日本は雑種文化で面白い。 | 井蛙之見(せいあのけん)

井蛙之見(せいあのけん)

毎日、いい音楽を聴いて、好きな本を読み、ロードバイクで戯び
楽しく話し、酒色に耽り(!)、妄想を語り、ぐっすり眠る。
素晴らしきかな人生!
井の中の蛙 大海を知らず 
されど、空の蒼さを知る
(五十路のオッサン、ロードバイクにハマる。)

 

評論家の加藤周一さんは日本文化の特徴を「英仏の文化を純粋種の文化と考える

のに対して、日本の文化を、雑種の文化の典型として考え、しかも、善悪の価値観

から分離したことに特色を持つ雑種文化である」と表現した。

社会学者の鶴見和子さんは日本社会の特徴を「多重構造社会」と説き

「古代から現代に至るまで、日本人が外来の文化を貪欲に取り入れる駆動力となってきた

ものが好奇心である」と喝破した。

 

日本語は、その在り方一つとってみても実に複雑怪奇でいろんな言葉が入り込む。

世界で最も習得の難しい(もうひとつはアラビア語)言語といわれる。

26文字の組み合わせしかない言語に比べ、「漢字の読み方」とか助数詞に特殊な法則が

存在し、文字の異なる文章などあたりまえである。

こんなことは日本人にとってフツーのことだが外国人には奇妙奇天烈に映るだろう。

もっとも、表意文字でありながらデザインとしての「日本語」はフォルムとしても

面白いのかTATOOで文字を肌に刻んでいる外国人も少なくない。

日本語は「仮名、カタカナ、漢字、外来語、口語、文語など」使われる文字だけでも

多種多様であり、違和感なく溶け込む特殊な特徴を持つ。

比較文化論研究者の柳父章さんは日本語における翻訳語・外来語について「カセット効果」

(翻訳において、元の言葉よりも翻訳後の文字などの形式が重視される、という現象)が

強く影響されていると説く。

たとえば、「タウリン1000mg配合」などと書かれているとタウリンが

何かわからなくても「すごい」と意味を強めたりする。

「言霊かっ!」といいたいくらいに不思議な価値がつく。

こういった効果がカセット効果。

 

日本人は「好奇心」からいろいろ取り込み、最初は「モノマネ」から、

あとは徐々に本家とはかけ離れた形で、工夫・加工・魔改造させるのが

得意な不思議な民族である。

しかし、隣国とは違い決して起源は主張せずリスペクトの精神は忘れない。

かつては日本製品は「ただの猿真似」とか「オキュパイト・ジャパン」(粗悪品)と

揶揄された時もあったが元々日本独自のものも少なくなく、平和な江戸時代には「和算」

(「算額」)「からくり」「根付」「浮世絵」「天文学」「人形浄瑠璃」「歌舞伎」

「落語」などが盛んになった。あとは「湯屋」(大衆浴場)だろうか。

「ファックス」「レーダー」などの日本の発明品も少なからずあるがここでは書かない。

古来いろんなルートで海外から文化が流れ込んだ割には民族性が同じアジアでも近隣諸国

とはあまりにも気質が異なるのは実に不思議なところだ。


しかしながら、日本人の文化導入から変化の過程は「変態的」、「パラノイア気質」であり、

外国人から見ればさぞ奇矯なものに映っているのだろうと推察する。

食べ物でいえば「洋食」、「町中華」などもその大きな例である。

日本におけるカレーの流入経路(J&Bのカレー粉)はイギリスからというのが定説だが、確かに、インドのカレーとは

インド人が認めるように全くの別物といっていい。

ラーメンや焼き餃子など確かに戦後、中国とか台湾から日本に移り住んだ中国人発祥のものが多いが

テレビ番組などで陳健民さんや程一彦さんなんかがいろいろと日本人向けに紹介してくださった影響も少なくない。

また、日本のメーカーも「麻婆豆腐」の素など日本人向けにアレンジされたものを発売し馴染みのなかった

台湾の安藤百福さんが「チキンラーメン」を開発してくれたおかげで中華料理がより身近になったというのも大きい。

ラーメンなど元は「鶏ガラしょうゆ」からなのだろうがご存じの通り本国中国にはない独自進化を

次々と遂げたラーメン文化はもはや日本食といってもいい。(もちろんラーメンもカレーも起源の主張はしない)

そして、「中華料理」と言われるものには中国本場では存在しないメニューが少なくない。

「冷やし中華」「焼き餃子」「天津飯」「エビチリ」「中華丼」「ホイコーロー」などはないそうだ。

(中国では餃子は水餃子が一般的。このほかにもあるかもしれない)

そしておそらく「町中華」(ローカル)でしかないものとしては「チキンライス」、

「かつ丼」(中華風)、「からしそば」(京都)、「台湾ラーメン」(名古屋)といったものがある。

賄いから生まれたものやら、客のリクエストやら、起源はまちまちだが「これ以外はない」といった

縛りや括りが日本人にはないので、こういう摩訶不思議なものが愉しめる。

そういえば、「カツカレー」、「トルコライス」、「ナポリタンスパゲティ」、「たらこスパゲティ」、

「コロッケそば」、「カレーうどん」といったものや、「カレーパン」、「アンパン」、「クリームパン」といった

総菜パンも魔改造好きの日本人の成果といえる。

また、「B級グルメ」というジャンルもあり、「飛び道具」のような食べ物が各地にある。

一例をあげれば、青森県青森市の「味噌カレー牛乳ラーメン」など、もうなんでもありといったものもある。

文化面すべてにおいてちゃらんぽらんというかいい加減というか特に善悪とか宗教観などがあっけらかんとして

ごちゃまぜで、そのあたりの、タブーとかこだわりがない点はいい意味で日本人の美徳なのだろうか。

さらに、何かテキトーに理由をつけてイベント化するのも好きである。

「恵方巻」(元は大阪の色街発祥のイベント)なり「ハロウィン」(今やただの仮装イベント)なり、「クリスマス」(日本ではなぜかチキンを食べる)など換骨奪胎というか魔改造しまくりである。

 

「この味がいいねと君が言ったから七月六日はサラダ記念日」(俵 万智)

もうどうにでもしやがれ。

 

イタリアではまだケチャップを使うことに抵抗があるようだが、

フランスでは料理人が「何か新しい調味料はないか」と実に貪欲な様子だそうだ。

ラテン系はともかく、保守的なアングロサクソンのイギリスで「日本のカツカレー」

とか「ラーメン」が流行っているというのは感慨深い。

それでも、ヨーロッパはまだまだ伝統を重んじる勢力と変化を好む勢力が混在する。

かつて日本人はフランスに対して異常なあこがれがあった(パリ症候群)ようだが

今やあのウルトラナショナリズムの国 フランスが日本に憧れるという現象が起きているそうだ。

さらに、フランスは伝統を重んじる国なので他国の文化に興味があるというのは意外ではある。

 

世界はもうインターネットやスマートフォンのおかげで地球村といった体で

「望む情報」はいつでもタイムラグなく全世界を駆け巡る。

躊躇なく取り入れるかどうかは別として結構新しいものをみなさん楽しんでいるようだ。

現在、日本は外国人観光客であふれているようだが、もうタブーや

縛りなどなくなったのだろうか?

すぐに受け入れるかどうかは別として、どんどん文化の垣根が失われていく。

いずれにしても、「新しいこと」「面白いこと」には事欠かない。

私は「いい時代」そして「日本に生まれたこと」に感謝する。

重箱の隅をつついて「日本下げ」に余念のない方はどうぞご自由に。

 

「わしはエヴァンゲリオンかいっ!」