韓国「ベルばら」を見ました。元々、去年の12月の開幕予定が7月に延期。ただ、配役表にアントワネットとフェルゼンがいないし、公開された初日映像のオスカルが私には今一で、興味の焦点だった脚本も何となく分かり、一気に観劇意欲が落ちていたのですが、
偶然、家族で応援しているBAPという歌ウマのK-POPグループの復活ライブが決まり、急遽、夏休みを兼ねて訪韓する事になり、折角なので観劇しました。感想は、まさか最後に感動して大泣きさせられるとは、でした。録画で良いので日本での放送を願いたいです。
※ここから激しくネタばれします。
物語の大雑把な流れは、プロローグでオスカル誕生から近衛隊長就任までがアンドレの狂言回しで描かれ、ロザリーが身を売ろうとしたところをオスカルらに助けられ、アンドレと町へ出たオスカルは市民の窮状を知り、ベルナールが市民を扇動する大合唱で幕間へ。
二幕は貴族達がオペラ鑑賞に興ずる場面から始まり、ポリニャックとロザリーとシャルロットの母子物、オスカルとジャルジェ将軍の父子物、転属したオスカルと衛兵隊の話などが描かれ、毒入りワイン、バスティーユ、そして、オスカルの最期で終幕。
原作通りと創作されたところがあり、一幕二幕、それぞれ約一時間づつ。やはり、あの膨大な原作を舞台化するのは至難の技だと思いました。因みにアントワネットとフェルゼンは王室場面で時々無言で佇むそれらしき人がいました。完全な飾り人形扱いでした💦。
見所は豪華な舞台美術と音楽。特に韓ミュー界の第一人者ブランドンリーさん作曲の叙情的で力強い楽曲の数々を強靭な喉を持つ韓国俳優陣が歌い上げる光景は圧巻。胸にずんと来る歌唱場面が多く迫力ありました。ただダンスは無く、バスティーユも合唱でしたが、私は岡先生の振付が感動的な宝塚版のほうが好きだと思いました。
全体的な印象は硬派な革命劇。悪役の中枢はポリニャックとドゲメネ公爵。「文句があればベルサイユへいらっしゃい」は勿論の事、ドゲメネ公爵が子役の少年を背後から射殺する件もあり残酷で可哀想でした。ポリニャックは大曲の独唱が二曲もあり、親の仇は生みの母でしたのプロットも韓国人には人気で、結構な大役でした。
対する市民の代表はベルナール。役が大きく膨み(配役ボードの写真も大きい)、幼少時に貴族に捨てられた母親とセーヌ川へ飛び込んだという話が新設され、上等な服を着て💦市民を率いて歌う姿はまるで「1789」のデムーランや「レミゼ」のアンジョルラスでした。韓国は特権階級への憎しみに共感する観客が多いみたいです。
ただ、ここまで革命劇の色合いが濃くなるとアントワネットとフェルゼンどころか、貴族と市民の間でふらつくオスカルさえも要らない感じで、原作の主役四名を描いてこそ「ベルばら」だと思う私は、原作の本質が韓国製作陣には理解されてなく、これじゃ「ベルばら」ではないと、冷めた視線で俯瞰していたのですが、
この窮地?を終演ぎりぎり20分前に救ってくれたのがアンドレでした。先ず、毒入りワインの場面。オスカルとジェローデルとの結婚話を聞いた彼は原作と異なりオスカルとの心中ではなく自分だけ去ろうとしました。この時の音楽も切なく、この日のアンドレ役者の歌も劇的で、あまりの哀しさに込み上げる涙を抑え切れずでした。
そして終幕。勿論、ガラスの馬車は迎えに来ないとは思っていましたが、バスティーユの陥落を見届けて絶命したオスカルを何と前日の戦いで先に旅立ったアンドレが迎えに来たのです。最後の最後でまさかの恋愛譚に帰結して思わず私は号泣してしまいました。この舞台は今宵一夜もなかったので結ばれて本当に良かったです。
オスカルはキムジウ、アンドレはイヘジュン、ベルナールはソヨンテグ、ポリニャックはリサ、ロザリーはチャンヘリン、ジェローデルはソンジェリム。全員が見事な歌唱力で、圧巻の声量と音域でした。
オスカルのキムジウさんは力演で現地での評判も良く、経歴を見ると「ムーラン・ルージュ」のサティーンもされて歌は本当に素晴らしかったのですが、演出された演技がずっと私には苛立っているように感じられて、更にほぼ185センチを超える長身の男優に囲まれると、どうして小柄に見えて、オスカルには距離を感じました。
オスカルはドレス姿が二回あり、黒い騎士を誘い出すためと父親の意向で婚活のため。泥酔もあり、それは貴族社会への疑問のため。それぞれ本当はフェルゼンのためなのに💦でした。
対するアンドレ、ベルナール、ジェローデルが予想以上のカッコ良さ。ジェローデルも宣材写真と違って短髪の男前でした。これだけのルックスと歌唱力を備えた人材が潤沢な韓ミュ界が改めて羨ましく思えました。
但し、アンサンブルを含めて軍服を着こなせてない役者が多く、そして、普通の女優が男装の麗人をする難しさも痛感、改めてタカラジェンヌの偉大さも身に沁みたのでした。また、機会があれば、再見したいです。