【柔道部物語:泣かないで】
舘ひろしさんの「泣かないで」という曲が大ヒットしていた昭和の終わりごろのお話です。
我々の大学には、夜間部に短期大学があり、希望者は、卒業時に試験を受けて全日制(4年制)に編入出来る制度があります。
2年下の後輩に、体育推薦ではなく一般入試で夜間部に入学し、柔道部に入部してきた物好きな学生がおりました。(わざわざ自分から苦労する事は、無いと思うのですが)
軽量級で柔道の方も目立って強くいはありませんが、まじめに稽古に励んでいる後輩でした。
ある日、夕食後にトイレに行く為、廊下にでると、とある部屋の入り口に数人の後輩が何やら集まっていました。
何をしているのかと思い一緒に覗いてみると、夜間部の後輩が、うつぶせでヘッドホンを大音量にして、「泣かないで」を聴きながら、感情をこめて大声で歌っていました。
ヘッドホンの音量が大きかったせいか、自分の声の大きさに気が付かず、酔いしれている様子を数人の後輩と一緒に眺めていると、よほど気も良かったのか、引き続き数回もリピートし自分の歌に酔いしれておりました。
ようやく歌い終わり満足した様で、ヘッドホンを取り振り返ると、入り口から覗いている数人の顔を確認し、酸欠の鯉のように口をパクパクさせて、パニック状態に陥っていました。
同時に大爆笑が起こり、廊下で悶絶する者や涙を流しながら笑い転げ、大騒ぎになり、他の部屋からも同級生や後輩が廊下に出てきて、大騒ぎになってしまいました。
その日から、彼は、「泣かないで君」という名誉ある名前が付けられる事となりました。
そんな彼も、卒業後は、県警に就職し、努力してノンキャリアながら警察署長迄出世しました。
ある日、キャプテンをしていた、自分の同級生が警視庁の機動隊に進み、柔道の試合の時に、偶然、後輩であった「泣かないで君」を見かけ、懐かしく思い、声をかけた所、お付きの人から「気軽に話しかけないよう」に注意され、後輩に話しかけただけなのに、怒られたと激怒しておりました。
警察社会の階級制度は、とても厳しいと感じました。