守るだけでも膨大な戦力が必要ですから、さすがの米軍でも手に余るでしょうし、そもそも米軍にも守る気はないでしょう。

 

石油やLPG(両方とも多少の備蓄はありますが)と共に日本の食料や畜産飼料などが枯渇するのは、時間の問題です。

 

※相手が北朝鮮の場合は、また別のシナリオが必要になります。米国の対応は対中国・ソ連よりは直接介入する確率が格段に高まります。米国と北朝鮮の戦力には大人と子どもどころか、天と地ほどの開きがあります。実は、これが恐ろしいのです。

 

現在の北朝鮮は、ロフテッド軌道(高く打ち上げる)ミサイルの実験で理論上は米国まで届くICBM開発にようやく成功した段階。まだ核弾頭の数も少なく、ICBMを

米本土に向けて発射されても迎撃可能と判断すれば、一気に北朝鮮を叩き潰す行動に出るかもしれません。トランプ政権時代に一時緊張が高まって、瀬戸際まで行った事があったくらいですから。

 

もし、米国がそのような強硬手段に出た場合、最も被害を受けるのは日本と韓国です。米軍と自衛隊(米軍が出れば、韓国軍も参戦せざるを得ないでしょう)に攻撃された北朝鮮は、旗色が悪くなれば自暴自棄になって日韓に向けて短・中距離核ミサイルを見境なく発射する可能性が高いです。

 

イージス艦や地上配備型迎撃ミサイルで、そのすべてを打ち落とす事など不可能です。そうれば、日本の主要都市は核攻撃を受けて壊滅し、膨大な死者が出て日本は再起不能のダメージを受けるでしょう。当然、核の火薬庫「原発」も狙われる事は必至です。

 

最悪のシナリオにならないよう、北朝鮮の後ろに控えている中国の「抑止力」に期待する他はありません。

そもそも日本は戦争が出来る国ではない

「ホットウォー」の方に筆が滑ってしまったので、話を元に戻しましょう。
 

日本は全輸入量の25%以上を中国に依存している国ですが、緊張状態が限界を超えた時点で、中国政府は日本向け輸出を全面停止する事は確実です。 そうなった場合、大打撃を被るのは日本側。膨大な食料や生活必需品が入って来なくなってハイパーインフレが発生し、それだけでも日本人の生活は立ち行かなくなります。

 

太平洋戦争の直前まで日本が重要な戦略物資の大部分をよりによって交戦相手国である米国に依存していたのと全く同じ矛盾した貿易構造。「多くを依存している相手国とわざわざ事を構えてどうするんだ」という昔も今も変わらないバカげた話です。

 

有事になればスーパーやコンビニの食品や生活必需品の棚はあっという間に空になり、大震災やコロナ禍の初期のように食料品や生活物資の醜い買い占めや奪い合いも起きるでしょう。ひと月も経たない内に備蓄のない一般国民は干上がり、食料や生活物資が手に入らなくなって飢えに苦しむ事は目に見えています。

 

 つまり、現代の日本がひとたび戦争状態になれば、すぐさま戦前の日本と同じかもっとひどい状態に陥るという事です。食料事情ひとつとってみても、日本は戦争が出来ない国であり、絶対に戦争をしてはいけない国なのです。

 

太平洋戦争の教訓から何も学ばない百害あって一利なしの「敵基地攻撃能力」(そもそも憲法違反)など狂気の沙汰というか、何の意味もないのです。

 

日本本土をミサイル攻撃する必要なんかありません。「日本に向かう輸送船やタンカーは全て撃沈する!」と威嚇するだけで、日本を崩壊に持っていく事ができるのですから。

平和外交こそが日本の生きる道

以上、見てきたように四方を海に囲まれ、人口が多い無資源国家日本は、防衛費を何倍増やしたところで、それで国民の生活を守る事など到底不可能です。

 

安部元総理や自民党国防族などの好戦派右翼、「対中新冷戦」を仕掛けるバイデンなどの尻馬に乗って近隣国と徒に事を構えたり、敵視したり、挑発したりすることをやめ、「新しい善隣外交」によって近隣国との友好な関係を築いていく事で平和を守っていくしか日本の生きる道はないのです。

 

それが、四方を海に囲まれた無資源国家日本の宿命です。

 

そんなに戦争がやりたいのでしたら、日本の食料・石油・エネルギー自給率100%を達成してからにされては如何でしょうか?