Ψ(さい)のつづり -24ページ目
鈴をつけた
白い犬は
おおかみの子孫
山をかけまわり
へびやカエルや
ネズミを
狩る本能も
しっかり宿し
躍動するが
食べることは
しない
動く獲物に
血が沸き立つのみ
本来は
夜行性だが
すでに長い長い
人間との生活で
それは薄れつつある
しかし
満月の夜には
血が騒ぐ
月に向かって
吠える
遠く
空へ
哀愁漂う
その吠え声は
鎖につながれた
自分を
憐れむのか
ふわふわな
ぬいぐるみ犬が
もてはやされて
ほろびつつある
野性味あふれる
自分の種を
嘆くのか
その一方で
滅びたおおかみを
蘇らせる
背徳を
あざけるのか

はっとするほど
星が美しく瞬く夜
こうもりたちが
何かに
憑かれたように
あちらこちらを
飛びまわる
自由自在に
それでいて
飛びにくそうに
あまり氣持ち良さそうではない
その飛び方をみていたら
大地が揺れる
はじめは感じないくらい
かすかに
だんだんと
大地をノックをするように
大胆に
ヴァンパイアたちは
歓びの
ダンスを踊る
獲物は
そこかしこにいる
少しずつ
長くなり始めた
夜に乾杯

五臓六腑に
力が
みなぎる
前へ
前へ
上へ
上へ
傷ついた
バナナのように
黒くなった
部分は
きれいに
こそげ落として
アシナガバチのように
力を抜いて
抜け目なく
あたりをうかがい
いらないものは
すべて
捨て去り
新世界へ
飛び立つ

さまよい
さすらっていた
何十年も
田舎へあこがれが
自分の中で
美化されすぎて
小さすぎる世界に
絶望もした
大好きだった場所から離れ
大好きになった場所からも離れ
とりたてて
好きでも
嫌いでもない場所に落ち着き
同じ店
同じ道
同じ顔触れ
半径二キロ以内で
一生を過ごす人たちのように
何度も
何度も
反芻した
繰り返すほどに
安心と
安定と
なれ合いに
牛のまだら模様のように
すこしずつ
すこしずつ
染まり始め
心も
身体も
朽ちはじめていた
このまま
飛び上がるほどの幸せもない代わりに
すごく嫌なこともなく
平穏な歳月を
過ごしていくんだろうということを
受け入れるほどに
心が朽ちていくと
身体が
空氣を取り込めなく
なっていった
そのことに
氣づいたとき
自分の心と身体を一番大切にする
と決めた
そんな当たり前のことを
氣付くのにずいぶんと時間がかかった
そのためには
いらないものを
すべて手放す
ひとつひとつ
捨て去る
その作業は
はじめには全く想像できないほど
すさまじく
感情の揺れも伴い
いまだ
続いているけれど
そして
完璧に片付いた
という瞬間は
まだまだ先かもしれないけれど
振り向いたら
もう
あのときの
朽ちかけの
わたしは
いなかった
いまの
わたしは
わたしを
愛していて
そのことに
心が震えるほどの
幸せを感じ
ここに
います
愛と感謝が
おのずと
溢れだし
世界に
ミルクのように
広がっていき
天の川銀河まで
流れて
ひとつになる

いつもは
涸れていて
石ころだらけの
殺風景な川
橋もかかっているけれど
ごつごつ道をものともしない
ジムニーなら
川底まで
下りていける
水はないから
それでも
地下には
雪解け水を
秘めていて
あるとき
じわりじわり
滲み出したかと思うと
次第に
こんこんと
湧き出し
くっきりとした
蛇の尾の川になる
清廉な水は
飛び上がるほど
冷たく
氷のようでいて
そのまま飲めるほど
美しい
もっと
近づきたいけれど
何も寄せ付けない
凛とした
自立


