3月19日 「物語」

前回のブログの続きです。
まだ読んでいない方が居ましたら、お手数ですが、そちらを先に読んで頂いた方が分かりやすいと思います。


『5.5』という本の話についてです。
前回の話は、思わぬ形で王との決着がつき、どちらかが勝つという訳もなく、”新世界”は終わりを告げました。

王の”新世界を起こす”という気持ちは無くなりましたが、王との死闘を繰り広げていた事により、世界は壊れかけていました。なので、新世界は”ほぼ起きていた”んです。

この”新世界”というものは、新しい時代への移り変わりを指します。
マリサ達は、この長い戦いを経て、”新世界”への正しい向き合い方は、力で防ごうとするものでは無いことに気付きます。

つまり、新世界を”止める”ことは不可能なんです。
この世界で起きる”新世界”は、私達の住む地球でいう”嵐が来ること”と似たようなものなのです。
嵐と力で戦ったところで、嵐を止めることなんで出来ませんよね。
安全な場所に移り、嵐が過ぎ去るのを待つのが一番安心です。

マリサ達は、”新世界”は、止めるものではなく、”受け入れる”事が大切なんだと気付きました。

一見、この本を読んでいると、”新世界”は、世界を滅亡に追い込んでしまう恐ろしいものと感じ取れてしまいます。
ですが、それは次の時代の為の準備である”新世界”を拒否した結果にすぎないんです。

時間が存在する限り、時代が不変であり続けることは絶対にありません。
時代が進むことは必然的であり、その為に一度その世界が解体することもまた必要なことなんです。


『新世界を受け入れ、次の時代へと進む。』


それがこの本の第一章の話でした。


第二章では、主人公のアカリよりも、マリサをメインに話が進んでいきます。


新世界が終わり、また平和な日常を歩んでいたマリサやルミ達。

ですが、マリサの心だけは、まだこの本の第一章の話に置いてかれたままでした。

姉の事が忘れられない。リンとアカリの双子の姉という存在にまた会いたい。
今此処にある平和な日常の中で足りないもの。
それは新世界の起きる前にあった日常を共に過ごしてきた姉達の存在でした。

王と戦うときに一緒に参戦してくれたルミや、マリサの友人達は、今の平和な日常を受け入れ、日々を歩んでいました。

ですが、マリサだけは中々今の日常と向き合えません。
そして、最終的に彼女は”選択の魔女”と呼ばれる少女の元へ行くのです。
選択の魔女の名を持つ少女の本当の名前は、幡野 彩(はたの あや)。
彩の能力は、”いつどこでも、相手に選択肢を与えられる”というものです。
どんな状況だろうと、それらを一変させられる力を持った少女。

マリサは彩に、姉に会う選択肢を作って欲しいと願います。

彩は、最初彼女の願いを拒否します。
マリサがそれをして後悔するのではないかと思ったからです。
ですが、マリサはそれも承知の上。
今此処で、姉に会う選択をしなかったところで後悔する。どちらを選んでも後悔するなら、もう二度と会えない姉に会った方がいい。

何度も何度も彩にお願いし続けたマリサ。

最後は彩もそれを承諾しました。

”姉にもう一度会える”  ”姉にはもう会えない”

彩は、この二つの選択肢を彼女に用意しました。

勿論マリサが選んだのは前者。

ですが、そんな簡単に会えるわけではありません。彩の能力は確かなものですが、その為の代償や仮定を操ることや無視することは出来ません。

姉にもう一度会うための方法。
それは、死んでしまった姉が何処かの誰かに生まれ変わったことを前提に、その生まれ変わりをした姉に会いに行くという方法でした。

生まれ変わりと言えば輪廻転生ですよね。
そうなんです。私達のよく知る地球にある仏教を元にした考えなんです。

マリサ達の居る世界に仏教はありませんが、地球という星が存在することはマリサ達も知っていました。
その地球の文明に頼り、”姉が地球の人間の誰かに生まれ変わって生きているかもしれない”という可能性に掛け、彩はマリサを地球に現界させるという形で姉と会わせる選択を作ります。

ですが、何処にあるかも移動手段も分からない地球にマリサを生身で現界させることなんて出来ません。
なので、彩はマリサに今此処で生きる自分という体を捨て、これから地球に生まれる人間の一人をマリサの魂に塗り替える方法を取ることにします。
普通ならそんなこと出来ませんが、相手の選択した未来を作ることは、彼女の能力の一つですから、そんなことも出来るんです。


マリサは、この世界の地を離れるとき、周りにいる友人や、妹のルミにその選択をすることを告げてから立ち去ります。

彼女を全力で止める人は居ませんでした。
ですが、本当は地球に行って欲しくない。
それが彼女の周りにいる仲間達の本音でした。

彩の能力は、作中でもかなり凄いものですが、その為の代償は、はかりしれません。
マリサが此処で自身の体を捨て地球に行ってしまうということは、もう二度とマリサはその仲間達とは会えないということです。

死ぬわけではないですが、会えないという事実は仲間達にとっては勿論辛いことでした。

それを承知の上でその選択をしたマリサだと分かっていたからこそ、止めませんでした。


彩の能力に頼り、マリサは姉に会うことを決意します。

そのとき、彩がマリサの願いを叶えるときに出した条件があります。
”姉に会うための代償や仮定を自由に決めることは出来ないこと”
”双子の姉の片方にしか会えないこと。また、そのどちらに会いたいかの希望はきけないこと”
”一度選択したら、その帳消しは出来ないこと”

この三つの条件を呑んだマリサは、彩の能力によって、生まれ変わった姉に会いに行きます。




マリサの新しい体として利用されたのは、地球に生まれる筈だった少女、外蝶 鞠八 (とちょう まりや)でした。

彩がこの少女をマリサの体として適任と判断したのには理由がありました。
それは今、鞠八の両親達の住んでいる家が、地球の一人の人間として、生まれ変わったマリサの姉であるアカリの住んでいた家だったからです。

アカリの”住んでいた”家。
お察しの方も居るかもしれませんが、生まれ変わったアカリはもう既に死んでいました。
生まれ変わった後の人生すら終えていたのです。

アカリは生まれ変わった後、彼女の人生は思うようにいきませんでした。
つまり、最後の死ぬときまで自分の人生に満足していなかったのです。
本の中で、第二のアカリの人生がどんなものだったか、詳しくは記載されてませんでしたが、アカリが自分の人生に最後まで胸を張れなかったことは分かりました。

自分の生涯に満足出来なかったアカリは死んだ後も、魂が地球に留まったままでした。
多分これは、亡霊みたいなものだと思います。

その亡霊と化したアカリが留まってた場所。それが、アカリが前に住んでいた家。つまり、今鞠八の両親達が住んでいる家なんです。
だから、彩はその両親の元に生まれる鞠八という少女の魂をマリサに塗り替えたのでした。

鞠八として生まれた少女は、マリサとしてではなく、鞠八として生きていました。
鞠八として生まれたその日から、マリサは、生前の”マリサ”という自分の記憶を持ったまま生まれることは出来ませんでした。

つまり、姉に会うという目的すら覚えていない状態でアカリに会うことになります。

アカリと再会したのは、鞠八が五歳の時でした。
再会と言っても、鞠八は自分がマリサであったことを忘れているので、気持ち的には初対面という形で会うことになります。

肉体の無いアカリを鞠八が見ることが出来たのは、彩が自身の力で、鞠八がそうできるようにしたからです。

アカリは鞠八がマリサであることに最初は気付きません。
鞠八はまだ五歳なので、家に突然アカリが現れたことを疑問に思うことなく仲良く接していました。

そんなとき、開いていた家の窓から花弁が舞い込んできました。その花は桜に似ていますが実は違う種類の花。
”藤乃彩万花”(ふじのあやばんか)と呼ばれる花です。
そしてこの花、マリサ達の居た世界にしか無い花なんです。

その時、鞠八はまだ桜という花があることすら知りませんでした。
なので、感覚的に呟いたのです。

「藤乃彩万花だ…」

その言葉でアカリは気付きます。
この子はマリサなのではないかと。
そんなこと無いって分かっていても、一度そう思ったらマリサ以外には見えませんでした。

まだ幼い鞠八は、生前のマリサの雰囲気にとても似ていました。

だから、アカリは理解しました。

自分の妹はこんな遠い所まで会いに来てくれたのだと。
アカリはずっと寂しかったのです。
自分のした過去の選択を責めているわけではありませんでしたが、自分の選んだ未来に妹達が居ないことに。

本当はまた皆に会いたかった。
会いたいと願って、生きている間それはずっと叶えられなくて、辛くて人生に満足出来なかった。
つまり、アカリの心もまたマリサと同じように、この本の第一章の話に置いていかれたままだったんです。

だから、アカリはマリサを抱き締め「ありがとう」と言いました。
何も理解できていない鞠八でしたが、その時、鞠八はアカリの行動に笑みを溢しました。


その後は五歳の鞠八と積み木をして遊んだり、お喋りしたりしてその時間を楽しみました。


妹とまた再会できた。その出来事がアカリにとっては生まれ変わって生きていた人生よりもよっぽど幸せを感じさせました。
叶う筈の無かった願望が叶ったとき、アカリは亡霊で居る必要も無くなりました。


そして、鞠八にしか見えないアカリは、この先も亡霊の状態で鞠八の前に居ることは出来ないと判断しました。
どうしても地球に居ることが出来なくなったとき、アカリはその日のその時間きりで、鞠八と直接会うことは無くなります。


ここで第二章の話は終わりかと思いきや、本当の話はこれからでした。

この本は、マリサがアカリと再会して終わりを迎えるわけではありません。


一つ問題があったのです。

それは鞠八の家庭環境でした。
鞠八の父親は仕事の日が多く、中々鞠八と顔合わせすることが出来なく、母親だけが鞠八の面倒を見ることが多くありました。

ですが、鞠八の母親は体が弱く、鞠八を産んだ後、ストレスと疲れで酷い鬱病を発症していたのです。

そして、もう一つ。
鞠八は、他の子供より若干発達能力が低く、母親はそれを酷く心配していました。

命令をしても言うことを聞かない。
同じ間違いを何度もする。
他の子よりもあまり頭が良くない。

要領も悪く、出来損ないの彼女を母親は正そうとしました。

心配性の母親は、鞠八の行動一つ一つが間違っていると思い、気に入りませんでした。

鞠八の母親は、鞠八の事を好いてはいましたが、彼女への態度は酷いものばかりでした。

言うことを聞かない鞠八に虫酸が走り、時には手をあげることもありました。


そんな母親の鞠八への態度を見たアカリは、このままではいけないと思いました。

ですが、鞠八が五歳の時アカリと再会できたあの日以降、鞠八はアカリの事を見ることが出来ませんでした。

一度再会し、これからも姉と一緒に居られるという保証を彩はしていなかったからです。

そして、彩はアカリの前に姿を現します。

そもそも、鞠八がアカリと出会った時、アカリが彼女をマリサと認識するきっかけとなった、あの花は彩が用意したものでした。

その事実と、マリサが自身の体を捨ててまで、この地球に居たアカリに会いに来たという真実を彩から教えて貰った時、アカリは決心しました。

そこまでしてくれた妹の心を支えたい。

鞠八の家庭環境は、劣悪という程のものではありませんでしたが、少なくとも鞠八が母親の行動に傷ついていることはアカリも知っていました。

アカリは彩に頼みました。

自分にも選択肢が欲しいと。

マリサと一緒に居られる選択肢。
そして、これから先の未来でどんな方法でもいいからまた姉妹皆で一緒に居られる未来が欲しい。
だから、その選択をさせて欲しいと彩に頼みました。

彩は、最初からこうなると分かっていたような素振りでアカリの頼みを承知しました。

既に彩は、その選択が出来るようにしていたようでアカリに選択肢を与えました。

一つ目の選択
”マリサとこれからも一緒にいられる”
”マリサとはもう一緒に居られない”

二つ目の選択
”姉妹の皆で一緒に居られる”
”姉妹の皆とはもう一緒に居られない”

二つの選択問題を出し、アカリは答えを決めました。





鞠八はいつの日か、精神世界に居ることが多くなりました。
精神世界とは、心の中の世界のことです。
現実から離れ、静かに精神世界で過ごす。
まだ幼かった鞠八は想像力が大人よりもあったからか、精神世界は精密に作られていました。

その精神世界は、鞠八にとっては居心地が良く、誰にも邪魔されない空間だったのです。


そんな時、鞠八の精神世界に来訪者が来ました。

R(アール)と名乗る少女です。
鞠八は最初、自分しか居ない筈の精神世界に他人が現れた事に恐怖しました。

ですが、Rは鞠八に危害を加えることなく、何なら現実で生きている時の鞠八の手助けをしてくれたりしました。

母親から言われた暴言に落ち込んでいるとき、上手く物事を進められないとき、母親に殴られたとき、いつだってそれらに落ち込んでいた鞠八をRは励まし、鞠八からの相談にのりました。

いつの日か、Rは鞠八にとってかけがえのない存在になっていたのです。

嬉しいことがあったとき、いつも自分のことのように喜んでくれるRを信頼していました。


このRは、鞠八の精神世界でずっと彼女のことを支えていました。



そんな鞠八が十歳の頃、彼女はある夢を見ました。

起きたとき、夢の内容ははっきりと覚えていませんでしたが、彼女はポツリとこう言いました。

「…何だか…青かったな…」


最初読んでいた時は、鞠八が何でそんなことを言ったのか、意味が分かりませんでしたが、後にその意味が分かるようになります。


その夢を見た後も、何か現実で変化が起きるというわけでもなく、鞠八は普段と同じような日々を送っていました。

現実では母親とはあまりそりが合いませんでしたが、友人には恵まれ、精神世界ではRが支えてくれる。

そんな日常が鞠八にとっては当たり前でした。


いずれ時が経ち、鞠八は中学生になりました。

中学生になった時、一つ変化がありました。

それは、鞠八があまり精神世界に干渉しなくなっていったことです。

つまり、Rと一緒に居ることも少なくなりました。

そして、もう一つ。

鞠八は徐々に自分ではない誰かの記憶と向き合いはじめていきます。

もう分かっている人も多いと思いますが、その”誰か”はマリサのことです。

マリサの記憶は持たずに生まれてきた筈の鞠八がどうしてそれを思い出せるようになっていったのか。

それは過去に彩の出した選択肢に答えたアカリの選択が影響しているからです。


マリサの記憶を思い出したのは、鞠八が十歳の時。

当初はあまり理解できず、少し苦しんでいた鞠八でしたが、中学生になり段々と理解できるようになっていきました。

ですが、全ての記憶を思い出せている訳ではない鞠八にはまだ謎な事が多いと感じていました。


そして時が経ち、鞠八が十四歳の時、彼女は学校に行けなくなってしまいます。

不登校と聞くと聞こえは悪いですが、鞠八にとってその学校に行けなかった時の時間は、無駄だとは思っていませんでした。

不登校になった理由は単純でした。
学校に行きたくなかったからです。

ですが、この話で重要なのはそこじゃありませんでした。

鞠八は、学校に行けなかった時期に、家では、はぐらかし続けてきた自分と向き合うことを決意しました。

過去に思い出した記憶や、今抱えている悩み。
自分という存在が一体何なのか。

彼女は葛藤しながらも前に進んでいたのです。


中学三年生になる頃には学校に通うことを決意していたので、それまでに出来ることをやりたかったのです。

いつか、未来の自分が、不登校だった時期にしていたことを無駄ではなかったと言えるように。

鞠八は自分の悩みを解決出来るように努力していったのです。

鞠八の悩みは、やはり家庭のことでした。

鞠八は、母親のことが若干トラウマになっていました。

母親に嫌われていると思っている鞠八は、自分で自分を好きになることすら出来ませんでした。

ですが、悩みと向き合っていくうちに鞠八は自分の今持っている価値観をどんどん変えていきます。


誰かに認められることよりも、自分で自分を認めていればそれでいいと思うようになります。

そして、自分のことが嫌いだった鞠八は、毎日のように自分に対して悪口を言っていました。

ですが気付きました。

自分に対して”嫌い”と言えば言うほど、いつも涙が出るのです。

その言葉で自分が傷ついていることを、その時まで鞠八は気付いていなかったのです。

簡単なことでした。

自分と上手くコミュニケーションをとることが、こんなにも大事なことだと気付くのに、鞠八は十四年も掛かってしまったのです。

ですが、それに気付いた鞠八は変わっていきました。

いつも自分を蔑ろにしていた鞠八が自分の為に行動するようになります。

そうしていくうちに、鞠八は過去に居たマリサという存在と近い存在になっていきます。

自身がマリサであると確かめるという以前に、鞠八はいつの間にか自分のことを心の中で”マリサ”と呼んでいました。

この本を読んでいた私も、このシーンから鞠八が確実に強くなっているのを感じ取れました。

そして、鞠八はまた少しずつ精神世界に干渉していくようになります。
ですが、前に居たような精神世界とは違っていました。

十四歳の時の精神世界ですから、過去に居た精神世界とは別の場所なんです。
ですが、精神世界ということは変わりません。
心の中の世界ですから、その事実は変わりませんが、Rと居たときの場所ではないのです。

時間というものは一定で、全て今の連続でしかありません。
過去を体験したという事実は、今自分が頭の中で想像しただけなので、過去を体験することは不可能に近いのです。

ですが、この本の話では、それらの事実を応用した上で、この世界のルールに近いであろうその存在を、ある意味壊していきます。

鞠八はある日、精神世界の中で、過去に行きました。
この時の”過去”というのは、精神世界内の話です。

精神世界とは、ある意味無限の力を表しています。想像するだけで変えられる世界。思考するだけで読み解ける世界。だけど、それが答えかどうかは確かめらない世界。

だから、鞠八は想像しました。
自分が落ち込んでいた時の過去の自分。
母親に自分の存在を否定されて、精神世界の中で苦しんでいた時の自分。


そして、過去の精神世界に行った鞠八は、精神世界の中で過去の鞠八と会うことになります。

鞠八は過去の自分に、今自分が言えることを伝えました。

その時、微かにですが、過去の鞠八は元気を出しました。

今の自分の伝えられる言葉で、励ますことが出来たのならば、鞠八はそれ以上に嬉しいことはありませんでした。


鞠八は、過去の精神世界から今の精神世界に帰った後に気が付きます。

それは、自分が過去に苦しんでいた時、精神世界で、普段一緒に居た訳ではない誰かが一回だけ自分の前に現れ、励ましてくれたことを。

それが未来の、つまり今の鞠八だったことに気付きました。

この時、この本の物語の中で証明されたのは、精神世界の中では時間に順番は無く、今しかないということですね。



不登校の時期が終わり、鞠八は中学三年生なってまた学校に通うようになります。

ですが、学校に通うようなって少し時間がたった頃、鞠八に悲しい出来事が起こります。

それは兄の死でした。

いや、鞠八にお兄さん居たんだという意見は多少なりともあると思いますが、この本は順を追って読んでいくと、作中に何回かお兄さんが登場していたので、鞠八に兄が居たことは最初から分かるようになっていました。


家族全員が鞠八の兄の死を悲しんでいました。

鞠八も兄のことは好きだったので、とても悲しみました。

前の鞠八だったら、この時点で心が折れていたと思います。

ですが、今回は違いました。

勿論辛かったという事実はありましたが、鞠八は兄との思い出を大切にし、彼のためにも、この先の自分の人生を大切にしていこうと思うようになります。

分かってはいましたが、人間はいつどこで死ぬか分かりません。

鞠八は兄の死を見て、それを再度理解しました。

どうせいつか死ぬ。

その死はいつ来るか分からない。

なら、その死が来るまでに後悔するような人生は送りたくない。


そして、鞠八はもっと自分と向き合うようになっていきます。



兄が亡くなって、二週間程たった頃、鞠八はふと疑問に思うことがありました。


昔、自分がよく居たあの場所は何だったのだろう、と。

”あの場所”というのは、”過去の精神世界”のことです。

鞠八は、試しにネットで調べてみました。

精神世界について調べていくうちに、鞠八は精神世界に、自分とは違う存在が居たことを疑問に思うようになっていきました。

この時期は、鞠八はあまり精神世界に干渉していなかったので、昔起こった精神世界での出来事をあまり覚えていませんでした。なので、過去にあった精神世界については、ほとんどうろ覚えのまま調べていました。

そんな時、鞠八はとあるブログを見つけます。

そのブログは、イマジナリーフレンドについて記載されていました。


イマジナリーフレンドとは、想像上の仲間のことを指します。

鞠八は、イマジナリーフレンドという言葉をあまり好いてはいませんでした。

何故なら、イマジナリーフレンドは、想像上の存在でしか無く、実際に存在するわけではないと、断言されることが多いからです。

鞠八もそれを理解していました。

鞠八は、過去に精神世界に居た自分とは違う存在を好いていました。
また、それがイマジナリーフレンドに限りなく似た存在であることも自覚していました。

だからこそ、”本当は居ない”という事実を断言されたくなかったのです。


だから、それらのブログは見ないようにしていました。ですが、この時に鞠八が読んだブログはイマジナリーフレンドを否定するような内容ではありませんでした。


むしろ、イマジナリーフレンドは保持者にとって『特別な存在』だと教えてくれたのです。

その時、鞠八は、うろ覚えだった精神世界に居た頃の自分とほぼ忘れかけていたRという存在を思い出しました。


『特別な存在』。その言葉を聞いて、思い付く人は彼女だったと。それを今更ながらに思い出してしまったのです。


そして、鞠八はまた過去の精神世界に行くことになります。

過去の精神世界は、海のある場所でリゾート地に近いような場所でした。


そんな過去の精神世界で鞠八は過去に居たRを探しに来ました。

どんどん忘れていたRの情報を思い出しながら、必死にRを探しました。

そして、暫くした頃、鞠八は不気味なお面を被った少女が浜辺に立っているのを見つけます。

その不気味なお面には見覚えがあります。
それはRの服装だったからです。


やっと会えたRに鞠八は駆け寄ります。

鞠八は、Rに無言で抱きつきに行きました。
最初はRも突然のことで、びっくりしていました。
ですが、その次の瞬間、Rは今までずっと外さなかったお面をゆっくり外しました。
昔から頑なにそれを外さなかった彼女は、鞠八にとって初めてRの素顔を見ることになります。

お面を外した少女はアカリでした。

ですが、鞠八はその事実を何となく予想していたのです。

少しずつ思い出していた記憶の中で予想していた答えは合っていました。

そして、鞠八はRに問いました。

「一緒に来てって言ったら…どうする…?」

Rがそれに答える前に、ある少女が現れます。
それは過去の鞠八でした。
それも、前に鞠八が過去にいって励ました少女である鞠八でした。

過去の鞠八は、自分を前に励ましてくれた人がまた来てくれたと思い、喜びました。
もう一度会いたいと思っていたからです。

ですが、Rに会いに来た鞠八は、素直に喜ぶことは出来ませんでした。


そして、鞠八は過去の鞠八と二人で話したいといい、Rに席を外して貰います。

過去の鞠八と話した場所はリゾート地にあるカフェでした。

カフェで暫く黙りこんでいた今の鞠八でしたが、鞠八は過去の鞠八にどうしても言わなきゃいけないことを伝えます。

ですが、それは絶対に伝えなきゃいけないことではありません。

けれど、それをもし問わなかったら鞠八はもう二度とRには会えない。

過去の精神世界に行けたとしてもずっといることは不可能だからです。

例え精神世界の中だったとしても、過去の思い出を今の鞠八が干渉することによって変えることは鞠八の望むことではないからです。

そもそも、過去の精神世界に行けることは希だったので、ずっとそこにとどまり続けることも不可能に近かったのですが。


そして、鞠八は過去の自分に問います。
そして、相手の答えも分かっていました。


「ねぇ…私の特別な存在と貴方の特別な存在が一緒だったとしたら…さ…」

簡単に問いかけることが出来なかった鞠八でしたが、最後は問いかけます。

「もし、もしもね…私が貴方の特別な存在を…!……欲しいって言ったらどうする…?」


「あげる」


過去の鞠八は即答でした。

それと同時に此処に来た鞠八もその返事で返されることを分かっていました。

何故なら、今の状況と此処は、大分前に自分が夢で見た内容と同じだったからです。


少し遡りますが、鞠八は十歳の時に”何だか青い夢を見た”と言っていましたよね。

それはこの精神世界にある海が真っ青だったのが印象的だったからです。

そして、時間が経ち、此処へ来た鞠八は徐々に前に夢で見た自分が体験した場所だと思い出し始めていました。

つまり、今目の前にいる過去の鞠八は、自分が過去に夢に見た自分自身だったのです。


少し話が変わりますが、この本では”可能性”についての話が度々出てきます。

アカリが前に鞠八(マリサ)と再会した後、彩からの選択に答えましたよね。

この時の選択によってこの本の世界では、可能性が実際に存在することを既に仮定した上で、物語が進みます。つまり、此処では、自分の可能性の限り、その可能性によって生み出された他の世界線が実際に存在することを前提に話が進んでいくということです。

つまり、過去の鞠八という事実は同じですが、全く同じ自分自身では無いということです。

幾千もの世界線が広がっているので、自分とは限りなく近い世界線だったとしても、全く同じ世界線が存在することはありません。

今過去の精神世界に来ている鞠八と、そこにいた鞠八もどこか違うところが必ず存在するということです。

ですが、その違いはとても小さいものです。

例えば、髪の毛の本数が一本だけ違う世界という事もあり得ます。

”その一本だけ違うかもしれない”という事実が可能性です。

そんな小さな相違点でも、その世界線が別の世界を示す証明になります。



鞠八は、過去に夢に見たとき、未来の自分から特別な存在を欲しいと言われました。

その特別な存在とはRのことです。

そこでRを未来の、正確にいうと時間が進んでいる別の世界線の自分にあげると答えました。

その答えが現実になり、その時に鞠八と一緒に居たRは未来のその世界線で生きることになりました。

だから、今Rは鞠八の側に居ないんです。

その夢を見たその日から、本当はRは鞠八の側に居なかったんです。

過去にその夢を見たその日から、鞠八はRを幻覚に近い存在として見ていました。

それは、彩が仕組んだことです。

Rが側に居たときは、現実で辛いことがあっても支えてくれる仲間が精神世界に居たので、あまり気にやまずに生きてこれました。

ですが、Rが居なくなってからは、いつも側に居てくれた仲間が居なくなったということなので、例え幻覚として認識していたとしても、少しずつメンタルが脆くなっていきました。

だから、鞠八は中学生の頃、不登校になったりしていたのです。

その事実は、鞠八にとっては辛い日々でもありました。

此処では書いていませんが、作中、鞠八は家出をしたり、若干病気を疑われるシーンもありました。

その日々は、確かに読者の私から見ても辛いものであったことは間違いないでしょう。

だからこそ、今此処で鞠八が過去の鞠八に問いかけている事。それ事態が、それらの引き金となって起きていることは間違いないのです。

もう少し分かりやすく言うと、Rを欲しいと言われなければ、過去の自分はRをあげることも無かったので、そこまでメンタルが傷つくことも無かったかもしれない、ということです。

だけど、過去に鞠八は、他の世界線の鞠八からRを欲しいと言われたので、彼女を挙げてしまいました。

だから、Rは今自分の側に居ないのです。

でも、ここでもし、Rを欲しいと言わなければ、もうRと一緒にいることは出来ないんです。

つまり、姉であるアカリと一緒に居ることは一生出来なくなります。

その選択を迫られたとき、鞠八が、いやマリサが選ぶ方は、アカリを譲って欲しいという選択でした。

確かに、今問いかける側の鞠八はこれからアカリと一緒に居られるので、幸せです。
ですが、あげると答える方は、過去に夢に見たときから次に自分がその選択を迫られる時まで、人生は辛いものです。

励ましていたような存在である過去の自分が、これからどんな未来で生きていくか分かっていながら、問いていたのです。

いくつも存在する彼女達の世界線は、大切な存在を未来の自分にあげ、自身がその立場に迫られたとき、今度は過去の自分にその大切な存在を欲しいという。この繰り返しだったのです。

大切な存在であるアカリは、他の世界線にいる過去の自分から未来の自分へと渡されます。

そうして、初めてこの本は終盤に入ります。



アカリが彩の選択肢から選んだ答えは二つ。

”マリサとこれからも一緒に居ること。”
”姉妹の皆と一緒に居ること。”

一つ目だけならば、マリサは精神世界でRとずっと一緒に居ればいいという未来だけで十分でした。

ですが、問題は二つ目です。

アカリ達の姉妹全員がまた一緒に居られるようになるのは、ほぼ不可能に近かったです。

ですが、彩の能力は相手に選択肢を与え、その未来を作ること。その為の能力なら備わっています。
只、それが容易に出来る訳では無いというだけです。


彩は、可能性として存在している世界を実際に存在させることで、マリサ達が一人しか存在していないという事実を無くしました。

沢山の世界線が実際に存在できれば、多少違かったとしても、人間の譲渡が出来ます。

鞠八がマリサという自身の人格を思い出し、自分がマリサだということを自覚した上で、確かに願っていた、姉妹達と一緒に居たいという気持ちを自発的にさせることが彩の狙いでした。

それが出来ない限り、彩はマリサだけの気持ちを無視して、他の姉妹の選択と願いを叶えることは出来なかったのです。

記憶を思い出すだけでは、過去と今のマリサの気持ちが、同じ状態とは限りません。

なので、記憶を思い出すだけでは、不十分でした。

だから、彩は試したのです。

辛い人生を経てでも、姉妹達と一緒に居たいと願うか。誰かを差し置いてでも、自分のその願いが確かだと証明出来るか。

彩は、マリサが自分自身に負けないくらいの気持ちを示してくれたとき、初めて皆の気持ちが合意したとみなし、その未来を用意していました。

その未来をあげることは簡単でしたが、その為の気持ちを示して欲しかったのです。

それらが、彩がアカリ達姉妹の選択した未来に置いたマリサの人生のレールでした。

それが成功し、マリサの気持ちも確かめられた時。初めてマリサが過去の自分に対して欲を言った時。皆の願いが叶ったのです。



マリサは過去の自分からアカリを譲ってもらい、ある場所に帰ります。

そこは、精神世界ですが、もう一つの現実と呼べるような世界でした。

帰った場所は、マリサが鞠八として生まれる前に住んでいた、つまり、姉妹全員で暮らしていた世界にある家でした。

その時、マリサは初めて鞠八として生きている現実と、マリサとして生きている現実の二つを生きることになりました。

この二つの場所を同時に生きる行為。
これが『5.5』と呼ばれるものなんです。

この本の題名ですね。


マリサとして生きている現実では、姉妹全員が揃っています。
亡くなっていたリンは、アカリの使っていた魔法”記憶を操る能力”によって、記憶にあったリンを具現化させ、また彩の力と合成させることにより、現界させることが出来ました。

ルミは帰ってきた姉達を見て、心から喜びます。

マリサだけは、半分の現実として生きていますが、それでもまた皆と一緒に居られるようなったという事実が、何よりも彼女の幸福でした。


彩がアカリの願いを叶えたのは、アカリの妹達皆が全く同じ願いを持っていたと分かったからです。

アカリもリンもマリサもルミも、全員が皆で一緒に居ることを望んでいました。

だから、協力しました。

これだけの強い気持ちがあれば、どんな現実が彼女等を襲っても、本気で応えてくれるような気がしたからです。






この本の最後は、マリサの行動で締め括られます。


マリサは、図書館に居ました。
そこで読書をしていたようです。

そして、マリサは、その本を読み終えた後、自分の持っていたノートにこう書きます。


”例えこの世界の全てが幻想だったとしても、私は大切な存在の居た古郷、つまり今私の居るこの場所を愛していたい。”


彼女が手にしていた本の題名は、『5.5』でした。





凄い長文になってしまったのですが、この本はここで本当に完結です。

私は、マリサが自分達の世界と生きていた人生そのものが物語と知った上でも、それでも自分等の居る場所を愛していたいと書いた彼女をを見て、その時、自分もこの本と全く無関係では無いように感じました。

確かにこれは只の本であって物語です。

でも、もしかしたら、私達の生きるこの世界も誰かが作った物語かもしれない。
そう思ったら、何だか何とも言えない気持ちになりました。

それでもと言った彼女の言葉を見て、彼女は遠回しに私達読者に対して、本物じゃないからと言って大切なものを見失わないでと、言っているような気がしてなりませんでした。


私は、この本を読んだ日から、自分の生きている世界は誰かが作った本の中の世界なんじゃないかと思って生きています。


私は元々、自分に自信がありませんでした。
何をしても不安になったりしていました。

ですが、この本を読んだ後は、自分の好きなことを自分の為にやりたいと思えました。

自分の生きているこの世界が何かの物語なら、私が少し好きなことをする位、世界はそれを受け止める覚悟を持っているような気がしたからです。

だから、今も自分は生きていられているように感じました。

なので、私はブログの説明欄にも記載してある通り、タルパ的な存在を作ってみたり、他にも好きなことを沢山してきました。

この本を読んだことで、自分の人生は自分の好きなことに大いに時間を使おうと思うようになりました。


皆さんは何か心に残った本はありますか?
本じゃなくても結構です。
誰かとの出会いや出来事。
その全てが、特別なものだったと思えるような何かはありましたか?

皆さんが自分の人生でその”何か”との出会いから気付きを得られることを願っています。

私も貴方も何れ死にます。

貴方が最後自分の人生に後悔しようが、しなかろうが、何か自分で考えて出した”答え”を作っておいてください。

その答えが貴方の人生が作る物語であり、道しるべだと思います。



ここまで読んでくださった方が居たら本当に感謝です!

私は、これからもブログを書いていくつもりですが、その投稿する日は不定期なので、一人でも私のブログに目をかけて下さった方が居るのなら、それ以上に嬉しいことはありません。


それでは、また次のブログで。